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裏切ろうとした男  作者: デギリ
9/12

悪夢の始まり

副隊長となったサイモンはレイラ姫護衛隊を鍛え上げた。


「そんなことで姫様をお守りできるか!」


「レイラ様になにかあれば我々は生きていられないぞ。緊張感を持て!」


若いサイモンに叱責される護衛隊は反発した。

「若僧が偉そうに」

「ハリー隊長に目をかけられているから抜擢されたのだろう」


サイモンはそんな声に対して、一人一人との模擬戦を行って圧倒して実力を見せつける。

同時に、隊での訓練後に、サイモンが行っている激しい鍛錬を見て、隊員も彼に心服していく。


そして、いよいよレイラの出発の時が来た。


レイラ姫にお付きの侍女達が馬車に乗る。

姫の護衛隊が50名に、公爵護衛隊から50名が加わり、合計100名の護衛がつく。


「トマス、サイモン、公爵様の命により、俺が警護の責任者となる。

大公様の居城まで共に行こうか」


ハリーが馬に乗ってやってきた。

久しぶりに三人が揃ったことで、サイモンは緊張がほぐれて笑顔となる。


トマスもホッとした顔つきだ。


レイラ姫の護衛はそれだけ緊張を強いるものだったことを、頼りになるハリーが来たことで実感する。


「姫様、では出発いたします」


トマスとサイモンがレイラの乗る豪奢な馬車に挨拶に行くと、「さっさと行きなさい」

との言葉が返ってきた。


通例ならば、侍女を通して、「よろしく頼む」くらいの返事だが、気が短いのか自身の言葉をかけられてトマスとサイモンは驚いた。


旅程は順調であった。

計画では公爵領を通り過ぎた後に一門や諸侯の領地を通り、大公領に到着する予定だ。


公爵領を抜けて、今晩は一門の男爵の屋敷に泊まる。

次期当主と噂されるレイラの機嫌を取る為に、男爵や夫人は大童である。


しかし、レイラは男爵邸で用意された料理に手をつけず、連れてきた料理人の料理を食べ、話しかける男爵達に一言二言返事すると、用意された部屋に引き上げた。


彼女にとって男爵如きは相手にするまでもないということを態度で示す。


男爵は、重臣となったハリー、さらにトマスやサイモンに執拗に酒を勧めるが、警護中は禁酒だと断られる。


何故か男爵はひどく残念そうであった。


翌朝、男爵達に挨拶をして、一行は出立する。


男爵がつけてくれた道案内が先頭に立つ。

彼は大街道を離れて、近道といって細道を案内する。


1時間ほど進んだところで、後方で馬に乗っていたハリーが前に出てきた。


「おい、どこに進んでいる。

ここは山が近く、人通りの少ないところ。

公爵姫様が通るような道ではない!」


「意外と早くバレたな。

ここへの案内は依頼主の要望だ」

と言い捨てて逃げようとする男の腕をハリーは斬り飛ばす。


「誰が姫様を狙ったのか吐け」


「ハリー隊長、周囲から兵が出現しています!」


周囲を監視していたサイモンが報告する。


「謀られたか。

あの兵数、500はいるぞ。

まさかあの男爵の仕業とは思えん。

誰の仕業だ?」


トマスの声にハリーは言う。


「犯人探しは後にしろ。

今は姫様を守って逃げることだ。

公爵領に戻るぞ」


ハリーは、数台の馬車を円形に集めて、バリケードとする。


「姫様、敵襲です。

その馬車は目立ちますので乗り換えてください」


ハリーの言葉に、すぐにレイラは馬車から出てきた。


「敵は誰じゃ」

はるかに多数の敵を見て、流石にレイラは震えていた。


「わかりません。公爵家や大公様を恨んでいる者は多数います。

このハリー、何があっても姫様は守り抜きますので、ご安心ください」


「お前達には多額の俸給を払っておる。

わたしを必ず守り抜け」


「かしこまりました」


レイラと侍女を真ん中の頑丈な馬車に移すと、すでに敵軍は接近していた。


「敵はブラックスネーク団。

金次第でなんでもやると有名な傭兵隊です」


サイモンは敵の旗から報告する。


「ちっ。あいつらはしつこいぞ。

金のために任務を果たそうと執拗に絡んでくる」


トマスが注意するとすぐに矢が飛んできた。


敵は5倍だが、こちらには王国一の強者と言われるハリー隊長がいる。

護衛兵はハリーがいれば負けることはないと士気は下がらない。


(こちらにはバリケードがある分有利だが、矢が尽きた後が問題だ)


姿を晒して前進する敵兵は矢を受けて次々と斃れる。

サイモンの訓練の甲斐があって、警護兵の腕は良かった。


しかしやがて矢が尽きる。

警護であり、戦支度ほどの矢数は持っていなかった。


あとは白兵戦である。


バリケードを乗り越えようとする敵兵を槍や剣で突いて死傷させる。


トマスとサイモンが手分けして兵を指揮し、ハリーは遊軍として、バリケードを乗り越えて敵兵の中に乗り込み、当たるを幸いに剣を振るった。


それでも敵兵の数は圧倒的に多い。

いくら死傷させ、血を流させても後から新手がやってきた。


こちらの兵も減っている。

サイモンは毎日共に訓練を重ねてきた仲間達が次々と斃れるのを見て、内心では泣き叫びたかった。


「トマス、サイモン、あと何名いる?」

ハリーが敵兵を倒して、戻ってきた。

その姿は血で真っ赤である。


「ざっと数えてあと30名というところです。

敵も半分以上倒しましたが、このままではジリ貧です」


トマスの返事にハリーは

「少しここで支えていろ。

姫様に話をしてくる」

と言い、レイラのいる馬車に向かった。


ハリーが中に入った後、その馬車からは悲鳴と物音が上がる。


悲痛な顔で出てきたハリーは後ろにレイラを背負い、しっかりと紐でくくりつけている。

彼女は下を向いて嗚咽していた。


そして三人の女騎士が出てきたが、彼女達は裸であった。


唖然とするサイモン達にハリーが告げる。


「馬車に火をかけ、目眩しとする。

その後、彼女達が敵の目を惹きつける。


その隙に俺たちは敵を突破する。

サイモン、先陣を任せたぞ。

公爵領に向かいひたすら前に進め!


足手纏いになると他の侍女達は自決した。

その志を生かすため、我らは必ず姫様に生還いただく!」


「待て!馬車の中で考えていた。

この襲撃は父が首謀者じゃ。

公爵領に戻ればそのまま殺される。

大公領に向かえ。

おじいさまの力を借りて、父やその手先を殺してやる」


ハリーの言葉に、レイラ姫が予想外の爆弾発言をした。

狼狽えるハリー達を見て、レイラは冷笑する。


「父はよほどわたしが憎いようだ。

自分の手で殺したと分かれば祖父の逆鱗に触れる。

賊の仕業に見せかけるために、お前達が生贄にされたようだ。

普通であれば、股肱の臣、王からも認められた武人のハリーを自分で切り捨てるなど考えまい。


あのクソオヤジめ。

わたしの家族同然の侍女達を殺すとは、絶対に許さない。


お前達、何があってもわたしを生かして大公の城まで連れて行け!」


レイラの血を吐くような言葉で、一同は喝を入れられた。


ハリーは目が覚めたような顔で言う。


「さすがは姫様。

おそらくその通りでしょう。

我らの使命は姫様を守ること。

では、大公領に向かいます。


お前達、姫様の話を聞いたな。

同僚、仲間の仇を討つためにも姫様には無事で戻ってもらわねばならん。

命に代えても姫様を守れ!」



そう言うと、ハリーは馬車に火を放つ。

乾燥していた車体は燃え、馬が放たれて敵を混乱させる。


「敵の欺瞞だ!

落ち着け!」


敵軍の指揮官の声がする。


その時、女騎士は敵兵の前に出ていき、淫らなポーズを取った。


「なんだ、あの女達は!」

「裸の女だぞ!」


戦場に似つかわしくない裸の若い女に見惚れて、敵の動きが止まった。

サイモンは燃える馬車から飛び出し、敵兵の中に斬り込んだ。


目指すのは敵軍の向こうにある山岳である。

サイモンは後続がついてきていると信じてひたすらに敵兵を斬りまくった。


「小僧、いい腕だが、ここまでだ」

馬上から指揮官らしい男が斬りつけてきた。


(厄介な)

サイモンがそう思うが、後ろからトマスが飛び出してきた。


「コイツは俺が片付ける。

お前は前を切り開け!」


無我夢中で剣を振るって進み続けると、ついに敵がいなくなった。


はじめて後方を振り向くと、ハリーとトマス、それに十名程度の兵しかいない。


「何故敵兵は追撃してこないのですか?」

サイモンの問いにハリーは答える。


「馬上で指揮をとっている男を見つけたので、矢を放って胸を射た。

おそらく奴が総指揮官。

それが死んだので混乱しているのだろう」


女騎士のことはあえて聞かない。

辱めを受けたのか自害したのかどちらかしかないのだから。


「何を無駄口を叩いている!

さっさと大公領に向かうぞ。

そして奴らを皆殺しにしてやる」


ハリーの背中からレイラの激しい声がした。

それを聞き、一行は道なき山岳の中に分け入る。





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― 新着の感想 ―
しゃあ! よくぞ罠を食い破ってくれた。埋伏の毒(家門のためなら死んでもいい譜代家臣)を用意できなかったのがウヌ(公爵)の不覚よ。 ここからどうなるのか楽しみ。
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