小動物実験
一方で、賞金首の生首だがーー
ハートリーまで行商隊を護衛しながら進むと腐ってしまう
という事が問題として表面化した。
そんなこともありセルデンが
「【千本槍】の斥候さんと【蛇比礼】の斥候さんとで共闘して先にハートリーの冒険者ギルドへ賞金首の首を届けて頂きたいんですが」
と指示を出した。
【風神の千本槍】の斥候はランドン・ウォーロック。
【狂戦士の蛇比礼】の斥候はジョーダン・ターンブル。
【気配察知】スキル【俊敏】スキルが逃げ足の速さに反映する。
敵との遭遇・戦闘を避けて先行するのに問題はないメンツだ。
「…分かった」
「了解…」
セルデンが「大丈夫だろう」と思い、先に送り出す2人だが…
内心では不安に思っているのかも知れない。
返事をした時の態度が少し渋々といった様子だった。
「気色悪い野郎の生首を運ぶんだ。ちゃんと2人には報酬も色を付けてやるんだろうな?」
とアルヴィンが横目でセルデンを見ると
「勿論です」
とセルデンは澄まして答えた。
一応、負担の大きい役割を振られた場合には
別個に手当が支給されるという事らしい。
危険はあるだろうが、見返りはある。
斥候2人以外は行商隊と共にのんびりハートリーへ向かう。
商隊は順調に進んでいるが、あと4日ほど掛かりそうだとのこと。
【狂戦士の蛇比礼】メンバーが積極的に話しかけて来るようになったので、私もなかなか独りきりになれなくなり…少々困った。
お陰で排泄したい時には木陰などに隠れてから素早く
「不可視」
を使い、姿を消してから用を足すように気をつけた。
「不可視」
を使えば、裸になっても誰にも見られない…。
裸体で自分自身に
「清掃」
を掛けると、全身を洗ってシャワーを浴びたようにサッパリする事が分かったし
脱いだ服を
「洗濯」
「乾燥」
で綺麗にしても誰の目にも映らない。
「不可視」
を先に使っておけば魔法も使い放題。便利だと改めて気付いた。
なので人目を盗んでは姿を消して魔法を使った。
この世界は地球と違って調味料・香辛料の値段が異様に高い。
この世界の瓶に調味料・香辛料を移しかえて売れば高値で売れる。
そこで使いたいのは
「取り寄せ」。
「この世界で需要のありそうな物を毎日少しずつ出しておきたい」
と思ったのだ。
そうやって魔法を使っていたからか…
「回避」
「命中率上昇」
に引き続き
「障害矯正」
「適正化」
もグレーアウト状態から解放されていた。
どんな作用の魔法なのか?
魔法名からだけでは分かりにくいので、鑑定したら
「障害矯正→歪み矯正」
「適正化→適正状態への調整。体力回復作用あり。魔道具・魔石への魔力充填作用あり」
と出た。
コレクトの矯正は歯の矯正や骨盤の矯正などと同じように、イビツな状態へと崩れた形を正しい形へと矯正するものなのだろう。
オプティミゼーションが適正状態への調整で体力の回復もあり、魔力まで充填できるというのだから、実は幅広く使えるのではないかと思った。
「いきなり人間に使うのは不安だけど…無害そうな小動物とかで実験したいなぁ…」
そう思った事もありーー
私がハートリーに着いてやった事は先ずは
「野良猫探し」
だった…。
野良猫を引き寄せる吸引力。
それは鰹節だ。
「取り寄せ」
で削り鰹節を仕入れておくと料理の出汁にも使えるし、こうやって野良猫を誘い出す釣り餌にも使える。
裏通りは治安が悪いとの事なので、表通りから路地へ少し入った所で
「ニャァ〜」
と猫の声真似をして削り鰹節を取り出した。
ビニールの包装からは出していて、この世界特有の麻袋に入れている。
袋を開けていなくてもバッグから出した時点で匂いは漏れてる筈。
「ニャァ〜」
と下手な猫真似をしてると
「猫が好きなのか?」
と声がした。
「………」
小動物全般が好きなので猫もそれに含まれるが、猫だけを特に好きという訳ではない。
だが実験台にするために小動物を確保しようとしてるとは言えない。
私が黙ってると声を掛けてきた相手は
「…えっと、俺は怪しい人間じゃない」
と不審者が言うような言い訳をし出した。
「…猫が好きだから、それで、たまに餌をやったりしてるだけだ。…今日は俺以外のヤツが餌をやろうとしてるみたいだから気になっただけだ」
不審者は当人の自己申告では愛猫家のようだった。
まだ若い。
私と同じくらいの年頃の少年だ。
「…そうなんですね…」
猫好きを前にして猫に魔法の実験をするのも気が引けるので、思わず後ずさりした。
場所を変えて、別の場所で猫釣りをしようと思ったのだが…
「一緒に餌をやろうか」
と言ってにじり寄って来られて、後ずさりする程に寄って来られる。
(ああ、面倒だ…)
と思いながらも
「…そうですね」
と言って、一緒に餌をやる事になった…。
少年が餌を取り出すと遠巻きに野良猫が何匹も現れたが、私が居るせいなのか、なかなか近くまで来ない。
(ここの野良猫は警戒心が強いなぁ)
と思いながら麻袋を解いて、中の鰹節を出す。
ーー途端に猫達は興味津々になった。
一見すると木屑のような見た目だが…匂いはそれを裏切る。
香ばしい魚の匂いが辺りに漂い、最初の1匹が食欲に負けて私の元へとやって来て鰹節を食べ出すと…他の猫達もそれに倣った。
「…その木屑みたいなのは魚なのか?一体どんな加工をしたらそうなるんだ?」
と猫好き少年が尤もな疑問を向けてきたので
「魚をカチカチになるまで燻して乾燥させると木片みたいに固くなるから、それを削ると、こうなる。猫が大好きな保存食だよ」
と教えてあげた。
「へぇぇ〜」
と少年が感心して猫達に目を向けている隙に
(新魔法を猫に直接掛けるんじゃなくて、鰹節に魔法効果を付与して食べさせれば良いんだ!)
と思い、サッサと手元の鰹節に魔法を付与した。
「まだまだあるからねぇ〜」
と私が猫撫で声で猫達に擦り寄る頃には、集まった野良猫の数は最初の倍ぐらいに増えていた。
6匹だったのが13匹。
中には病気のヤツもいるので鰹節にリカバリーも付与。
骨折した事があるのが、微妙に骨が歪んでるヤツはちょうどコレクトの効果を見る被験者として最適だ。
腹を空かせて体力も無さそうなヤツはオプティミゼーションの効果を見る目安になる。
(首尾は上々…)
ニヤリとほくそ笑んでいると
猫好き少年は何を勘違いしたのか
「優しいんだな…」
と生温かい目を向けてきた。
(…こういう人って、嫌いだなぁ…)
と内心で嫌悪感を感じながら、それを悟らせぬように聞こえなかったフリをして、猫達の様子を観察し続けた…。




