医院
(…困ったな。食べる物食べたら出す物出したくなった…)
「トイレ何処だろう…」
私は誰もいない廊下へ出て、トイレを探した。
ドアに「トイレ」と書いてあれば良いが、そうじゃないと見知らぬ建物の中を勝手にウロついてドアを開けて家捜しして回ってる事になってしまう。
(このままトイレが分からないなら、建物から出て宿屋に戻るか?或いは路地裏で「インビジブル」してから用を足すか?…どっちも情けないな…)
「ってか、なんで私はこんな場所に寝かされてたんだろう?ここに運び込んだ人って随分と不親切だよな…」
と思わず不満が漏れたが
「起きたのか?」
と急に声を掛けられてギョッとした。
冒険者ギルドのギルマス、ラッセル・サックウェルだ。
「あの、トイレ、何処か分かりますか?」
と私がおはようございますの挨拶もせずに訊くと
「ここだ」
と、すぐ側のドアを指差して教えてくれた。
「そうなんですね。教えてくださって有り難うございます」
(どうせ汚いんだろうな…)
と思いながらトイレのドアを開けると、やっぱり汚かった…。
(この世界の人達って「こんなトイレじゃ病気になるんじゃないか」とか心配になったりしないのかな?)
と毎度お馴染みの心配をして、真っ先に「ピュリフィケーション」で殺菌した。
「クリーンアップ」までしてしまうと、後でトイレに入った人が異常に綺麗になってるのに驚いて何事かと思ってしまうだろうから、とりあえず「ピュリフィケーション」だけ掛けてから用を足した。
(スッキリした…)
とホッとしながらトイレを出ると
ドアのすぐ前にギルマスが居たので
思わずギョッとして
(デリカシーとか持ち合わせない人なんだろうな…)
と思っていると
「昨日は急に倒れてたが、何処か具合が悪いのか?」
と心配されて顔を覗き込まれた…。
(…悪い人ではないんだろう…)
「…その事については一度誰かに訊きたいと思ってたんですが。…スキルを連発して使い過ぎると生命力に近いエネルギーが切れてフラフラになる、とか、そういう現象が起こるのは私だけなんでしょうか?」
私が疑問に思った事を率直に尋ねると
「『スキルを連発して使い過ぎると生命力に近いエネルギーが切れてフラフラになる』か…。
そういう事もあるのかも知れないが、俺や俺の周りの者達だと選択起動型スキルを連発して使い過ぎると『スキルが不発で終わる』んだ。
なので『スキルが不発で終わる』時が『スキルを使える限界』だ。
それで倒れるものはいない」
との事。
「それはまた…」
他の人達の選択発動型スキルはエネルギー切れにならずに済むように自動ストッパー機能のようなものが付いているらしい。
そういった自動ストッパー機能が付いてたほうが
「我が身を削ってスキルを使う」
ような事ができない分、良いのかも知れない…。
「…どうやらお前の場合は『スキルが不発で終わる』ような形での限界ではなく『エネルギー切れでフラフラになる』形で限界が訪れるようだな。
それは初めに申告しておいて欲しかった。急に倒れられたんで心配したぞ」
「私も他の人達の限界が自分とは違うって知らなかったんですよ。他の人達がスキルが不発で終わるような場面を見た事も無かったし、自分が人前でスキルを使い過ぎてぶっ倒れるような事も無かったし、自分が他の人達と違う所があると知らなければ申告もできませんて」
「まぁ、そうなんだろうな」
「それより、ここ、何処なんですか?」
「町の北門に近い医院だ」
「…私、入院患者のベッドを占領してたんですか?」
「いや、お前が借りたのは宿直室だ。宿直する筈だった見習い医術師は診療室の診療台で寝てる。そろそろ起きて来るだろうから、ベッドを譲ってもらった礼を言っておくと良い」
「分かりました」
********************
ギルマスと共に見習い医術師の元へ出向き、ベッドを借りたお礼を言うと…
話題は当然、前日に運び込まれた欠損患者の話になった。
(そんなに何人もいるはずがない)
と思いたい希望的観測が無意識のうちに働いていたらしく私は
(1人だろう)
と思っていたが患者は3人。
1人目は剣を握っていた拳を手首で切り落とされている。
2人目は頭部を斬られて右目が潰れている。
3人目は足が両足共に膝から下が潰れている。
3人目は複雑骨折を治せる医療技術はない事もあり医療行為として切断、断面を焼いて止血している。
(うわぁ〜っ…)
と内心で逃げ出したくなりながらも
「生命の危険があるのはどなたですか?」
と訊くには訊く。
「やはり両足を切断した人ですね…。もしかしたら、こうしてる間にも亡くなってるかも…」
と言われて
「様子を見ても大丈夫ですか?」
という言葉が口を突いて出た…。
(…両足か…。タイル何個分だろう…。というか、魔力足りるかな?…)
「正常化」でどこまで肉体の欠損修復できるか知りたい!という思いはあるが、野良猫とか、人間以外の命で先ずは気軽に実験しておきたかった…。
患者の顔色は死人のそれだ。
微かに息が口から漏れてるので辛うじて生きてるのが分かる状態…。
私は思わずギルマスを見遣って
「…あの、この人にスキルを使うと、もしかしたら完治にもっていく前に倒れるかも?知れません。一応頑張ってみますが、治せなかった場合、後の処理を宜しくお願いします」
と事後処理の丸投げ宣言をしておき
「了解した…」
と良い返事を頂いた所で患者に向き直る。
包帯を解いてから、肉片と化している切断した足を並べて
(ああ…。夏場だから既に腐敗が始まってる匂いまでしてる)
と気が付いた。
先に「浄化」で殺菌してから
(いざ、「正常化」「出力制御」…)
を掛ける…。
馬鹿みたいに自分の中から魔力が抜けていく…。
(ああ…、でも腐敗が始まってるとは言え、「モノ」が残ってた分、魔力の節約にはなってる…)
複雑に割れたタイルの破片があるべき場所へ収まって、欠けた部品さえ魔力で再現されて修復が起きていた事から「正常化」の万能性は把握していたが…やはり万能だ。
複雑骨折して肉片と化していた足が修復され切断面が繋がっていく…。
(まるで手品だ…)
と自分でもそれが奇異な光景だと思ってしまう…。
だが
「奇跡だ」
と呼ぶには施術者である私には信仰心が欠けている。
奇跡に立ち会ったギルマスのラッセル・サックウェルが
「…神よ…」
と呟いたのが聞こえたが…
(いや、そういう存在はいないだろうから…)
と内心でツッコんでしまった…。
(だけど「誰が私を転生させた?」かを考えると…やはり居るのか?…)
ーーフゥーッと息を吐きながら、最重症者の治療完了を確認した。
自分の魔力残量もチェック。
やはり「モノ」が残ってた点が大きい。
「…手首を切り落とされた患者さんのほうは、切られた拳側の手は残ってますか?」
と確認しておく。
ラッセルが頷くと
「それじゃ、肉が腐る前に繋げに行きましょうか」
と告げて病室への案内を頼んだ…。
そこでも
「浄化」
「正常化」
「出力制御」
を使用。
無事に2人目を治療。
その時点で残量37%。
無理をすればまた倒れる可能性のある数値。
(一眠りすれば目を斬られた患者の治癒もできるだろう…)
と思ったので
「寝ます」
と告げて宿直室へ戻った。
内側から鍵ができないので、食べ物はブランケットを頭からかぶった状態で出して食べた。
その後、スリープ魔法で時間指定して4時間後に起きるように指定。
(寝てる間に誰かが乱暴に起こそうとするかも知れない)
と思ったので
(こういう時こそ使うべきだろう)
とアヴォイダンス魔法を付与した指輪をはめて、寝てる間にもアヴォイダンスが稼働し続けるようにしておいた。
そして一眠りーー。
目が覚めると昼過ぎになっていて
廊下に出ると
「お前!いつまで寝てやがるんだ!」
と見知らぬ騎士に怒鳴られた。
何故か拳を振り上げて激昂している。
(あっ!殴られる!)
と思ったがアヴォイダンス効果は万能で騎士の拳は空振りした。
「どうした!」
とギルマスのラッセル・サックウェルがやって来てくれたので
「この人、何なんですか?」
と不審な騎士を指差して尋ねた。
よく見ると前日テント前で私を怒鳴り付けて掴み掛かろうとしてきた男だ。
(その時もアヴォイダンスで阻まれただろうが)
「…何故、お前が院内に居る?非番でもない筈だ。任務放棄して民間人へ暴力か?懲戒免職ものだな。ちゃんと責任者には報告するし、我が身が無事でいられるだなどとは思わない事だ」
とラッセルが告げると
「ーー俺は!「はい、そこまで」」
と別の誰かが口を挟んできた。
副団長のレヴィン・サックウェルだ。
「ギルマスの言うように、民間人である冒険者への暴力は見過ごせない。一緒に来てもらおう」
「いや、俺は、この女に一言文句を言ってやらない事には気が済まないからーー」
「黙れ」
暴力騎士の言葉をラッセルが遮って、何処からか出した縄で捕縛する。
余りの手際の鮮やかさに私もギョッとした。
(このギルマス、【捕縛術】のスキル?でも持ってるとか?!)
と気にかかり
ラッセルを鑑定しようと思ったが
「マリーは診療室前の廊下の待合所で待ってろ。コイツとは少々話がある」
とラッセルが言い出して、追い払われる事になった。
診療室の廊下の待合所…。
(長椅子が置かれてるコーナーだな…)
と分かったし
(今はたかが鑑定にせよ魔力を少しでも無駄遣いしたくない…)
と思った事もあり、トボトボと指定の場所まで向かったのだった…。




