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冒険者ランク

挿絵(By みてみん)


護衛任務の期間ーー。


昼食時のみ各自で火を使って調理する許可が出ていたので

初日用には保存肉ではない生肉を用意しておいた。


ハートリーは領都なだけあって物流の種類が豊富で、今まで私が見た事のなかった調味料などもあった。


(これだけ色々あるなら、バックオーダーで醤油を出して使っても「たまたま入手できた異国の調味料」とか言い張ってもバレないだろうな…)

と思った事もあり、思い切って肉を生姜焼きにしてみる事にしたのだ。


ニンニクは食べた後も匂い続けるが生姜だとそこまでない。


メンバー以外の人達も一緒に移動する旅でも使って問題無いだろうと思ったので、生姜+醤油の組み合わせは旅の間中度々使うつもりだ。


「単に自分が食べたかった」

という部分が大きい…。


(醤油って、ホント使い道広いんだよなぁ…)

バックオーダーで入手できると分かったからには自分の分の食事だけでも使い続ける気でいる。


みりんと酒もあると砂糖と合わせて照り焼きのタレを作れる。

地球世界の調味料のうち異世界へも堂々輸出できるレベルのものは

「マヨネーズ、ケチャップ、照り焼きのタレ」

だろうと言っても過言ではなかろう。


ゴマ油や豆板醤もそれに次ぐが、とにかく地球世界の良いところは食のバラエティーにある。


この世界の人達も味覚は地球人と類似があるのか、生姜焼きのタレのいい匂いに釣られて人が集まって来た。


商隊の主は商人なだけあって真っ先に興味を示した。


「そのタレはハートリーで仕入れた材料を使ったものですか?」

と商隊主のモーリス・ブラックウェルに訊かれて


「はい。商品の種類が豊富で驚きました。エアリーマスも港町なので色々揃いますが、ハートリーは更に上をいきますね。

流石に鮮魚だけは有りませんでしたが、それ以外では圧倒的にハートリーの物流は優秀だと思いました。

秘伝のタレのようなものを編み出せるくらいには材料が揃ってましたね」

と答えると


「何を使ったか、材料を教えてもらえませんか?」

と言われたので


「料理人は基本的に自分の技を盗ませないものですよ。自分の需要価値が下がりますからね」

と釘を刺した。


材料が分からない複雑な味で尚且つ美味い。

そういう味付けに関して情報開示するメリットがない。


「…ええ、そう言われるのを承知でダメ元で訊いてみました。気を悪くなさらないでくださいね」


「大丈夫ですよ。【調理】スキルを持ってますし、厨房でも働いてましたけど、まだ未熟者ですから、そこまで尊大なプライドは持ってません」


「ポーターとして雇われてらっしゃるという話ですが、ポーターの雑用の一環としては随分と手が込んでますね。

ポーターとしての給金の他に別個手当を出してもらっても良いのでは?…というか、ぶっちゃけ、私が料理人として雇いたいんですけど」


「ありがとうございます。契約は毎月更新です。丁度エアリーマスからハートリーに着いた頃に契約更新してます。

次の更新時にでも条件の良い就職先があれば乗り換える可能性もなくはないです。

ただ、今は冒険者ランクを少しでも上げたいので『冒険者に指名依頼する』という雇用形式でしか仕事をお受けする事は無いと思います」


「ふふふ、そうなんですね。『冒険者に指名依頼する』という雇用形式でも私は全く構いません。うちの方で提示できる条件を一族の者と話し合って決めておきますね」


「楽しみにしてます」


という会話をモーリス・ブラックウェルとするにはしたがーー


私は

(リップサービスだろう)

と思って本気にしていなかった。


そもそもやっと今の生活に慣れてきたのに、また環境が変わるのも面倒だと感じていた。

冒険者活動と屋根裏暮らしは性に合う。


(ランクがEまで上がるまでは今の暮らしで良いかなぁ)

と考えていた。



********************



この商隊の専属護衛の数は5人。


多いのか少ないのか分からないが…彼らは商会に私的に雇われているのだろうと思っていたら

「商会の会頭とも、商隊主とも親戚」

という血筋の冒険者達だった。


レン・ブラックウェル

ジャガー・ブラックフォード

マーカス・ロックフォード

ハンフリー・ロックウェル

リーヴァイ・サックウェル


因みにサックウェル姓はエアリーマスの冒険者ギルドのギルマスと同じ姓。

ギルマスがサックウェル伯爵家の近縁だという話なので、護衛冒険者のリーヴァイ・サックウェルも親戚の1人なのだろう。


(このサックウェルさん、姓もギルマス縁で、一人だけ【2倍の加護】持ちなので今後出世しそうだ…)


【一角獣】メンバー達が

「商会の会頭と同じ派閥」

なのに対して


専属としてほぼ固定指名で護衛に就いてる冒険者達は

「商会の会頭と遠縁ながら血縁者」

で構成されている。


それだけ

「裏切らない事が明確な血縁者達の価値」

がブラックウェル商会では認められているという事だ。


商会の会頭・商隊主とも同じブラックウェル姓のレン・ブラックウェルが言うには

「毎回指名依頼をもらって稼ぐと、同時に護衛実績も上がるからな。冒険者ランクも上がりやすいんだ」

とのこと。


「俺達も【千本槍】さん達と同じで一応Bランクではあるけど、コネ有ってのものなんで、実力だけでBランクに上がった人達と同じだけの強さを期待されたら困る。

【千本槍】の皆様にはお世話になるつもりで居るんだよ。よろしくな」

と宣うたのはジャガー・ブラックフォード。

意外にフレンドリーな人達だ。


魔物が出た時に戦闘の様子を見てみたがーー

当人達も言うように、Bランクの割りに、そこまで強くない。


確かにコネとは無縁で実力だけでBランクに上がってる冒険者が護衛に追加されていないと、多勢に無勢の襲撃を受けた時に危ういかも知れないと感じた。


だがチェスターも他の皆も

「自分達の実力を勘違いせずに現実的に見ることができてる時点で、ちゃんとBランクに相応しい連中だと言える」

という評価基準。


チェスター達はリオンのようなお坊ちゃんに対しても

「金でランクを買える財力がある」

という面で優秀なので

「それなりに優秀だ」

と見做す人達。


要は

「生き残れる者が勝ち」

な世界観なのだ。


「敵をどれだけ圧倒的に殺せるか」

という部分だけで優秀か否かを測ってはいないようだ。


私は

(…冒険者のランク制度って、なんか思ってたのと違う…)

と感じるのだが…

考えてみたら前世でのゲームのイメージが脳内にある事に気付いた。


「魔物を倒す→経験値を得る→レベルが上がる」

というシステムのアレだ。


レベルがあり

ステータスがあり

魔物を倒すと数値が伸びて

それらと活動実績によって冒険者ランクが上がる。

「強さ=冒険者ランク」

となっている世界観…。


そういうイメージが自分の中に有って現実には違和感を感じてしまっている。


(…まぁ、この世界もゲームの世界ではあるんだけど生身で生きる現実でもある。「魔物を倒せば経験値を獲得できてレベルが上がる」みたいな話は聞いた事もないし、明らかに設定が別路線…)

この世界ではこの世界なりの生き方があるのだろう。


この世界では一対一の果し合いとか模擬戦での勝利による個人の戦闘力の高さには大した意味はなく「生き残れること」のみに多大な意味がある。


ゲーム感覚だと個人の戦闘力の高さにこそ意味があるかのように錯覚しがちだが…

生身で生きる世界だと模擬戦で最強の筈の男が不意打ちや流れ矢でアッサリ死ぬ。

「どんな局面でも生き残ろう」と思うなら、金で自分を守らせたり九死に一生を得る強運を持っていたりといった個人の戦闘力云々を超えた要素でのアドバンテージが必要になる。


そういったアドバンテージの一つには「後天的に習得できるスキルのバランス」なども含まれる。


スキルにはアーツが伴い、スキルは使う程に熟練度があがる。

数値化されて表示される事は無いが、アーツの効果はアーツのレベルに応じて異なる感じだ。


クラークは【弓術】のスキルを持っているが、【弓術】には【必中】のアーツが伴っていた筈。


アーツのレベルが低いと何度も使えないし、効果も落ちる。

アーツのレベルが高いと何度も使えて、効果も上がる。

クラークの弓の異様な命中率は彼のアーツのレベルが高い事を示している。


クラークに限らず、この世界の人達は鑑定してもスキルしか表示されない。

他人の実際の強さは鑑定しても分からず、実戦を見る事でしか分からない。


異世界ファンタジーのテンプレ

「弱そうに見える俺tuee主人公に雑魚キャラが絡む」

みたいなシチュエーションも

「この世界では本当に起きかねない」

のである。


「実戦以外で他人の強さ弱さを識別する情報が得られない」

ような世界は実に紛らわしいものだ…。



ブラックウェル商会の専属護衛の皆様は【2倍の加護】持ちのリーヴァイ・サックウェルを除き、普通の戦闘職とは一味違うスキルを持っているが、当然ながらスキル熟練度は鑑定では分からない。


彼らは【一角獣】の人達と違い、私に対しても親切…。

ただ妙な勘違いはありそうだ…。


「…誰にだって自分の人生があり、自分の価値観がある。実力がある強い男に女がすり寄るのは普通のことだ。

世間的に不倫理に見えても、無理強いとかではなく、双方が納得してるのなら、どんな男女関係であろうと頭ごなしに否定するものじゃない」

という言い方で、私に対しても親切なのだ…。


(私が性的搾取されながら【千本槍】に寄生してると思い込んでるみたいだ…)

と感じて

「…何か、変な誤解があるんじゃありませんか?」

と誤解を解こうとするのだが


「俺達は変な偏見を持ったりしないから大丈夫だ」

などと言われて説明しようとする言葉が遮られてしまう…。


「だけど、いつか、今の生き方に疑問を感じるようになって、人生をやり直したいと思った時には頼ってくれて良いんだぞ」


(…うん。「人生をやり直し」しなきゃならないくらいに私は道を踏み誤ってる人間だと思われてるんだな…)


「…普通に依頼受けて暮らしてるだけなんですが」

私の言葉を誰も信じてくれない…。


善意の親切な人達は他人を誤解したままでも相手に嫌がらせもしないし対人関係に問題も生じない。

だから誤解を解く必要性が無くて、余計に誤解しっぱなしになるのかも知れないと思った…。


挿絵(By みてみん)

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