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非合理には従わない

挿絵(By みてみん)


各町には広場がある。


大通りから街道へうつり変わる境目である門。

郊外から町へ入る時も、町から郊外へ出る時も門衛による検問チェックがあるので「順番待ち用馬車の待機場所」が門の内側には必要となる。


今はその「順番待ち用馬車の待機場所」である筈の広場に、負傷した騎士達が横たえられている。


「医術師はまだか!」

「応急手当ての出来る者は名乗り出てくれ!」

「医院の患者を叩き出してこっちを優先させろ!」

と怒声が聞こえる中、見知った顔が幾つかあった。


(あ、あの人達…)

私が思わず着目してしまったのは、先日騎士団寮の清掃の際に接した騎士達だ。


寮の管理人だったヤーノルド・サックウェルもいるが顔色が青い。血を流し過ぎているように見える。


私を運んできた騎士は私を馬からおろして

「アンタが【治癒】スキル持ちだろう?重症者を優先してスキルを使ってくれ」

と指示してくれたが…


「今来たばかりで誰が重症者とか分かりませんよ」

という状態だ。


「副騎士団長に訊いてくれ」

と言われても


「どの方が副騎士団長か分かりませんが?」

と答えるしかない。


ハァァァーッと溜息を吐かれてから

「コッチだ」

と荷物のように担がれた…。


周り中で怒声罵声が行き交っている。

世の中には「不安を感じると激昂しやすくなる」ようなタイプの人達も居るが…

そういう人達がこういう場面では集団ヒステリーを引き起こす引き金になっているのかも知れない。


私を担いだ騎士がドスドスと広場の奥へ早足で駆けつけて

「レヴィン副団長。仰せ通りのお届け物です」

と不機嫌そうに、やや乱暴に私を地面に下ろした。


次いで

「スキル授与を受けて間もない子供にどれだけの事が出来るのか分かりませんが、せいぜい有効活用してやってください」

と喧嘩を売るような言い草をしてから、別の場所へ向かって小走りで去って行った…。


「ティム無事か?!」

と叫んでいる所を見るにーー


親しい友人の事が心配な中、副団長の命令で私を運んで来たらしい…。



「………」

私がレヴィン副団長と呼ばれた男を見ると


レヴィンは疲れたような表情をして

「…医院へ急患として欠損患者を運び込んだが、欠損は治せるか?」

と訊いてきた。


側に居る者達がハッと息を呑んで、聞き耳を立てている。


(…だから嫌なんだ…)

と思いながら


私は淡々と

「…分かりません。ーーが、私が万全な状態で、欠損箇所が指一本とかなら『治せる可能性が高い』かも知れませんが、今日は午前中の仕事が終わったばかりで休憩も昼食もまだ摂ってなくて消耗してます。『今やれ』と言われたら無理でしょうね」

と告げたところーー


途端に

「休憩も昼食も摂ってないのはコッチも同じだ!」

「この緊急時に何を甘えた事を!」

と不満の声が上がった。


レヴィンが

「うるさい!黙れ!」

と外野にキレつつ、私へ視線を戻して

「それなら欠損以外の重症者はどの程度まで治せる?」

と尋ねる。


「…どれくらいの人数の重症者を治癒できるかなど、今まで限界を試すような事をやった事がないので分かりません。

私が分かる事は、人目がある場所でスキルを使うと、今後私の身に危険が及ぶ可能性が高くなるという事です。

『死なれては困る、口の固い重症者』を人目を遮れる場所に移してくださるなら、スキルの限界を試してみても良いかも知れませんね。

あと、この場に居る人達が口が軽いようなら固くさせるよう学習させる措置も取っていただく必要があるかと思います」


先程不満の声をあげた者達の顔が真っ赤になった。

激昂しているようだ。


(知らんがな。アンタらの都合なんか)

と内心でムッとしながら、外野とは目が合わないようにレヴィンだけに視線を注いだ。


レヴィンは

「分かった」

と私に答えた後で


背後にいた騎士へと

「お前は今すぐ医院へ出向いて、欠損患者の延命処置を医術師へ指示してくれ」

と指示を出し


大きく息を吸ってから

「テントを貼り終わったら重症者から運べ!」

と大声で不特定多数の者達へと指示を出した。


「すぐテントが張られる。君はここで待機していてくれ」

そう言い残してレヴィンはテントのほうへ向かった。


私は

(…お腹減った。…何か食べる事でも魔力が回復するし、何か食べておきたいんだけど…。ここの人達は「治癒に魔力が必要なこと、魔力回復に食事や休憩が必要なこと」を理解してくれそうな雰囲気は無い…)

と思った。


(こういう考えも「この緊急時に何を甘えた事を!」とかキレられるのかも知れないけど…。ここの人達って私が「民間人」だという事をすっ飛ばして物事を考えてる気がする…)


おかしなものだ。

同じ土俵にいる者でもない。

同じ恩恵を得ている者でもない。

部外者の民間人が自分のペースで生きてるだけの事に何故激昂できるのか?


(「俺達はお前達民間人を護ってやってるんだぞ」と思ってるんだろうけど…)


彼らは「それが仕事」なのだ。

時に命がけとなる国防や治安維持は、時に命がけとなるからこそ

「余程高給じゃないと割に合わないと感じられる」

のかも知れない…。


民間人は税を搾り取られ

威張り散らされても

「護ってもらうためのコスト支払い」

と思って大人しくしていなければならない。


じゃないと国防や治安維持に命を賭けさせられる人達は民間人に対して

「こんな生意気な奴を護るために命を賭けるなど冗談じゃない!」

と職務放棄する言い訳をそこに見立てようとするだろうから。


(…ただまぁ、何にでも「限度はある」と思うんだよなぁ…。とりあえず「非合理には従わない」という方針で良いと思う…)


私は

不可視インビジブル

を発動。


亜空間収納サブスペースストレージ

からパンとペットボトルのコーヒーを出して食事を摂った…。


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