出会いの演出
メリガンの妻は薬材商ギルドのギルマスの姪にあたる女性。
なのでメリガンはモンティス・ハーツホーンの身内に含まれる。
私への対応も丸投げする筈である。
「悪く思わないであげてください」
とメリガンも苦笑する。
メリガンのように早々に囲い込まれ早々に結婚相手をあてがわれるレアスキル持ちは珍しくない。
露骨に見合いを組まれ
「出会いを演出される」
状況は次々と訪れる。
世間話のついでのように
「…マリーさんレベルのレアスキルともなると公爵家の御子息と会う機会がセッティングされる可能性が高いんじゃないでしょうか?」
とメリガンに言われて
私は取り繕うのも忘れて
(嫌だよ。そんな面倒くさい…)
と苦虫を噛み潰したような表情になってしまう。
ハートフィールド公爵家長男シミオン・ハートフィールドはゲーム内では攻略対象の1人。
私にとって最も遭遇したくない
「ローズマリーの婚約者フィランダー・ホワイトヘッド」
「ローズマリーの兄ヒューバート・ウィングフィールド」
「ローズマリーの護衛ヴィクター・イーグル」
の3人に続いて会いたくない人物である。
(ああムカつく。クソ王子の存在を思い出しちゃったよ…)
考えるだけで気分が悪くなる相手と似たような位置付けの青年になど…
絶対に会いたくないものである。
「平民にとっては『派閥に取り込まれる』という事が『結婚相手をあてがわれる』という事になってしまいがちなので、私の場合は運が良かったです。
妻は本当に出来た女性で、ずっと献身的に良くしてくれています。
マリーさんにあてがわれる相手も良い人だと良いですね」
とメリガンは無邪気だ。
「ハートフィールド公爵派閥とは無縁に普通に恋愛結婚したりとかは出来ないんでしょうか?」
「『絶対ダメ』とは言われないでしょうが、『信用されない』『情報が開示されない』『裁量権を持たせてもらえない』といった不具合を抱えたままになるので、そのうち労働が辛いもののように感じられるかも知れません。
そういった人も見てきたので言えるのですが、長い物には巻かれたほうが生きるのが楽です」
「…そうなんでしょうね」
「ちゃんと相性とかも考慮してもらえる筈ですし、公爵家の令息達も、傘下の貴族家の跡継ぎの令息達も皆美しい青年で将来有望らしいですよ。
平民が側室として嫁げるのなら玉の輿です。頑張って懸想されてください」
メリガンは根っからの「長い物には巻かれろ」主義のようだ…。
「世の中、物騒ですからね。権力の傘下にいたほうが不条理な罠からも護られますよ。
東部では、薬草の扱いに詳しい修道女が『魔女』と濡れ衣を着せられて拷問されたり処刑されてるらしいです。
教会関係者の中に敵国の諜報工作員が入り込んでいて、ホワイト王国の『回復用員潰し』を仕掛けているのだという噂もあります。
逆に、薬草の扱いに詳しい修道女が敵国の諜報工作員で我が国の情報を敵国に流しながら、有能さに依存させて処罰を免れようとしている場合もあるそうです。
『有能である』というだけで『冤罪を捏造して人材潰しする』という敵国の工作の罠に嵌められる可能性がありますからね。
結婚相手との出会いが運命の出会いとかではなく、派閥の都合で仕立てられた出会いだとしても素晴らしい相手には出会えます。
安全も得られて、申し分のない相手と家族になれるんです。派閥に組み込まれる利益は大きいですよ」
「…東部ってそんななんですね…」
「権力の上層が外国人に乗っ取られると『有能な国民の才能を伸ばし登用する』のではなく『有能な国民の才能の芽を潰し、あわよくば処刑させて、国民同士の団結ができないように人心分断する』ような事が行われます。
東部から南部へ逃げてくる人がここ数年結構な数にのぼるようです」
「領民の移動って禁止されてないんですか?」
「先祖代々からの領民がそれまで住んでた土地を捨てて他領へ移り住むというのは余程の事なので特例として許可されているのだそうです」
「東部って、本当に…そこまでダメダメなんですね…」
やはりウィングフィールド公爵家を筆頭に東部貴族は粛正されなければならないようだ…。
地球世界の魔女狩りと違って、この世界だと
「薬草に詳しい女性が異端審問で殺されるのは戦争を想定した敵国の干渉による回復用員潰し」
と周知されているようだ。
物騒なのには変わりはないけど…
ちゃんと黒幕が看破されていて、同じ国民が敵に対する復讐心をちゃんと共有してくれる分、地球世界の「魔女狩り」よりマシなのかも。
と言っても、地球世界でも実際にはこの世界と同じ事が起きてただけなのかも知れない。
だけどあの世界は
「自分達にとって都合の悪い事実を言う人間を潰す」
ような
「事実歪曲に血道を上げるテロリズム」
を抑圧しきれていなかった世界。
それでなくとも
(存在しない被害を根拠に恨みや復讐心を生み出させるために)
(存在しない加害を根拠に罪悪感や利他主義を刷り込むために)
(存在しない敵対感情を生み出して共闘・団結ができなくさせるために)
「わざと史実に嘘を紛れ込ませる」
ような事が普通に行われていたし…
諸々の歴史の真実など永遠に藪の中だろう。
********************
前もって聞かされていたお陰で
「公爵城で行われる合格祝い」
とやらで侍女として働く依頼を指名された時に驚かずに済んだ。
冒険者ギルドギルマスのラッセル・サックウェルは
「今回ばかりは拒否権は認めない」
と強気だ。
「…ええ〜っ…。そういうの、本当に必要な人手なんですか?侍女が足りてないならサックウェル伯爵家の侍女を貸し出せば良いじゃないですか…」
私が異議申し立てすると
「…あのなぁ、そういう問題じゃないって、流石に本当は理解出来てるんだよな?
…お前に話してはいなかったが、公爵家で侍女として働いているレアスキル持ちの平民の娘は既に2人いる。
スキルの稀少性は親から子へ遺伝する事が多いんだ。平民のレアスキル持ちも何代も遡ると先祖に貴族が居て隔世遺伝してる事が明らかになってる。
貴族家やその分家の子女は家を盛り立てるのに役立つ相手と結婚する事が多いが、平民との間に子を作る事もある。
その場合には相手のスキルの稀少性を重視している。
公爵家でレアスキル持ちの平民の娘を働かせるのは婚活も兼ねている訳さ。
何も互いに気に入らない者同士で無理に子作りしろとか言ってるんじゃない。
『とりあえず顔見せして面識をもっておけ』という話だ。頭ごなしに否定されても、こっちは困る」
だそうだ。
「…同年代とかの若い男性は苦手です。派閥内の誰かと付き合えとか子作りしろとか言うのなら、相手は私より10歳以上歳上の人が良いです。
年輩男性の後妻とか愛人でも構いません。
恋愛経験も少ない、自分の事しか考えられない未熟者のお坊ちゃんの相手だけは勘弁してください…」
心底からそう思う…。
「…若い男のほうが良いだろう?年増より」
「若過ぎる男はヨボヨボのボケ老人より始末に負えません。本気で嫌いです」
「…同年代の方が話も合うだろう?」
「友達がいた事もないし、『話が合う』という感覚自体わからないんで、そういうのを求める事はないです」
「そう思っていても、実際に会ってみたら『若いのに懐が深い』とか見直す事もあるかも知れないぞ?」
「いえ、絶対ムカつくだけです。若い人は男も女も人格的に未熟で人間性も残酷です。私のような立場の弱い人間に変な嗜虐心持ってイジメようとしてくるに決まってます」
「思い切りよく断言するものだな。お前は予言者か何か」
「それに近いかも知れません。とにかく公爵城とか貴族がいっぱい居る場所とか行きたくないです。
だいたい『合格祝い』って何ですか?誰が何に合格したんですか?」
「リオン・ハートフィールド様。公爵家の次男だ。王立学院へ入学試験に合格して秋からの入学が決まっている。
公爵家長男のシミオン様は既に王立学院に在籍中で、じきに夏季休暇に入り王都からハートリーまで来られる。
シミオン様の御到着に合わせてリオン様の合格祝いが催されるので、それにお前も顔を出させる事になっている」
「絶対イヤです」
「頑固だな…」
「働く事自体は構わないんですよ。厨房で料理作ったりとか、貴族様の目に触れないように掃除したりとか。そういう下働きの方が性に合ってます。
侍女だの何だののお貴族様の目に触れるような仕事をするならするで、ある程度以上年齢のいった人のお付きが良いです。
とにかく若いお貴族様なんて面倒くさい生き物には近づきたくないんです」
「…(ハァァーッ)存外にワガママだな。…一応ギデオン様にお前の意向は伝えておく。
とにかく、ちょっと行って、ちょっと料理を運んで、ちょっと給仕するだけだ。
それだけで他のEランク冒険者が朝から晩まで働いて稼ぐ金額の10日分の報酬が出るんだ。断るなよ?」
「………」
私としてはシミオン・ハートフィールドに遭遇せずに済ませるなら、どうとでも屁理屈を捏ねるつもりだ。
サックウェル伯爵家が許してくれるかどうかは分からないものの…。




