密かな審査
「実は騎士団寮は女人禁制で、入寮してる騎士の妹とか母親とかでも立ち入り禁止です。
本来なら【清掃】スキル持ちの清掃員に来てもらうとしたら男性を選ぶべきだったんですが…
今回はマリーさんを『公爵家に推薦して大丈夫かどうか』審査する意図もあって敢えて採用してます。
食事当番の者達と非番の者達には話を通しているので、規則違反だなんだと文句を言われる事は無いと思いますが…
それ以外の者達だと『何故こんな所に女がいるんだ!』と驚かれるかも知れません。
私は今日一日管理人室におりますので何かあれば遠慮なく言いに来てください」
依頼主のヤーノルドがサックウェル家の面々が私を指名依頼した理由をサラッと教えながら規則違反の事実まで述べてきたので
私も
「…帽子とか被って、男装して掃除した方が良いですか?」
と尋ねてしまう。
「…そうですね…。月一で出入りしてる清掃業者のユニフォームに似てる服を着てれば目立たないから、パッと見だと性別までどうこう思わないかもですね。
だいたいここの奴らは清掃員に対して無関心ですから挨拶もしないし、顔も見ない。うん。それが良いかもです。
古着は退団した連中が沢山置いてったのがあるんで、倉庫からそれらしいのを探しておきます。
その間にマリーさんは厨房の清掃をしててください」
朝食を終えた後の厨房。
今日の食事当番達が食器だけは洗っていった後。
思わず周囲の気配へと神経を研ぎ澄ませて辺りの様子を察知。
(誰も居ないな)
と確認してから魔法でサッサと綺麗にする。
手で拭きました、という感じを出すためだけに、濡れフキンでテーブルを拭いておく。
そうこうしている間にもヤーノルドが灰色の服の上下と帽子を揃えて持ってきたので
「それが業者さんのユニフォームですか?」
と訊くと
「あ、いえ、業者のユニフォームとよく似た古着です。マリーさんにはサイズが大きいので袖と裾を捲って着てもらう事になります」
と返事が返ってきたが…
ヤーノルドは厨房の様子に驚いている。
「こんな短時間で、冗談だろ…」
と小声で呟いたのが聞こえたが
「浴場の脱衣所は今は誰も居ないんですよね?」
と訊いてから脱衣所で着替える事にした。
一応洗濯はしてあるのだろうけど…
微妙に臭い気がするので脱衣所へ入るなり
「浄化」
「洗濯」
「乾燥」
で衣類を綺麗にしてから着る事にした。
自前の服を脱いで借り物の服に着替え、紐でゆわえた髪を帽子に押し込んでから
(今まで着てた服も洗っておくか)
と思い、同じように魔法を使った。
「着替えは終わりましたか?」
とヤーノルドが脱衣所前の廊下から話しかけてきたので
「終わりました」
と言って廊下に出た。
「…マリーさんの服は清掃の邪魔になるかも知れませんので、管理人室でお預かりしておきます」
と言われて、手を差し出されるままに手渡したが…
(自分の着てた服を他人に渡すのって変な感じだな…)
と微妙に違和感を感じた。
「それでは」
とヤーノルドが私の服を持って管理人室のほうへ引き上げると廊下に1人取り残されたので、やっと人目を気にせずに掃除が出来る。
(『公爵家に推薦して大丈夫かどうか』の審査か…)
そういう目的で指名依頼してみるのだ、という情報が共有されていないと
「ウチの人が勝手に雇った冒険者」
扱いになるのだろうか…。
(ああ、面倒くさい…)
勝手に値踏される側からすれば面白くないが、敵がどこに紛れ込むか分からないのが権力闘争。
誰も彼もが無駄に疑い深く陰湿になるのも仕方ないのだろう。
サッサと終わらせるに限る…。
人目のない時に堂々と魔法を使い次々清掃をこなした。
男装の効果はてきめんで、誰も私の存在を気にしないので誰からも監視されてる気配がなかった。
ヤーノルドが危惧したような
「何故こんな所に女がいるんだ!」
と騒ぎになるようなアクシデントも起こらずに済んだ。
時折、人が通り掛かったが…
誰一人として挨拶もしてこないので、自分も挨拶を返さずに済み、声も聞かれずに済んだ。
それだけ皆が清掃業者の人間には無関心という事なのだろう。
広いので時間は掛かったものの【清掃】【調理】スキルを見越しての家事支援の依頼は無事に決められた時間内に終わった。
ヤーノルドは
「狼の群れの中での作業でもあった事ですし、報酬には色を付けておきました」
と言ってくれたが、全く狼の群れという感じではなかった。
報酬に色を付けてくれるのは素直にありがたいと感じた…。
実は誤字の多さに自分でも驚いてます…。
(漢字変換やカタカナ変換の際によく見ずにノリで書いてるとこうなる、という悪い見本…)




