ウザ絡みという洗礼
私が今後の身の振り方として
「ハートリーへ向かい、サックウェル伯爵家の後ろ盾でハートフィールド公爵派閥に仕える」
事にしたことは当然ながらおおやけにはされていない。
ギルドマスターとセルデンと私自身と一部のサックウェル傘下の者達しか知らない話だ。
「数日もすればエアリーマスから出ていく低ランク冒険者だ」
と周知されていれば
「出ていく事が決まってる人間にいちいち嫌がらせする」
するような者も湧かなかったかも知れないのだが…
私の活動拠点変えは周知されていなかった…。
妬まれていた。
このままこの地に居座るのだろうと疎まれていた。
それを思い知らされた…。
Gランクの依頼は指名依頼以外は異様に報酬金額が低い。
「こんな報酬金額でGランク冒険者は生活出来るのかな?」
と常々私も疑問に思ってはいた。
勿論、冒険者登録と共にほぼ指名依頼だけで仕事をしてきた私は
そこそこのランクの宿屋に泊まれるくらいの金もあるし
「暮らしていけない」
程の金銭的逼迫状態とは無縁に過ごしてきている。
一方でーー
指名依頼など一切来ずに、異様に低い報酬金額をやっとこさ稼いで、その日暮らしをしている低ランク冒険者達や、そういった下積み時代を経てランクを上げた中堅冒険者達は
「楽して得している新参者」
に対しては
「誰か嫌がらせしてやれば良いのにな」
と人災が降りかかる事を期待したりもする。
結果ーー
異世界転生の定番とも言える
「頭の悪い冒険者達によるウザ絡み」
の洗礼を私も今更ながら受ける事になったのだった…。
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魔力は寝てる間だけでなく食事や休憩をとっても回復する。
普段からちょっとした魔法を使い続けても魔力切れになる心配は要らない。
旅の間中
「筋力増強」
「結界生成」
「不可視」
を使い続けた時と違って、通常時は常に魔力に余裕がある。
なので私は部屋を出る際に
「筋力増強」
「回避」
の便利魔法セットを使うようにしている。
「回避」
さえ掛けておけば、不意打ちで攻撃されても痛手を負わずに済む。
本当に便利だ。
寝てる間でさえ使いたい魔法ではある。
それで指輪に
「回避」
効果を付与し、就寝時に使用するようにしてみたが…
「稼働しっぱなしで40時間」
くらいで効果が無くなる。
製造時にこめた魔力が切れるとバッテリー切れ状態になってしまうようだ。
魔力の切れた魔道具を再び使うには当然
「魔力注入」
が必要となる。
この世界ーー
魔物も人間もスキル使用時に魔力を使っているので個人差はあれど万人に魔力があるのだが…
誰も「魔力操作」が出来ないので、魔力はスキル稼働時のみの使用となるし、魔道具への魔力注入も誰もできない。
なので魔石を動力源とする魔道具の場合は魔石交換によってのみ延々使用できるが…
製造時にこめられた魔力によって稼働する魔道具は「使い捨て魔道具」として認識されている。
私のみが
「適正化」
を使う事で魔道具に魔力注入できる。
ともかく、人間不信の私は出かける時も寝る時も
「回避」
を使うようにしている。
そのお陰で
「この地域の植物を採取しておこう」
と思い郊外で植物採取していた最中に
不意打ちで矢を射掛けられたにも関わらず怪我一つしなかった。
視界の端から矢が飛んできてーー
矢は私に当たる前に急降下して地面に突き刺さった…。
(ーー!ゴブリンか?!)
と思い警戒したが…
矢の飛んで来た方向に見えた走り去る後ろ姿は人間の少年らのものだった…。
後ろ姿と草丈から推察するに身長は私よりも少し低い程度か。
13、14歳くらいと思われる少年ら3人。
不意に脳裏に名前も知らない低ランク冒険者達の顔が浮かぶ。
冒険者ギルドの受付の順番待ちなどで顔を見た事のある目つきの悪い少年達ではないかと思うのだ。
勿論、後ろ姿だけしか見えないので顔は分からない。
背格好が一致して、目が合った時に露骨に敵意を向けてくる連中だが…
それだけで
「不意打ちで矢を射かけて殺そうとしてきたヤツらだ」
と告発する事も出来ない。
(追いかけて文句を言うべきだろうか…)
と思わないでもなかったが
(面倒だ…)
という思いが強かったため、放置する事にした…。
(どうせじきにエアリーマスを発つんだし、ここでの人間関係がずっと続くなら面倒でも処理しておくべき案件なんだろうけど。…正直、あの手の捻くれた子供達に一片の興味も関心も湧かないし…)
関わらない
視界に入らない
そういう消極的対策でしか
「因縁を付けてくるキチガイと揉めずに済ます」
方法がない場合も多い。
今の私はじきに拠点を変えるからこそ
関わらない
視界に入らない
という対策を取れる。
どうせそのうち生活圏が大きく離れるのだ。
無視してればそれで済むのだから、無視するに限る。
これが偽善的な主人公の物語とかだと
「いきなり攻撃してきた相手に怒るのではなく、相手の心情に配慮して当人の抱えてる問題を解消してやる」
ような事をしてあげたりするのだろう。
その結果ストーリー展開的には
「攻撃してきた相手がその後、忠実な友になる」
ような御都合主義が罷り通るのだろうが…
「現実」は「作り話」とは違う。
現実の人間の心情は人情物語のそれと違う。
人間はどこまでも浅ましく汚い。
弱肉強食を御都合主義的に支持する低次元な人間は、強い相手に愛嬌を振り撒く一方で、ナメた相手を執拗に踏み付けにし続ける。
そもそも
「他人を一方的に攻撃して罰の代わりにご褒美をもらえた」
ような体験をした人間は
「弱い者イジメ=リスク無しでイジメを楽しめる=更に便宜をはかってもらえる」
と認識してしまう。
その刷り込みが積み重なると立派にクズが出来上がる。
「犯罪者に優しい社会」
はマトモな人間にとって厳しい社会だ。
あくまでも加害者を責めずに済まそうとするとーー
被害者に対して
「お前が正しい人間で徳が有れば、悪人も改心してくれて仲良くできる筈だ」
「お前に加害者を引き寄せる要因があるからいけないのだ」
「悪人を改心させられないお前が未熟なのだ」
とモラルハラスメントを振りかけて
助けようともしない
庇おうともしない心理が蔓延る。
「皆で被害者へモラハラして被害者を切り捨てる」
社会ーー。
悪に優しい社会に適応すると現実認識は歪む。
そんな社会は…
私はもうウンザリだ。




