間話
レヴィン・サックウェルにとって、それは理解不能の光景だった。
「スキルは熟練度次第で通常ではあり得ないような現象を引き起こすものだ」
という事をレヴィンは充分に知っているつもりだったが…
それでも
(【治癒】スキルというものがどれだけの事が出来るのか?)
という点では半信半疑だったのだ。
ローズマリー・ウィングフィールドが(冒険者マリーが)容姿の優れた少女だとは聞いていたが…
(【治癒】という特性上、心根の優しさ善良さが表面に現れている気の弱そうな少女なのだろう)
と勝手に人物像を描いていたようだった。
それが実物を前にして崩れ去った。
(冷めた視線で怪我人を見ている…。優しさや気の弱さとは無縁で、成人したばかりの年相応の動揺も無く、まるで熟練の医術師のような目で冷静に観察している…)
それが分かり、奇妙な違和感を感じた。
テントを張って重症者を運び入れ、外から【治癒】スキルの使用が見えないようにしてはみたが…
「それで本当に【治癒】スキルで重症者の怪我が治る」
などとは本気では信じていなかったのだろう…。
ラッセルがマリーを連れてテントへ入って来て
「こういう時は一番奥が一番重症で生命の危機がある。手前になるほど今すぐ死ぬ危険は少ない」
とマリーへ優先順位を告げる。
マリーが頷いて、一番奥の重症者の所まで行き、重症者の前で右手人差し指を伸ばして、指先を少し動かす。
それだけで指先から光が出て、その光が怪我人を包む。
血止めの為に圧迫して包帯を巻いているので
「傷が塞がっていく手品みたいな様子」
を目の前で目撃した訳ではないが…
死人のような顔色が見る見る間に血色を取り戻していくのは異様だった。
マリーは無表情で
「傷を治すだけだと確実に血が足りないと思ったので、『貧血』という状態異常を治癒するアーツも重ねて掛けてますが、あくまでも『生命維持に必要な最低限の措置』なので、その点は当人達の意識が戻ってから造血作用がある食べ物を摂らせるなり、そちらで対処してください」
と告げた。
「あと、重症者じゃない人達も痛みはあるでしょうから【治癒】スキルの効果を付与した鎮痛薬を渡しておきますね。
一瓶丸々一人に与えられたらすぐに治るんでしょうが、こちらも際限なくスキルを使える訳ではないので、一瓶を数人で分けて与えてください」
何処から出したのか…
エアリーマスの診療室で薬術師が作ってるという鎮痛薬を取り出して手渡してくれた。
恐る恐る重症者の包帯を解いて、怪我のあった箇所を見てみると、皮膚は切り傷の痕さえ残さず、綺麗に癒合していた。
それこそ初めから怪我などしていなかったかのように…。
今日、明日は1話ずつの公開です。




