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レイドバトル感覚の襲撃

挿絵(By みてみん)


(「1人残らず殺す」というのは随分と難しい注文だな…。何人かには逃げられてるから、任務失敗か…)

と思った。


言葉の意味を言葉通りに捉えたのだ。


実際には

「盗賊達に本当の身元を明かす機会を与えない」

事こそが大事なのだそうだ。


捕虜を捕ると、捕虜を取り返そうとして、残党が

「我々のバックにはマルセル軍がいるんだぞ」

などとウッカリ本当の身元を明かして交渉して来ようとしてくるかも知れない。

それを回避するべく捕虜を捕らない。


「逃走できない敵を全員殺す」

という意味なのだった。


なので

「致命傷を負って戦意喪失している敵を殺していくように」

指示がくだり、私もそうした作業に着手したのだが…。

その作業が精神的にキツいものがあった。


殺さなければならない理由としては理解できる。


国同士の全面戦争になれば、こういう悪党達ではなく無辜の庶民が大量に命と財産を脅かされてしまう。

そんな事態の元凶になりそうな因子を生み出させないためにも、国や軍を引き合いに出させずに、ただの悪党として殺すのが無難だ。


(何も知らずに暮らしてる人達の人生を尊重する事と、民間人のフリをした敵国の兵士を民間人犯罪者扱いで殺す事とが、繋がってる…。それなら、誰かがやらなきゃならないし…。多分、私が知らずにいただけで、ずっと誰かが手を汚してくれてたんだ…)


盗賊達は嬉々として襲い掛かってきていた。

食い詰めて、耕やす土地も持たず、暮らしていくために他人から奪う者達が持っている筈の

「追い詰められた悲痛さ」

など無かった。


それこそオンラインゲームで集団でレイドバトルに挑戦でもするみたいに…

皆で仲良く仲間ごっこしつつ敵を打倒しようと

「ゲームを楽しんでいる」

かの如く嬉々として襲ってきた…。


彼らは他国へ入り込んだ途端に脱抑制的に悪徳解放して

仲間同士群れて在住国の地を不法占拠。


盗みや詐欺で得た金を依存症ビジネスで増やしたり

嬉々として在住国民をカモにする組織犯罪に手を染める。


あり得ない外道ぶりだと思うのだが


そういう人達の在り方は

「アウェイをホームへ変えようとする侵略者」

にとってありふれた道なのかも知れない…。


彼らは

「侵略者を排除しようとする在住国側の保守自衛」

「悪しき魔物に見立てている」

かのようだ。


レイドバトル感覚で先住民を魔物に見立てて侵略者同士で仲良く団結。


先住民を魔物に見立てる差別を自分達の方こそ先にしておきながら

先住民に反撃されれば

「先住民に差別され生存権を脅かされた!」

と被害者しぐさを熱演して集団自己憐憫に浸り逆恨みする。


そういう倒錯した精神はーー

組織的に悪を行う異邦人らが共通して持っている狂気なのかも知れない…。


私は盗賊達にトドメを刺していきながら

(この人達は侵略の駒でありながら自分達が侵略者であり悪であり死すべき行いを遊び感覚で楽しんでいた外道なのだと自覚もせずに、ただ反撃された事を逆怨みしながら死ぬのだな…)

と思った。


何故見逃してくれないんだ

恨んでやる

呪ってやる

と言いたげな目付きで睨んでくるのが気持ち悪い…。


「…略奪行為は遊びじゃないんだ。結果的に返り討ちに遭って何も奪えなくても捕まれば命が取られる。それに文句を言う資格もない。そんな重大な罪なんだよ…」


最期まで罵詈雑言を吐く盗賊達には

冷静に諭す声など届かない…。


「…血が流れ過ぎれば意識も無くなるから、心臓を刺して殺してあげるね。

自分の体が欠損する苦痛も恐怖もせめて味わわずに、意識を失くして、そのまま逝っていいよ…」

言い訳のように私の口から残酷な言葉が優しく溢れた…。


その声を聞いたのは、まさに血が流れ過ぎて意識を失う直前の者達のみだったろう…。



********************



「やっと木箱で垂れ流す糞まみれ生活から解放されたぜ!」

と、皆の心境を【狂戦士の蛇比礼】リーダーのアルヴィン・マリオットが代弁した。


(…本当に。やっと生理現象を普通に処理できる…)


苦痛ではあったが…

その苦痛があったからこそ、盗賊達にトドメを刺す際に向けられた逆恨みに対しても跳ね返す圧力が自分の中に生じた気がする。


(…苦労知らずで何の苦痛もなかったら、敵の逆恨みに簡単に呪い倒されるのかも知れない…)


今回、ダイレクトに逆恨みを向けられた事で

「意志の力というのは苦痛を我慢させられる事で蓄積される面もありそうだ」

と感じたのだった。


私がしみじみと苦痛の意味を考えている傍らでアルヴィン・マリオットはチェスターに

「実はお前らが食ってた携行食がずっと気になってたんだ。カネは出すから、ちょっと分けてもらえないか?」

と食料の購買を持ち掛けた。


「そうだな。これ以上コソコソする必要はないし、賞金首の首をハートリーまで持って行った後はハートリーで好きなだけ食い物を仕入れられるしな。

俺達も携行食とは思えないくらい美味いと思ってたし、帰りの分で用意してた分は売っても構わない。マリー、持ってきてくれるか?」


「帰りの分ですか?片道12日で計算してたから結構ありますよ?」


「ああ、構わない。セルデンやマードック先生が美味そうに食ってたから、どうしても食べたくなったんだ」


「…あの人達、私が食欲ないのを良い事に私の分をほぼ奪って食べてましたね…」


「セルデンは無表情だし食に固執する人間じゃないのに露骨に欲しがってたから相当気に入ったんじゃないか?」


「それじゃセルデンさんに売る分はとっておいた方が良いでしょうか?」


「いや、帰りの分、全部売ってくれ、セルデンが欲しがったら、俺達の方から吹っ掛けて値を付けてやろうかと思ってる」


「成る程。なかなか良い意趣返しだな」


「…俺達に糞まみれ生活を強いたんだ。同じBランクパーティーなのに【緑風のカマイタチ】には依頼してなかった所がまた意図的だろう?

【緑風のカマイタチ】のリーダーはエアリーマス領主の親戚だからな…。

Bランクパーティー間に待遇格差を付ける性根がありそうなんで、ちっと嫌がらせしてやらないと割に合わないだろう?」


「確かにな」

チェスターがウンウンと頷いて私の方を見たので、私は言われた通りに帰りの分の携行食を取りに行った。


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