フィランダー視点:7
俺は目が良い。
それというのも俺がスキル授与式で授かったスキルは【増幅】というレアスキルだったからだ。
「増幅させたいものを増幅させる」
という不思議な力だ。
【2倍の加護】とも違うが
「増幅させたいもの」
を身体能力にすれば2倍以上の身体能力を発揮できる。
(スキル稼働時に限るが)
その力を得た事で、俺は弓術・投擲術に身を入れるようになった。
視力と共に筋力も増幅できるので遠くの物がよく見え、遠くまで矢や石が届く。
しかも飛距離が増幅するのみならず
矢の数が増幅する
石の数が増幅する
といった怪現象まで起こるのだ。
「先手必勝。相手がこちらに気づく前に不意打ちで遠距離攻撃する」
と思ったなら俺はほぼ最強だと思う。
だがまぁ、そんな風に状況が整ってる事自体が滅多にないので…
使い所を選ぶ能力だし、本当に最強かと問われれば違うのだろう。
「…この所、南部の陰達の間で噂になってる『凄い投擲術師』ってのがフィランダー様と同じように投げた石が増える仕様のようですね。
まぁ、その冒険者のスキルはコモンスキルの【投擲】じゃなくて、エクストラスキルの【投擲】だから増えるみたいで、増やせるのは石だけ。
弓を射て矢を増やせるって事はないらしいです。
それでも随分とレアなスキルだと思いますよ。
物が増えるんですよ?物理法則を無視してます!
神様はなんで…俺には【一部能力向上(中)】しかくれなくて、市井の冒険者にはそんなレアスキルを授けてるんでしょうか?」
ハリスが涙目で訴えてきた。
「知らんがな…」
としか言いようがない。
この世界、圧倒的多数の人間が【一部能力向上(微)】というスキルしか貰えない世界だ。
レアスキルを授かると羨ましい妬ましいという視線に晒される事になる。
大衆の大半が貰う(微)と比べるなら、ハリスの(中)は随分と良い方だ。
それでも大貴族は【一部能力向上(大)】や【2倍の加護】やレアスキルを貰う事が多いので、貴族家としては運が良くないほうなのだろう。
(遺伝子が関係してる)
と予想がつく。
優れたスキルを顕現できる遺伝子じゃないと良いスキルを授かれない。
だから貴族は平民がレアスキルを授かったらすかさず婚姻関係を結んで血を取り入れる。
「んで、その冒険者って地元の貴族家の娘とかと結婚する約束とかさせられてるのか?」
俺が尋ねると
「さぁ?」
とハリスが首を傾げた。
ダリウスが横から
「…多分、その冒険者って女ですよ。まだ若い。それこそスキル貰って1年も経ってない子じゃないですかね?
以前から報告が上がってた【治癒】スキル持ちと同一人物らしいです。ハートフィールド公爵派が取り込もうとしてる所ですね」
と答えてくれたので意外な事実が発覚した。
「女で【投擲】スキル?!」
「【治癒】スキル持ちと同一人物?!」
俺とハリスがほぼ同時に叫んだ。
「レアスキル2個持ちです。それこそ高位貴族の庶子とかじゃないと説明がつかない人材ですね。
なのでちょっとした疑惑が上がってます。ウィングフィールド公爵家から出奔したローズマリー嬢が『身寄りのない孤児だ』と自称して冒険者になったんじゃないかって」
「…ローズマリーはスキル授与式に参加させてもらってなかったんだよな?だから何の能力も無い状態で出奔してて生きてる確率自体低いと、ダリウスも言ってただろ?」
俺は余りにも出来すぎた話に面食らった。
「スキル授与式に参加しなくてもスキル取得する裏技はあります。要は『聖杯』が有れば良いんです。
古道具屋なんかでも古い聖杯が売られているので店主が目を離した隙に使用して自力でスキルを獲得するような者もいます。時に異教徒の移民なんかは」
「あ、そうか。異教徒は教会に出入りできないからどうやってるんだろうと思ってたけど、スキルは宗教関係なく授かれるんだったな」
俺は今更当たり前の事に気がついた。
「…なんか、ムカつきますね。異教徒はスキルを授かれないとか、犯罪者はスキルを失うとか、人間性次第でペナルティーが掛かるような仕様だったら嬉しいんですけど。神様はそこまで考えてはくださらないんですね」
ハリスが俺の言いたい事を代弁してくれたので俺はウンウンと頷いた。
「レアスキル2個持ちの女がローズマリーだった場合、どうなるんだ?やっぱり保護という名目で捕らえて、ウィングフィールド公爵家と共に連座で処刑しなければならない運びになるのか?」
「いえ、冒険者ギルドは公式に『ローズマリーは死んだ』と捜索結果を出しているので、実際には生きててレアスキル2個持ちとして活躍してても手出しは難しいかと。
無理に手出しすればハートフィールド公爵家と冒険者ギルドを敵に回す事になります。
もしも捕らえたとしても連座処刑はするべきじゃないでしょうね。貴重な【治癒】スキル持ちですから、今後戦争になるなら余計に生かしておいて活用しなければならないと思います」
「ハートフィールド公爵派が国防に貢献してくれる気があるなら【治癒】スキル持ちを王国軍に貸し出す筈だという訳か」
「はい。なのでこちら側からは『そちらに【治癒】スキル持ちがいるらしいな』という話を振っておくだけに留めておくしかないかと」
「下手に手出しするそぶりは見せるな、という事だな?」
「はい」
「戦争が始まるまで【治癒】スキル持ちは秘蔵される訳か…」
「と思いますが、不審な点もあります。陰の調べでは先代ハートフィールド公爵は病を患っているのですが、側近らが【治癒】スキルでの治療を進言しても『不要だ』と跳ね除けているとか。
先代公爵が【治癒】スキルの稀少性と重要性を理解できていない筈がないと思いたい所ですが…くだんの冒険者を熱心に囲い込んでいるのは公爵家ではなくサックウェル伯爵家のようです」
「つまり、今後、この国がバールスと戦争になる事態を予測し本気で備えようとしてるのはサックウェル家でありハートフィールド家ではない、と?」
「陰達の見立てでは、先代公爵は不治の病であり【治癒】スキルに期待しておらず、『近々自分は寝たきりになるからその後の事は関係ない』と思っているのではないかという事です」
「げっ、無責任だな!退いたとはいえ、公爵だった男だろ?」
またもハリスが俺の言いたい事を代弁してくれた。
「先代公爵がそういうつもりだとして現公爵はどういうつもりなんだ?ファイアストンにも当然陰は探りを入れてるんだろ?」
「その…。現公爵は政治にも軍事にも疎い人らしくて、耳に心地良い情報にしか関心を示さない状態だそうです。
南部は現公爵を開眼させるか、先代公爵を不治の病から救って南部の未来への責任を改めて背負わせるかしないと、幾ら騎士達が強くても士気の面で問題が残るというのが陰達の判断でした」
「………」
(…うわぁ〜…面倒くさ〜…)
と俺は思わずコメカミに指を当ててクリクリと揉んだ。
頭痛がしてきたからだ…。




