白を黒に、黒を白に
薬草採取を終えた後は商店街を見て回った。
この地を去る身として
「この地でしか買えないものを買っておきたい」
と思ったのだ。
物色して回って満足し
(宿屋に帰ろう…)
と冒険者ギルド会館の前を通り掛かった時にーー
「アイツだ!」
と声がしてギルド会館の出入口から少年冒険者が出て来るのを見ても
(?何事だ?)
と思いこそすれ、自分の事を言ってるのだとは考えもしなかった…。
襲いかかるように走り寄って来られ
腕を掴まれそうになったが
万能魔法の「回避」効果で、少年の手は空振りした。
「クソが!よけるな!」
と怒鳴られて
(よけとらんがな…)
と内心ツッコミを入れつつ相手の顔を見遣ると…
矢を射掛けてきた疑惑のある容疑者の一人だった…。
(…矢を射掛けておいて、それでも飽き足らずに因縁付けようって事なんだろうけど、一体どんな難癖付ける気だよ…)
と心底から呆れて軽蔑してしまう…。
少年の後から出てきた大人の冒険者が
「アンタ、ちょっとギルドの中まで来な」
と言ったので
「何の御用ですか?」
と至極尤もな疑問を口にしてやったが
「来ないなら罪を認めたと見做し冒険者登録は抹消されるけど、それで良いって事だな?」
と恫喝された。
意味が分からない。
萎える。
ただ何となく
(…嘘の通報をされて何か罪が捏造されている…)
という可能性は察知した。
「…罪がどうとか、冒険者登録の抹消がどうとか言われても何のことか分かりませんが」
「惚けるな!クソビッチが!てめえの大嘘に騙されるヤツらばかりじゃねえぞ!」
「何やら誣告犯罪を犯している誣告加害犯に罪を捏造されてるのであれば」
「何が捏造だ!てめえが今言ってる事こそ捏造だろうが!ふざけんな!」
「こちらは誣告加害犯とそのシンパを逆に告発する必要があるのかも知れません。冒険者登録抹消されるべき人間が本当は誰なのかハッキリさせる度胸がそちらにあるのなら」
「ナメてんのか!殺すぞ!」
「ギルドの中まで行っても構いませんが、それで良いんですね?」
私が大人の冒険者に返事をする間も
少年冒険者は悪態を付いて拳を振り上げ威嚇した。
通行人が驚いて3人の方を見ている。
私は通行人の中から真面目そうな女性を選んで
「スミマセンが、今、この人達が私に言った言葉を証言してもらえませんか?謝礼は私からもしますし、ギルマスにも交渉してギルド内治安維持の貢献への謝礼として冒険者ギルドからも出させたいと思いますので、お願いします」
と声を掛けた。
「えっ?私?」
とビックリされたが
「誣告犯罪を明らかにするのに証人は何人でも必要なので、お願いします」
と頭を下げると
「…仕方ないわね」
と溜息と共に了承してもらえた。
気が滅入るのを堪えてギルド会館のホールに足を踏み入れると、中に居た人達の視線が一斉に私へと向いた。
3人組の少年のうちの2人が何やら喚いている声がドアの外まで聞こえていたので、ホール内の人達は私に振りかけられた冤罪話を全員耳にしていたのだろう。
「来やがったな!この人殺しが!」
と少年冒険者が怒声を響かせると
「少しお話を伺えますか?」
と事務職員のセルデンが私の側へやって来た。
「一体、どうなってるんですか?こっちは全く事情が分からないんですよ。
会館前の道をただ通ってるだけで『中に来い』だの『来なければ罪を認めたと見做して冒険者登録を抹消する』だのと恫喝されて面食らってます。
言い掛かり付けてる人達の言い草から『どうやら冤罪が捏造されているようだ』と推測したので『虚偽の告発をしてる連中を誣告犯罪で告発しておかないと、陥れと嘘が罷り通るギルドになってしまう』と心配になって今、ここに居る訳ですが…」
「…でしょうね」
「それで?私に関して罪がどうとか言ってる人達は、一体どこの誰で、一体どんな事を言ってるんですか?」
私がそう話してる間にも少年達が
「何が言い掛かりだ!クソビッチ!」
「ゴブリンの群れに俺達を襲わせておいて!ふざけんな!」
「証拠がないと思って安心してるのか!死ねよ!クソアマ!」
と怒鳴り続けているので…
私の言葉は外野の殆どの人達には届かずに
読唇術の心得がある人達や一番近くにいるセルデンにしか届かなかった。
「冒険者3人がマリーさんにゴブリンの群れを嗾けられて怪我を負ったと、そう言ってます。マリーさんの姿を見たとの証言付きで」
「それって、時間帯的にどのくらい前の話ですか?」
「彼らが騒ぎ出したのは彼らがギルド会館に戻って来た10分ほど前で、彼らがゴブリンの群れから命からがら逃げ出したのはその20分ほど前、合わせて30分ほど前です」
「私が郊外に居たのは時間的に今から3時間前から2時間前くらいまでです。薬草採取をしてて、途中で矢が飛んで来ました。
幸い矢は当たらなかったんで、犯人を追う事もせずにいて、薬草採取を終えてから、商店街でブラブラ買い物してたんです。
2時間前くらいからほんの今さっきまで商店街にいたから、お店の人達は私の顔を覚えてると思いますよ」
「でしょうね」
私とセルデンが会話してる声を掻き消そうとするかのように少年達が喚き続けているので
「黙れ!クソガキが!」
と冒険者の1人がキレていた。
どっちの話を信じるか決めてないながらも
「事情を知っておきたい」
という情報収集欲を持ってる人間もいるのだ。
特に高ランク冒険者ほど情報を大事にする。
少年冒険者を一喝した冒険者が
「その嬢ちゃんの言う事が本当なら、今から商店街へ行って聞き込みをして来る。他に一緒に来る者は居ないか?」
と聞き込み用員を募ったので
他に2人手を挙げて
「面白そうだ」
「俺も行くぜ」
とギルド会館を飛び出して行った。
セルデンが
「さてーー」
と言って少年冒険者達に目を向けると
「アンタもその女に誑かされてんだろ!」
「ギルド職員のくせに不公平だろうが!」
「絶対許さないぞ!」
と少年冒険者達がセルデンにまで食って掛かろうとした。
「オッサンらのチン⚪︎しゃぶって誑かしてるそのクソビッチのせいでギルドの空気が汚染されてるのが分からないのかよ!」
「そんな腐れマン⚪︎に突っ込んで脳に性病の菌が回って、どいつもこいつも狂いやがって!」
「その女はその女の手口に騙されない俺達みたいな『他人を看る目がある人間』を狙って殺そうとするクズだ!」
ーーいい加減、うるさい。
「と、あんな感じでマリーさんに対して彼らは敵意満々ですが。何かしたんですか?」
とセルデンが尋ねるが
「ですから。薬草採取をしてる時に矢が飛んで来たんですよ。当たらなかったので犯人を追跡もせずに放置しましたが、後ろ姿を見た限りでは犯人はあの3人組なんじゃないかと思います。
おおかた、私に『報復されるかも』と不安だったからゴブリンの群れと遭遇した時に『報復された』と妄想したんじゃないですか?
私の姿を見たとか嘘の証言をしてるのは『3人で示し合わせて嘘を言えば、1人が本当の事を言ってても嘘でねじ伏せられる』とでも思って事前に、そう嘘を言おうと決めてたんじゃないですか?
それこそ『冒険者が冒険者を不意打ちで襲う』犯罪に加えて『加害者のくせに被害者を詐称して誣告犯罪まで追加で犯す』ような罪の重さを全く考慮してないんでしょうね。
彼らが何かのコネがあって重宝されてて『使い捨ての駒』以上の価値を認められてるのなら、どんな嘘も不正も正当化されてしまうんでしょうが。
ああいう子達は嘘と不正の限りを尽くして身を立てて立身出世できる悪党達と自分達との立場の違いを理解できてないんだと思います」
としか答えようがない。
地球世界でも、この少年冒険者達のようなクズはいた。
「強力なコネ」という「白を黒に、黒を白に捻じ曲げるツール」を持ってるか持ってないか。
その違いを理解できてない連中はコネもないのにイキがる。
そして破滅する。
それでいて納得しない。
「白を黒に、黒を白に捻じ曲げて、社会的に通用している悪党貴族もいる」
「俺もそれを真似て何が悪い」
「嘘と不正を見逃したり見逃さなかったり、悪の断罪ですら差別をする正義面の国家権力を絶対に許さない」
だのと倒錯した逆恨みをする。
そんなクズ達。
クズがクズのまま通用するには
「その土壌に強力なコネが必要だ」
という、たったそれだけの事実を理解しないから
見当違いの相手を逆恨みして魂まで怨念に染まってしまう…。
セルデンが証人の第三者である女性に目を向けて
「こちらは?」
と訊くので
「会館前の道で因縁を付けられた時に近くにいらっしゃった方です。私に掴み掛かろうとしたり、冒険者登録を抹消させると恫喝したり、殺すぞと脅迫した彼らの犯罪行為の証人として随伴してもらいました。
ギルドからもギルド内治安の維持に対する協力者として遇して謝礼を渡すようにお願いします」
と言うと
「マリーさんの言葉に間違いは無いですか?」
とセルデンが念押しした。
証人の女性は
「はい」
と頷いてくれたので、その点はホッとした。
選んだ証人が実は敵側の身内だったりしたら目も当てられないのだから…。




