表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/220

フィランダー視点:9

挿絵(By みてみん)


我が国の異端審問庁ーー。


教会関係の組織なので大教会にあると思われているが…

敵に狙われやすい事もあり

本拠地はひっそりと騎士団本部と同じ建物の中に在る。


俺が正式に国軍総督の地位に就き騎士団本部に出勤するようになって、初めて前任者から明かされた事実でもある…。


(それまでは「あの一画は一体何に使われているのだろう?」と疑問に思いつつも、質問したところで誰も答えてくれなかったので何も知らなかった…)


世間的なイメージでは

「異端審問庁は奇異なものを何でも異端だと決めつけて排除する恐ろしい組織だ」

となっているが…


以前ダリウスも言っていたように

「異端審問庁が恐ろしい顔を見せるのは異教徒の侵略者のみ」

だ。本来ならば。


東部の異端審問所が異常な状態になってる事の始末は異端審問庁本部が責任を持って粛正する旨を示している。

それを知った東部の異端審問所は異邦勢力と共に本部へと牙を剥き、長官はじめとする幹部らへ暗殺を仕掛けて来ているというのだから、その売国ぶりには呆れる。



「…そちらの組織には【気配察知】スキル、【気配隠蔽】スキルを持ってる人が多いんですね…」

俺は思わず正直な感想を異端審問庁長官に漏らした。


「…ええ。異教徒も売国奴も馬鹿ではないので、国を堕とすために狙うべき相手として王家同様に異端審問庁を狙ってきます。

四六時中護衛騎士に護られる王族と違い、異端審問官は他人の気配にも自分の気配にも気を配れるようにならないと生き残れないのです」

と言われた。


イヤミかな…?


「特殊任務に就く騎士達が【気配察知】【気配隠蔽】スキルを身に付ける必要がある時には、そちらで指導してくださっているのですよね?有り難うございます」


「いえ、私としては『王族・四大公爵も【気配察知】【気配隠蔽】スキルを身につけるべきだろう』と日々思っているくらいですし。

一人でも多くの救世主教の信者が身を守るための術をこちらで身に付けてくれるなら、それほど嬉しい事はありません」


「…そうなのですね。それで今回お邪魔した理由ですが、今ここでお話ししても宜しいでしょうか?」


「ええ、どうぞ」


「異端審問庁には【精神干渉耐性】スキルを持つ人物が所属してらっしゃるのですよね?」


「…ええっと、どこでその話を?」


「…王家の方では数年のうちにバールス王国との間で戦争が起こるものと想定しています。

敵側には【威圧】スキルを持つ者も居て、スキルを使われると『自分自身の死に顔』が見えて身動きが取れなくなり、見えたビジョンの通りに殺されてしまうと言われています。

なので前々から『【威圧】スキルを破る手立てが何か無いものか?』と考えていました。

異端審問庁に【精神干渉耐性】スキル持ちが居るという話は、ここ最近になって【魅惑】スキル持ちが出現した事による対策を検討していた際に、学院関係者の方から小耳に挟んだものです。

異端審問庁は修練者に【気配察知】【気配隠蔽】スキルを習得させる手順をお持ちなので、もしかしたら【精神干渉耐性】スキルも修練による習得が可能なスキルなのかも知れないと思い、今日こうして訪ねた次第です」


「そうですか。…王子殿下の仰るように【精神干渉耐性】スキルを修練によって習得できるような有効な修練のマニュアルが有れば良いのですが、今は未だ研究途中。

未だ修練によってコモンスキルとして【精神干渉耐性】の習得に成功した者はいません。

居るのはスキル授与式で【精神干渉耐性】をエクストラスキルとして授かった仲間のみです」


「一応【精神干渉耐性】を人工的に習得する手段を模索してはくださっているのですね?」


「はい、勿論です。先程、王子殿下の仰った【威圧】スキル持ちの存在は我々が所有している歴史書にも登場します。

かの蛮勇を誇る異教徒達の中には度々【威圧】スキル持ちが現れて救世主教国側の戦闘員を好き放題に惨殺してきたようです。

その度に救世主教徒側にも【精神干渉耐性】スキル持ちが生まれていて『悪に抗え』と人々を諭し、徹底抗戦の姿勢で望み、辛うじて異教徒に隷属させられる悲劇を回避してきているのです。

…今の世に【威圧】スキル持ちがいて、【精神干渉耐性】スキル持ちもいるのは、つまりはそういう事でしょう。

またも我々には神の試練が降りかかっている。

【魅惑】スキル持ちが現れたとも仰いましたが…今の時代はまさに『魔に魅入られし時代』なのかも知れません…」


「『魔に魅入られし時代』…。言い得て妙ですね…」


「対バールス戦ではフィランダー王子殿下が国軍を率いて闘われるのですよね?」


「ええ、そうなるでしょうね」


「【精神干渉耐性】スキルを身に付けたいと思ってらっしゃるのですね?」


「ええ、出来れば。…と言っても俺の場合は戦闘スタイルが近接戦闘向きではないので上手くいけば必要はないかも知れません。

ご存知でしょうが【増幅】スキルは遠距離戦闘向きです。

剣での闘いにこだわっていた頃に【増幅】で増やした自分の剣で大怪我をした事があります。

【増幅】が『俺や味方を傷つけないように』という意志を持って働いてくれると良かったのですが、そう上手くはいきませんでした」


「…そうだったのですね…。ですが、敵が纏まっている時点での不意打ちだと【増幅】スキルでの矢は最適だと思います。『どれだけ増幅させるか』は調整できるようになられたんですよね?」


「ええ。30倍にまで増やせますので矢を一度に3本射ると最大で一度で90矢攻撃できます」


「それは、凄い…」


「上手く発揮出来れば、ですがね」


「期待しております。…こちらの方でも【精神干渉耐性】スキルが習得できるマニュアル作りに精を出したいと思います」


「それは、是非とも宜しくお願いします」


異端審問庁長官はウィットモア侯爵家の人間だが

「公式記録では若い頃に病死した事になっている」

らしい。

記録上では死人だ。


そうでもしないと、それこそ国王、王太子並みに暗殺の危険が降りかかり続ける。


暗殺者から隠れ続け逃げ続ける人生…。

一組織のトップだとしても、そんな人生は絶対につまらない。


だが

権力を握って国を護る

国民の生活と資産と命を護る

それらは綺麗事ではない。


「自分自身の人生の幸福」

全てを代償にして権力を手にしているのだと

俺は目の前の男を見て、しみじみと納得した……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ