間話
(ドミニクには困ったものだ…)
ラッセル・サックウェルは冒険者ギルドへ戻り、執務室の椅子に腰掛けるなり頭痛がしてこめかみを押さえた。
制御の効かない暴走気味の人材に関する悩みは、長年面識のある相手であればあるほど深くなる。
ラッセルが溜息を吐いていると執務室のドアがノックされて
「ラッセルおじさん、居ますか?」
と声がした。
「ああ、いるぞ。入れ」
と答えると直ぐに従兄弟の子であるリーヴァイ・サックウェルが入室してきた。
Bランクダンジョンから戻ってきたようだ。
「聞きましたよ。ドミニクのやつがまたやらかしたんですって?」
他人事のような表情だ…。
(ことの重大さが分かってないんだろうな…)
「…アレには困ったもんだ。流石にアレを処罰せずにいたら貴重な【治癒】スキル持ちに逃げられるだろうな」
「でも、アイツを騎士団から追い出しても、どうせ薬材商ギルドの方で受け皿になるんでしょ?」
「多分な。だがそうなるとマリーは薬材商ギルドとの契約を切るかも知れんな」
「…そんなに怒らせたんだ?」
「いや、マリーは感情を剥き出しにしてキレたりするタイプじゃない。もっと冷静に『関わりたくない』と思った相手との接点を切っていく感じの子だ」
「…ふう〜ん…」
リーヴァイ・サックウェルは【2倍の加護】持ちの冒険者だ。
ハートリーの国立学院へ通った後、冒険者になっている。
ハートフィールド公爵派の若者はドミニクやヤーノルドのように騎士学校へ通った後、騎士団へ入団する者も多い。
そんな中でリーヴァイは冒険者の道へ進んだ。
ラッセルは妻と息子を亡くしている。
実子を亡くした後はリーヴァイを息子がわりに可愛がってきた。
スキルが戦闘職向きな事もありリーヴァイはラッセルの後釜と目されている。
ヤーノルドと共にサックウェル家の若手の中では期待がかけられているのだ。
一方でーー
マリーに何かと突っかかった男はハーツホーン子爵の甥に当たる男。
ドミニク・ハーツホーン。
派閥内の古参貴族の近縁という事もあり多少調子に乗ってる面もある。
基本的に騎士団は
「ホワイト王国民であること」
「訓練をこなせること」
の2点が備わっていれば入団はできる。
ただ出世に関しては平民や外様の貴族家の者達には門扉が閉ざされている。
だからこそ優遇されて出世ルートに乗れる者達は姿勢を正していなければならないのだが…
ドミニクは愚か過ぎる…。
普段はお調子者。
目上の者達に対しては愛嬌がある。
だが一度何か不測の事態に陥ってパニックになると、立場の弱い相手に言いがかりをつけて暴力的に振る舞う。
普段の愛嬌を評価して尻拭いしてやろうにも尻拭いしきれなくなる。
ドミニクはスキル授与式以前の未成年時には冒険者をしていた。
15歳を過ぎてスキル授与式で【一部能力向上(中)】を授かったので、当人の意思を尊重して騎士学校へ入学。卒業後に騎士団入りが認められたものの…。
「…アイツは騎士には向かないよ…」
ラッセルがそう言うと
「…ドミニクは薬材商ギルドの職員も向かないと思いますよ?」
とリーヴァイが苦笑してツッコミを入れた…。




