序
まず最初に断っておくが、俺「三峰貴雪」は「超」現実的な思考の持ち主だ。
と言っても、堅実だとか夢や理想が無いとか、そういう意味じゃない。「目で見た物しか信じない」という、そういう意味だ。
だから神様なんてモンはいないし、幽霊や妖怪なんざ、ありえない。そう、ずっと思ってきた。
その割には、不本意ながらも「その手の話」はやたらと耳に入ってくるんだよな。……なんかそういう環境なのか、流行りみたいなモンがあるのか……ああ、そうそう、昔っからの腐れ縁の奴がその手の話がすげー好きで、なおかつ人に話したがるもんだから、俺がターゲットになってた、ってのもあるかな。
やれ、あっちの池には河童が住んでいるだの、やれ、そっちの廃屋で足の無いじーさんが浮いてただの……情報だけはやたら吹き込まれるんだよな。まあその度に俺は「馬鹿か」と一笑。……我ながらひどい態度だった。よくそれで友情にヒビが入らないもんだ、腐れ縁って強いな。
とにかくガキの頃からそんな性格だったから相当可愛げの無いガキだったに違いない。大人って、ある時期やたらガキにその手の話を聞かせて怖がらせようとするだろ? ……違う? うーん……まあ、少なくとも俺はそうだったな。
で、いざその手の話をされても、当然俺は無反応。むしろ冷めた目で見てたから、そりゃ話した方だって面白くない。むしろ、俺の視線の冷たさにドン引きだろう。
中にはムキになってどっから仕入れてきたんだか知らねーけど、軽いのから、きっついグロ話とか、ありとあらゆる恐怖物語を俺に語ってきたおっさんもいたけど、終いにはごめんなさい状態だったからな。
……今思えばちょっと悪いことしたかな。嘘でも怖がっときゃ良かったか? ……まあ、俺のねーちゃんあたりは、俺の反応を一回見ただけで苛ついたのか即パワーボムかましてきやがったが……。
とはいえ、見えないモンを信じる方がどうかしている。
試してみては、いるんだよ、何度か。実際「見た」って言ってる奴にその現場へ連れてってもらったり、いかにも「出そう」な廃屋に探検しに行ったり。でも、結果は収穫ゼロ。せいぜい「見る」つったって野良猫かネズミ程度のモンで、怪奇現象の「か」の字すら出てこない……。
別に期待してた、ってわけでもないけど、これだけ結果が出ないとある意味、清々しい。
まぁ実生活に特に関係ないから、普段はそんなことなんかどーでもいーや、と思って生きてきた。
そんな俺だが、ある出来事のせいで、その考え方を改めなくてはならなくなった。
それが「たまも」との出会いだった。
「出会い」……と言うより「拾ってきた」と言った方が正しいかもしれない。……なにせ、成り形は人の姿でも、たまもは「猫」だったのだから。