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出奔

挿絵(By みてみん)


洗濯場は厨房よりも規則が緩い。

使用人同士の無駄話は普通に許容されている。


ノラもネリーも洗濯しながらいつもお喋りしている。

黙々と洗濯を手伝うのは私くらいのものだ。


「ーーああ、あれは奥様のお客として訪ねてきた男爵夫人の侍女が昨日も応接室の備品を盗もうとしてて、ウチの侍女がそれを見咎めたらしくてさ」


「それで口止め料を要求してああいう騒ぎになったって訳だね?」


「ウチの奥様は最初から最後まで意味が分かってなかったんだろうね。だから単に侍女同士の仲が悪いだけって思ったのかもね」


聞こうと思うでもなしに聞こえてくる会話を聞いていたところーー


どうやら昨日公爵邸に訪問した男爵夫人の侍女が

「公爵家の侍女にお茶をぶっ掛けた」

という事件が起きていた事が分かった。


「…男爵夫人の侍女、絶対男爵夫人とグルだよね」


「侍女や侍従に出入りするお宅で盗みをさせる主人もいれば、酷い場合には自分の子供に盗みをさせる親もいるらしいし、グルの可能性が高いかもね」


「んでも、逆にそういう貴族もいる事を盾にして自分のために自分の意思で盗みを働いている使用人や子供もいるだろうから…」


「どの道、あの侍女。ウチの奥様に『男爵夫人の侍女は泥棒だ』って教える気はなくて、泥棒を脅迫してバックマージンをもらう方を選んでるんだろ?」


「クズだね」


「いや、あの侍女がクズというより、普段から奥様が使用人への当たりがキツいせいかもよ?」


「かもね。インチキ美術商で有名な男の正体も誰も奥様には教えてやってないんだろ?」


「奥様が偽物をつかませられる事で減るウィングフィールド家の金って、元をただせば我らの納める税でしょうに」


「奥様憎しで、悪を正すより、悪を脅して金をせしめる方向に皆で流れてるんだろうね」


「…ウチの奥様ってどんな人間性なら、そこまで侍女達に嫌われるのかねぇ」


好き勝手に皆お喋りに興じている。


ノラと他の洗濯女との会話を遮って話しかけるのは躊躇われたが…

物を渡すなら直接が一番だ。


(文字も自分の名前以外読み書きできない人達だし、置き手紙とかして薬草を残しても何のことか分からない筈。というか、私自身『言語理解』のお陰で文字を読めはしたけど、書けるかどうかはまだ試してなかった…)


私は深呼吸してから

「ノラ。実はちょっとしたプレゼントがあるんだけど…」

と言って薬草入りの瓶をノラへと差し出した。


「コレはなんだい?」


「傷によく効く薬草だよ」


「何でアンタが薬草なんて知ってるんだい?」


「庭師のウィルの手伝いをする時に植物の話を聞く事もあるから覚えてたんだ。それをこの前から川までいく道端で見かけたから収穫して乾燥させておいたの。お茶にしても、直接飲んでも、湿布にしても効果はあるから、アカギレなんかもすぐ治るよ」


「…そうかい。だからアンタの手が最近妙に綺麗になってたんだね?自分だけ薬草でアカギレを治してたのか…」


「自分で効果を実験したんだよ」


「そういう事にしておいてあげるよ」


「今夜にでもお茶にして飲んでみると良いよ」


「ああ、ありがとう」

とすんなり受け取ってもらえた。


自分だけ云々という言い方はトゲがあったが…

ここの使用人の人達は

「気を使う必要のない相手には物の言い方も辛辣」

なのが通常モード。


いちいち責めたり貶したりするのは毎度の事なので、低く見られてる側がいちいち言い方のトゲを気に病んだら負けだ。


私は肩の荷がおりたような解放感で次の仕事へと向かった…。



********************



「出奔するに当たっては深夜が良いだろう」

と予想した。


仕事が終わって直ぐに屋敷を出るなら、その後歩き通しになる事を考慮すると、体力的にかなりキツイ。


使用人が起き出す夜明け前頃に出ると、そこまで距離が開いてないだろうから万が一にも追っ手が掛かれば直ぐに捕まる。


だからこそ深夜まで仮眠をとって、深夜に出奔するのが適切だ。


そう計画するとーーー

夜まで黙々といつも通りに仕事をこなし

終業と同時に雑木林まで行ってテントと物資を回収した…。



亜空間収納が無事に使えたのがありがたい。


部屋に戻って、蝋燭の明かりの中で川辺から回収した物資を確認していった。

泥がこびり付いているし、川から遠くない場所にあったのでカビも気になる。


浄化ピュリフィケーション」のオンパレードでアレもコレもと浄化で殺菌していった。


水洗いできそうなものは

清掃クリーンアップ」「乾燥ドライイング

または

洗濯ランドリー」「乾燥ドライイング」。


飯盒やカトラリー類はクリーンアップで衣類はランドリーで綺麗にした。


犬達にあげようと思っていた干し肉もカビとか生えてなくてちゃんと食べられそうだが…念のために浄化。


着替えの服は男もので大きい。

中肉中背の成人男性のサイズ。

シャツの袖もズボンの裾も捲ってサッと縫って固定。


ウエスト部分はベルトで締めるがベルトの穴が無い所まで締まるので、ベルトの革に穴を開けなければならなかった。

刃物の私物を持っていなかったので物資の中にあったサバイバルナイフが役に立ってくれた。


勿論、丸く穴を開けるなど不可能。

縦横の十字形の切れ込みが穴代わり。

それでもちゃんとズボンがズリ落ちないように出来たので問題なし。


お金とかは持ち主が自分で持ち歩いていたのか、一切無し。


考えてみたらーー

私はこの世界のお金を触った事も見た事もないのに気が付いた。


ゲームの中でもお金の価値に関する説明など無かった気がする…。

だがお金は大事だ。

現実として生きていくには。


お金が無ければ宿屋とかにも泊まれない。

勿論、テントが有るし、食べ物もヘルスケア管理で出てくる。

人並みの暮らしを望みさえしなければ何とかなる。


浄化を使いまくったお陰か、

結界生成メイクアバリアー

もグレーアウト状態から解放されていた。


簡単に魔法熟練度が溜まってくれているらしく、攻撃魔法以外のめぼしい魔法はある程度使えるようになっている。


不可視インビジブル

飛行フライト

も、そのうち使えるようになるだろう。


(とりあえず、今は時間まで休もう…)

と思い、スリープでタイマーセットして一眠りする事にした…。


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