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権力コネクション

挿絵(By みてみん)


宿代稼ぎのために薬草採取の依頼を受けて数日過ごすとーー


あっという間にブラックウェル邸での指名依頼の仕事の日になった。


裏口から入って厨房へ直行する事になっていたので言われていた通りに厨房へ向かった。


基本的にブラックウェル邸の料理人達は料理を合作したりはしない。

どの品を誰が作るか決めて、自分の担当料理を責任持って作る。

なので助っ人の私も同じように作る。


調理補助という依頼内容にも関わらず

補助ではなく、まんま調理を行うのだ。


先ずはナッツ類やドライフルーツを入れた携行食が評判が良かったのを思い出して、ナッツ類やドライフルーツの入ったクッキーを作っていく。


その後はマドレーヌ作り。


皆が皆、自分の作るべきものを作ってゆく間に、茶話会の客人達が集まる時刻となったようだった。


バタバタと女中が用意したものを侍女が優雅に運んでいく。

下級使用人と上級使用人の人員の使い分けは公爵家に限らず、この屋敷でも適用されてる様子。


おそらく、ここでも下級使用人は主人一家や客の目に触れないように仕事しなければならないのだろう。


侍女から

「お嬢様のお部屋が空室です。今のうちに掃除とシーツ替えをしてください」

と指示された女中が慌てて二階へ上がっていった。


(…姿を見られずに家事をしろって…下級使用人をブラウニーか何かに仕立て上げたいのかな?)

と腑に落ちないものを感じはするが…


実際に下級使用人は礼儀もなってないので、貴族や金持ちからすると

「接触するだけで不快になる」

のかも知れない。


何も言わなくても視線や態度で悪意を突き付けるような人も多い。

勿論、それは下級使用人に限らずだけど。


貴族や金持ちは対人関係で気苦労が多いので

「家の中でまで対人苦痛を味わいたくない」

と思っていても不思議はない。


なので普段から上級使用人は主人一家と下級使用人がかち合わずに済むように、それぞれの居場所を常に把握しておかなければならないのだろう。

それが客人がある日ともなると人の移動も激しい。


身分の高い客人ともなると特にズカズカ入り込もうとするのだろうし、采配ミスが起こりやすくなるのも仕方ない。



調理も一段落ついてーー

料理人達と一緒にお茶を啜ってひと息ついていると


「立ち入り禁止です」

「どうぞお引き取りください」

などといった声が聞こえてきた。


すぐ近くまで足音が近付いて来たので料理長が

「ん?なんだってんだ?」

と厨房の入り口から廊下を覗いてみると


「あっ、君、この屋敷の料理人かね?」

と尋ねる声がした。


どうやら茶話会に招かれた客人が厨房にまで押し掛けて来ていたようだ。

「この屋敷の料理人達は腕が良い。是非うちで働かないか?」

だのと言っている。


私は思わず首を傾げる。


(…そういう使用人の引き抜きは招いてくれた屋敷の主人に対してメチャクチャ失礼に当たると思うんだけど…。私の感性の方が間違ってるのか?)

ちょっとよく分からない。


料理長をみると

「お誘いは大変光栄ですが、私はこの屋敷で働く事に満足しておりまして、環境を変えて別の所で働こうという気にはなれません。残念ですが辞退させていただきます」

と答えている。


こういう事はこれまでにもあった事なのかも知れない。

料理長には驚いた様子も動揺している様子もない。


「…そうなのか。残念だ…」

と引き下がる声がしたと思えば


「他の者達はどうだろう?」

と身を乗り出してきたようで、料理長の傍から顔を覗かせた男が厨房の中を見遣った。


思わず目が合うーー


「…ここの厨房では女性も雇っているのか?」

と驚いたような表情だ。


確かに料理人には男性が多い。

狩りで持ち込まれた動物の死骸を肉として利用するには解体技術が要るし、肉を吊るすのにも力が要る。


生き物の死骸を解体する事に慣れない女性は多いし、肉を吊るして血抜き保存する為の腕力もない女性も多い。


だが女性の料理人も居ないという訳ではない。

驚くほどの事とも思えないのだが…


「いや、驚いた。こんな場所に、こんな美人がいたなんて」

と男が言い出した事で、どうやら驚いたのは私の容姿なのだと判った。


普通の女性料理人は体型も感性も男性に近い。

女性らしい容姿の華奢な姿だから驚いた、という事らしい。


「本来なら美人は働いてもてなす側ではなく、もてなされる側にいるべきだ。汗臭い男と一緒に労働など、させてはいけない」


(…とんだ女尊男卑思想者だな…)


「はぁ」

と気の抜けた返事をして隣を見遣ると


(自己紹介しろ)

と口パクで隣にいた料理人が指示してきた。


どうやらこの客は偉い人らしい…。


「Gランク冒険者のマリーです」

と私が名乗ると


「何故か親近感を感じるよ」

と満面の笑みを向けられた。コワイ。


「それで?何故冒険者が厨房で働いてるんだい?」


「…依頼があったので、それを受けて働いてるんですけど」


「なるほど。来客の数も多かったし臨時増員か」


男が納得したようにそう言うと

「おっしゃる通りです」

と料理長が頷いた。


侍女がおずおずと

「…ロングハースト様。そろそろ会場へ戻られませんと…」

と声を掛けた事で


「分かった」

と男が(ロングハーストが)引き下がった。


侍女とロングハーストが廊下を引き返して姿を消すと、ようやく厨房も平常運転に戻り

「最後のデザートを仕上げようか」

という事になった…。


ロングハーストは

「マルセル系貴族」

なのだそうだ。


ホワイト王国はかつてマルセル国から王妃を迎えた事があり、その時の王子が初代ハートフィールド公爵だとの事。


しかしハートフィールド公爵派はマルセル国とは一線を画して

「ホワイト王国民である事を誇りに思っている」。


それに追従しないマルセル系南部貴族もいるらしく

そういった手合いはマルセル国との癒着が強く何かとマルセル贔屓。


ブラックウェル邸の使用人達の話を聞くに

「ハートフィールド公爵派=味方」

「ロングハースト家=刺激したくない敵」

といったニュアンスがあった。


お陰で

(ブラックウェル家はハートフィールド公爵派か…)

という事が明らかになった。



********************



依頼達成のサインがされた依頼票を冒険者ギルドへ提出。


すると受付嬢から

「ウチのギルドマスターからお話があります」

と告げられた。


冒険者ギルド、エアリーマス支部の支部長、ギルドマスター、デリック・サックウェル。

「サックウェル伯爵家の人間だ」

という噂はエアリーマスに住み初めて早い段階で聞いている。


ファンタジー小説では

「ギルドマスターなどは実力主義で変人が就いてたりする」

ギャグ風設定が罷り通るものだが…


実際には

「公的機関の役職は血族主義のコネクションまみれ」

であり、例外はない。


ここエアリーマスの冒険者ギルド支部長は、ハートリー支部の支部長とは従兄弟同士。

そのハートリーのギルドマスターは現サックウェル伯爵の弟だというのだから、デリックは現サックウェル伯爵とも従兄弟。

随分と伯爵家と濃い血縁関係にある。


「血族主義の権力に連なる者達は何らかの分野で才能があれば、その分野で頭角を表せるように一族のサポートが入る」

という事なのだろう。


実力は必要だが、コネ有りの人達は

コネ無しの一般人よりイージーモードで世間を渡れるというものだ。


勿論、当人達は

「コネによる底上げがあって要職に就ける恵まれたアドバンテージ」

を認識しない事もあるだろう。

「実力が有れば誰でも成り上がれる」

と、社会の公平性を信じていたりする人も世の中にはいる。


派閥の恩恵に生まれながらに浴する人間は

「全て俺の実力と運のなせるわざだ」

という見方をしがちなのだ。


「コネ無し金無しの庶民には何も才能がないから、這い上がって来れず、階層移動できないのだ」

と本気で信じてしまえる。


本当はそうじゃない。


社会的階層移動は

「引き上げてくれる人達がいるから這い上がれる」

ものだ。

(これ大事)


そしてその「引き上げてくれる人達」が

「権力者中心の癒着コネクション」

かも知れず


或いは

「異邦権力、もしくは敵国の工作員」

かも知れない。


ウチのギルマスなんかは地元南部の権力の癒着コネクションで持ち上げられてる分、異邦権力に持ち上げられてる連中より余程マトモな人間なのだろうと思う。


世の中の綺麗事。

「人は皆平等にチャンスを与えられるべきだ」

という考えは、正論ではあるが…


他国に入り込んで在住国で平等思想を強行したがる異邦人達には

「何故、理想を自分の国では強行しようとしない?」

「何故、在住国を内側から引っ掻き回して綺麗事を強行する?」

「しかも祖国の支援を受けながら」

というツッコミ所も満載だ。


引き上げていただく側は引き上げてくれる側の意向へと引きずられる。

自国を離れて他国に移住するような事になった場合には、その点も気をつけるようにしたいものだ…。


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