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裏切ろうとした男  作者: デギリ
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公爵家の内情

残党の掃討は公爵軍に任せて、ハリー達は早々に城に帰り、公爵の護衛などの本業に戻る。


ハリーはサイモンに対して、公爵が難しい問題について早期解決を求める時に、しばしばハリーに命じて部隊を率いさせることがあると語る。


それだけ公爵の信任が厚いのだろうとサイモンは感心する。


傭兵達を討伐した恩賞が行われる。

サイモンは敵の首領を討ち取った功を認められ、多額の褒美を与えられた。


それとともに、一人前と認められたのか、公爵家の一族の護衛任務も任されるようになる。


ある晩、サイモンは、トマスとともにハリーの家に呼ばれた。


そこは広い屋敷であり、明るい奥方と幼い男の子と女の子が迎えてくれた。


「トマスさんにミリーさん、それにサイモンさん、よくいらっしゃいました。

ハリーはあなた方といる時が一番楽しいようですよ」


ハリーの奥方はニーナと名乗り、笑顔で挨拶する。


トマスは可愛らしい女性を伴ってきて、サイモンに婚約者だと紹介した。


「ニーナさんも、俺の婚約者のミリーもグレッグ様が紹介してくれたんだ。

ニーナさんは子爵家、ミリーは男爵家の出身だぞ。

サイモン、お前も手柄を立てて認められれば名門で美人の奥さんを貰えるぞ」


トマスはニコニコしながら話す。


「子爵と言っても私は次女で行き先なかったから、ハリーみたいな出世頭の旦那に貰ってもらえてよかったわ」


ニーナが笑いながら話す。


「サイモン君ね。

トマスから弟のようなものだと話を聞いているわ。

じゃあわたしのことは姉だと思ってね。


わたしも男爵家の三女よ。

嫁ぎ先もなく、公爵家で働いていたらトマスに縁づくことになったの」


微笑んでいたミリーは突然語気を改めてトマスの方を向く。


「ところで、トマス、あなた、サイモン君を連れて娼館に行ったって聞いたけど、もうわたしという婚約者もいるのに、まさかそんなことしてないわよね」


微笑んでいる顔は変わらないが、ミリーの背後からは黒いオーラが出ているようにサイモンには思えた。


「いや、サイモンが経験ないと言うから、娼館の前まで行っただけで中には入っていないよ」


どんな相手と戦っても平気なトマスが汗をダラダラ流している。


「ふーん、じゃあ侍女仲間の兄弟が娼館の部屋で見たのはトマスじゃなかったのね。

娼館なんて行くことないんだから、これから貯金と給与はわたしが預かるね。

飲みに行く時はその都度払ってあげる」


「はい・・」

トマスはガックリした。


それをひとしきり笑った後、ハリーは、飯の前に少し仕事の話をするからと別室に二人を連れて行く。


「サイモンもこれから護衛任務に就くのなら、公爵家の内情を知っておいた方が良いだろう」


ハリーがそう切り出すと、話を始めた。


「公爵家のメンバーは当主グレッグ様に、大公家から嫁いできた夫人のイリーナ様、それにご令嬢のレイラ様だ。

そして、側室のマルタ様とご子息のジョレス様がおられる」


「ご世継ぎはジョレス様ですか」


王国では男女とも当主となれるが、基本は男が継ぐ。サイモンは普通の発想で尋ねた。


「いや、そうではない。

イリーナ様の実家は今の王陛下の後ろ盾である大公家。

大公は自分の孫を当主とする気でいる。


しかし、グレッグ様は側室のマルタ様を愛していて、ジョレス様を世継ぎに望んでいるようだ。

だから、まだ世継ぎは決められていない」


ハリーは苦い顔をしてそう言うのに、トマスが言葉を返す。


「正室の娘か側室の息子か、どちらでも世継ぎにすることは可能。

しかし、実力者の大公がレイラ様を望んでいればそれを断ることは難しいでしょう」


「そうだな。

サイモンは知らんだろうが、公爵様は王位争いの時に王兄に味方し、政争で敗れた。

取り潰しか、当主の交代かというところを、大公の口利きで逃れたのだ。

その条件がイリーナ様との婚姻。


実はイリーナ様は愛人がいるという醜聞が広がり、嫁ぎ先がなかったのを大公が押し込んできたのだ。

その婚姻はイリーナ様の子供が後を継ぐのが前提だ」


「そういう事情ならばレイラ様があっさり世継ぎになりそうですが」


サイモンが訊ねると、トマスが難しい顔をして答える。


「イリーナ様の行状が悪くて、公爵様が嫌がっているのだ」


「トマス、いらぬことを言うな。

まあいい。サイモンも知ってもいいだろう。


イリーナ様はレイラ様を産んだ後は仕事は済んだとばかりに別荘に引きこもり、愛人と過ごしている。


公爵様が大公にその話をしたところ、父の大公はそれを聞いて激怒して愛人の指を切り落としたが、イリーナ様が自害すると脅したため、それ以上は手出しできずに放置されている。


この城で奥方と呼ばれているのは側室のマルタ様だ」


ハリーは、貴族の政略結婚にはありがちだがなと付け加える。


「では、レイラ様も別荘ですか」


「いや、この城におられる。

公爵家だけでなく、大公家からも家人が来ていて、多くの者が仕えている。


サイモン、レイラ様にはなるべく近づくな。

まだ少女ながら美貌と明晰な才知を持っておられるが、仕える者への要求が厳しい。

その環境は同情するが、難しいお人だ」


サイモンは、レイラの心情を考えてみた。

母には捨てられ、父には愛情をかけられない。

いくら多くの侍女や家人がいてもさぞや寂しかろう。


「公爵家の内情は今言ったところだ。

無論、他言無用。

これからお仕えする時に頭に入れておけ」


ハリーの言葉で内緒話は終わる。

ドアを開けると美味しそうな匂いが漂ってきた。


食卓では子供が待ちかねている。

ハリー達が席に座ると賑やかな食事が始まった。


父のようなハリーの家庭と兄代わりのトマスのカップルは同席するサイモンに温かい気持ちをもたらした。


「サイモン、一人であれば功名や意地のために死んでも構わないと思うが、家族ができるとなんとか生きて帰らねばならないと思うようになる。


家を追い出された俺たちは自分の守る家を作ることが大切だ。

お前もなるべく早く家庭を持つがいい」


酒を飲んだハリーが説教する。


「僕はまず手柄を挙げて、出世するところからです」


サイモンの言葉にニーナが真面目な顔で口を出した。


「サイモンくん、死んではおしまい。

ハリーにもいつも言っているわ。

恥をかいても泥まみれになっても生きていれば挽回もできるの。

私たちは待っていることしかできない。

どうか自分の命を大事にして」


そんな言葉は親からもかけられたことはなかった。

サイモンはその思いやりのある言葉に知らぬ間に涙を流して感謝していた。


サイモンのその様子を周りは温かく見守っていた。

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