ハーツホーン家
薬材商ギルドでの仕事自体は簡単だった。
ただひたすら治癒魔法を薬草に付与していくだけ。
どうやら前日が女子修道院で育てている薬草の納品日だったらしく、まだ乾燥されていない薬草が沢山ある。
薬材商ギルドでは薬草園を所持する修道院や孤児院で薬草を育てさせて二週間おきに納品させているので、修道院と孤児院の納品週をずらす事で毎週大量の薬草を仕入れている。
と同時に人に手で栽培する技術が確立してない薬草に関しては冒険者ギルドに採取依頼を出している。
薬材商ギルド自体も薬草園を所持。
高い栽培技術が必要な薬草を育てている。
それらを乾燥させ、粉砕。
薬術師ギルドや薬術師個人へ卸しているのが薬材商ギルド。
「薬草栽培技術は薬術師は持たないものなのか?」
という点で謎だったのだが…
この世界の薬術師は外科手術を行わない内科専門の医術師のような位置付けにある。
と同時に社会的地位も雇用コストも医術師よりも低く需要が高い。
薬草栽培などできなくても仕事に困らないのだ。
私が出勤した日は前日に仕入れられた薬草が沢山あるので、種類ごとに分けられているそれらへ治癒効果を付与していくだけ。
量が沢山あるものの
「出力制御」
を使えば一度で済みそうではある。
だが普通は
「スキルにそこまでの便利機能は付いてない」
だろうと思う。
なので私は小分けされたものに定量魔力消費の
「傷治癒」
「浄化」
「傷病回復」
「状態異常回復」
「解毒」
のいずれかを、薬草の種類に応じて付与していった。
小分けされた全ての薬草に
「傷治癒」
「浄化」
「傷病回復」
「状態異常回復」
「解毒」
の全てを付与しても良いのかも知れないが…エアリーマスの冒険者ギルドの診療室と違い、ここは付与すべき対象の量が多い。
魔力が足りたくなるかも知れないし、魔力は夜寝る前のバックオーダー以外では大量消費したくはない。
なので知らない薬草に関しては鑑定してから、どの魔法を付与するか決めている。
接骨効果がある薬草には
「障害矯正」
を付与したり
体力回復薬の材料には
「適正化」
を付与したり
大怪我の際に使われる麻痺薬の材料には
「正常化」
を付与したりした。
今回の仕事は名前も効果も分からない薬草が結構あったので
「鑑定してからの付与」
になったが…
次回は鑑定しなければ分からない種類が減っている筈なので、今回よりは効率が良くなる筈。
それでも
(出力を大きくしてないのに量が多い分、回数も多いし、結構な量の魔力を消費しそうだ…)
とは思った。
そのうちに昼の休憩時間になったので
「お弁当を持参していらっしゃるのなら休憩室でお食べください。外で食べるのなら近場の食堂をご利用ください。
休憩の時間制限があるのをよく理解してくれてるので近場の食堂は料理を出してくれるまでの時間が短いです」
と言われて、近場の食堂まで出向く事にした。
教えられていた通り料理が出てくるのが早い。
(作り置きしてたのか?)
と思うようなタイミングだ。
味はイマイチ。
だが値段は良心的。先払い。
客は多いが回転率が良いので、そこまで混まない。
(こういう経営もありなんだろうな)
と素直に感心した。
食べ終わったので
(ギルド会館へ戻ろう)
と思い席を立ったところーー
店の入り口に立っていた男が2名
私の姿を見るなり近付いて来た…。
(ああ…こういうタイミングで来るのか…)
とウンザリしたが無表情を保つ…。
休憩時間はあと30分以上ある。
「お前に会うように言われて来たんだが…」
と仏頂面で声を掛けてきた男はドミニク・ハーツホーン。
モンティス・ハーツホーンの話では騎士団をクビになったとかいう話だったが…表情を見るに全く反省とかはしていない様子。
「…お前に謝罪しないと薬材商ギルドで雇ってくれないっていうから、お前を探してたんだが、なんでギルド会館の中で待ってないんだ」
と筋違いの文句を言ってきた。
もう一人のほうはおそらく目を潰されてた男。
「…俺も暇じゃないんだが…。何故、金もらって仕事でスキル使ってるヤツにいちいち礼を言わなきゃならないのか納得はできないが、『礼を言っておけ』という命令なんで来た。
こちらが訪ねてくるのを知らされてた筈なのに、わざわざギルド会館から出て外で食事を摂るという事は『礼を受け取りたくない』という意思表示なのか?」
とイヤミな物言いをしている。
私のほうでもムカついたので
「スミマセンが、あなたがたはどなたですか?お名前も知りませんし、知人でもないと思うので、話しかけて来ないでくださいませんか?
迷惑です。しつこいなら警備兵を呼んでもらいますよ?」
と言ってやったところ
聞き耳を立ててたらしい周りの者達が
「お、知り合いじゃないのか?」
「ナンパにしても態度の悪い引っ掛け方だなぁ」
「男女の駆け引きも分からない野暮な野郎どもってのはこれだから」
と男二人を貶し出した。
ハーツホーン2名は
「何言ってんだ?お前は?」
「ついこの間会っただろ?」
と声を裏返らせたが
「は?スミマセンが、ちょっと通りすがりに目が合ったくらいで『この前会った』と言い張る男性がゴロゴロ湧いてくるので、名前も名乗らない『顔だけ見た事の有る』という間柄の人達の事を、いちいち記憶に残してません。
キリがないんですよ。自意識過剰で『俺のことを覚えてるのが当たり前だ』とか勘違いしてる人達の相手をして時間を取られてしまうと」
と言ってやったところ
「お嬢ちゃん!俺もこの前会っただろ?覚えてるだろ?」
「俺も俺も!」
「この前、目が合った時に手を振っただろ?振り返しちゃくれなかったみたいだが」
と外野も口出ししだした。
「うるさいんだよ!関係ないヤツらは引っ込んでろ!」
ドミニク・ハーツホーンがキレたが
「貴方も私の人生に縁もゆかりもない、名も知らぬ赤の他人です。お引き取りください。…本当に警備兵を呼んでもらいますよ。…女将さん!」
と私は構わず食堂の女将に声を掛けた。
「余計な事を言うな!」
咄嗟にドミニクの手が出て
私の髪を掴もうとした時点でーー
近くにいた冒険者風の男がドミニクの手を掴んだ。
「何しやがる…」
ドスの効いた低音が響く…。
「女将!警備兵を呼んでくれ!」
「ナンパに失敗して女に暴力振るおうとするなんざマジでカスだな!」
「だいたい上から目線の俺様キャラでナンパに成功するって思う方が頭オカシイんだよ!」
「こんなクズが居るとメシが不味くなるぜ!業務妨害だろ!とっとと追い出せ!」
客が騒ぎだしたこともあり、女将は店員へと指示。
店員は顔色を悪くして
ギルド会館前に居る警備兵を呼びに駆けて行った…。
私はすかさず
(…ここはバカ2人に名乗らせないように気をつけよう)
と思いながら
懐から金貨を取り出し
「…ゴロツキに絡まれてる所を助けていただいて、皆様、有り難うございます。
女将さん、ご迷惑掛けてスミマセン。これで店内のお客さん達に何か奢らせてください」
と言って女将の手に金貨を押し付け
「急ぎますので、私はこれで」
と急いで店を出た。
バカ2人は
「ふざけるな!」
「俺を誰だと思ってるんだ!」
だのと怒鳴っている。
流石に警備兵が来れば名前を訊かれる筈。
そこでヤツらが名前を名乗れば
「ハーツホーン支部長が会わせようとしていた2人組だ」
ということを
「気付かないフリで通す」
ことはできなくなる。
名前さえ聞かなければ
「気付きませんでした」
と言い張ればそれで済む。
なので連中が名乗る前に逃げておくに限る。
(助けてくれた人達の顔くらいは覚えておこう)
と思って冒険者達を振り返るとーー
私のほうを見てウインクしたり、手を振ってたりしてたので、思わず手を振り返して
「有り難うございました!」
と聞こえるように大声で感謝を伝えニッコリ微笑んだ…。




