第1章 山の老人
黄金色の秋が、広い野全体をおおっていた。
ケルビノは、その林のそばの家で、ぼんやりと物思いにふけっていた。
彼は数日前突然死んでしまった、たった一人の妹のことを考えていたのだ。
ずっと以前からある、不治の病が彼女のか細い体にとりついていたのだったから、
いずれ死がやってくることはわかってはいた。
しかしケルビノは妹が死んでみて、改めて、自分が天涯孤独であることを思い知るのだった。
遠く見渡すと山には白い雲が、ひとつかかり、またすぐ、かなたへ流れていく。
後は一面の、青く澄んだ空だった。
風は少し冷たく、冬のやがて来ることを思わせるものでもあった。
すると、山の老人が、向こうからやってくるのが、見えた。
ケルビノはそんなことにも、気にかけず、ただ、青い空を眺めて放心していた。
老人はいつの間にか、すぐ近くに立っていた。
「何を考えているんだね?夏はとっくに過ぎて秋も深まっているというのに。」
ケルビノは上の空だった。というより、気持ちが散逸してしまって自分でもまとめることができなかったのだ。
山の老人は、ケルビノの意識が、すでに遠く、死の国にまで、さまよって行ってしまったのを察すると、そっとこう、ケルビノに呟いた。
「山へ行きなされ。山は今頃、秋の実りを迎えているだろうよ。
もしかしたらお前のその放心は、そこでだけ、安らぎを得られるかもしれないのだからな。」
ケルビノのうつろは心にその老人の声は大鐘のように、鳴り響いていた。
「そうだ、僕は山へ行こう」
そんな思いがケルビノの心の中にふつふつとわきあがってくるのだった。
つづく。




