領都ハートリー
途中で魔物に何度か襲撃されたが、盗賊の襲撃は無かった。
カネ目のものを持つ者が少ないのと
女性が少ないのが
どうやら盗賊の出ない条件らしい。
盗賊には
「他人を襲って殺すのが何よりも楽しい」
という殺人狂も一部居るが…最大の目的は当然カネだ。
乗客をさらって奴隷商に売るにしても、さらう相手の容姿を気にする。
「国立学院に進学しよう」
と受験に向かう平民受験生は皆頭脳は優秀ではあるが…
容姿の面では恵まれていない者が多い。
お金を持ってる訳でもないし、女は少ない。
「さらっても高く売れなかった」
といった事を繰り返し…
盗賊達の方でも襲撃相手を吟味するようになったようで
結果ーー
近年では
「国立学院への受験生達が乗る乗り合い馬車は盗賊の襲撃が少なくなっている」
のだそうだ。
(御者のオジサンの話では)
カネ目の物を積んだ行商隊の護衛補助と違い、乗り合い馬車の御者の助手は楽だった。
そうしてーー
楽な仕事を無事こなして、つつがなく領都ハートリーに到着した。
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冒険者ギルド・南部領都ハートリー支部。
ギルド会館に着いて、依頼達成サインをもらった依頼票を提出すると、少し待たされて報酬が支払われた。
(楽だった割に報酬はまぁまぁだったよな)
もらった報酬を全額持ち歩くのも不用心なので、ギルドの預金口座に預けるように手続きすると…
「ギルドマスターがお呼びです」
と言われ、事務職員に支部長執務室まで案内された。
職員が執務室のドアをノックして
「失礼します」
とドアを開け、私を室内へ誘導した。
人が入って来たのは当然分かっているようだがギルマスのほうは
「ひと段落着くまで待て」
と言って書類に目を向けたまま顔を上げない。
俯いた状態なのでギルマスの顔はよく分からないが…
体形的にゴツくて、雰囲気的にもエアリーマスのギルマスと似たものを感じた。
エアリーマスのギルマスとハートリーのギルマスは従兄弟同士だ、という話なので
(似た所もあるんだろうなぁ…)
と予想はしてたが…
いざギルマスが顔を上げて私と目が合うと
(従兄弟じゃなくて兄弟なんじゃないの?)
と疑ってしまうくらいソックリだった。
(…サックウェル伯爵家の特徴として「顔が怖い」というのがあるのかも?)
などと思いながら私が独りで納得していると
「お前さんがマリーか?」
とハートリーのギルマスが凄みのある笑顔を向けてくれた。
(ワニだ。凶悪系大型爬虫類だ…)
おそらくは
「悪人顔で脅す」
ような意図などなく、本当に単に微笑んだだけなのだろうが…
慣れないうちは思わずギョッとする…。
顔立ち自体は悪くない。
若い頃は案外イケメンだったのかも知れないが…
表情や目付きや雰囲気がとにかく大型爬虫類っぽいそれだ…。
「はい。マリーです。よろしくお願いします」
と挨拶すると
ギルマスは
「なるほど。ウィングフィールド公爵の面影があるにはあるな」
と言ってウンウン頷き
「ラッセル・サックウェルだ」
と名乗った。
「冒険者登録して1年以内の冒険者には寮があるので住む場所には困らないぞ。早速、案内させよう。
それと指名依頼で俺の家の清掃・調理を引き受けて欲しい。長旅で疲れてるだろうから今日は早目に休んでもらって、明日頼みたいと思っているが、それで良いか?」
と訊かれて
「了解です」
と頷いた。
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「低ランク冒険者が宿代も稼げずに、路上で野宿して朝には冷たくなってるのが発見される事態が続き、近隣の皆様に多大なご迷惑をお掛けして苦情が相次いだ事もあり、その対策として、登録1年以内の冒険者用に住まいを用意するようになっています」
ギルド職員のマンローがそうした説明の他注意事項を話し、それを大人しく聞き了承の旨をサインする事で、寝泊まりする場所を安値で貸してもらえる事になった。
冒険者ギルドの中では
「低ランク冒険者が野宿して凍死したり追い剥ぎに遭って殺される」
事より
「低ランク冒険者の死体が路上に転がってるのを見た市民の皆様から苦情がくる」
事の方が問題らしい。
人倫が歪んでる気がしないでもないが…
それでも理由がどうあれ
「ボロ宿に泊まる最低金額の半額で寝泊まりできる」
というのだから有り難い。
寮には風呂場はなく、トイレと台所は共用。
各部屋に鍵は付いているが、斥候技術を習得している冒険者なら簡単に解錠できるタイプのもの。
なので、基本的に貴重品は持ち歩くのが普通なのだという。
寮母は寮の掃除と管理のみが仕事で、食事は作らない。
台所は冒険者達の自炊用。
だが自炊する者は少ない。
大半の入居者が外で食べるか、買ってきて部屋で食べる。
それでも少数の自炊派同士で台所の利用時間がかぶる事もある。
一応寮母に言って使用時間帯予約をしておくと良いと言われた。
職員のマンローに寮内を案内されながら
そういった基本的説明を受けた後、寮母の所へ案内された。
随分と歳のいったお婆さんだったので
(定年退職した元ギルド職員かな?)
と思いながら
「よろしくお願いします」
と私が言うと
「…この通り、身体がよく動かないんだけど頑張って役目を果たす気でいるんで、揉め事は起こさないようにしておくれよ」
との返事だった。
(「揉め事」は積極的に起こさなくても、ウザ絡みして因縁つけてくるヤツらが居れば、自己防衛で抵抗するだけで「揉め事」になると思うんだよね…)
と思うので、何となく嫌な気分になった。
悪質な連中の悪を見て見ぬフリ。
善良な被害者に「お前が目を付けられるのが悪い」とモラハラする。
「事勿れ主義」の人達は、そういう人もいる。
(…この寮母さんも、そういう人間のような気がするんだよね…)
と嫌な予感を感じ
(あまり関わりたくない。高くつくとしても所得が安定したら宿屋に移りたい…)
と思った。
前世の人間関係でも
ウィングフィールド公爵邸でも当てはまる事だったが
年輩女性の中には
「男性全般を贔屓目に見て、女性全般を辛口評価で難癖つける」
ような人もいた。
寮母の纏う空気は、その手の男尊女卑老女と似た空気のように思えた。
人間社会には保守であれ革新であれ
湧いてしまうものなのだ。
「自分を世論裁判の裁判員ポジションに据える」
「目を付けた標的を世論裁判の被告席へ据える」
ような輩が。
老人は
「我々はイビツな社会を苦労して生き抜いた。後続世代の者達も同様に苦労するべきだ」
というすり替え報復へと走りやすい。
「若い頃に苦労したから今の自分がある」
と苦労自慢したがる老人は
「そうではない。今アンタが楽してられるのは、人生の何処かの時点で誰かしらアンタを救い上げてくれた善意の人達がいたからだ」
「誰かに認められるなり憐れまれるなりして救い上げてもらえないなら、苦労はただ延々と続く」
という事実を何故か理解できない。
「苦労すれば報われる」
と何故か本気で信じ込んでいるので
(救い上げてくれた善意の存在を完全無視して自分の手柄のように捉えているので)
「若者が苦労してるのを見ても、更に苦労を強いる」
のみであり
「認めて救い上げる、憐れんで救い上げる」
ような善行へは至らない。
外部からの善意による結果を自分の手柄のように捉える自己愛過多の人達は
老若男女問わずそういう傾向があるが…
歳を取るとそういう性格が強化される感じか…。
飴と鞭ならぬ鞭と鞭のエゴ肥大化を
「伝統遵守」
の名の下に正当化するのである。
「大義名分を振り翳して、大義名分の名の下にエゴを押し通す」
ような保守のフリした老害…。
(遭遇するだけで災難だよな…)
私は自分が
「歩く人災」
にまたしても遭遇した気がして…
ガックリと肩を落としたのだった…。




