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間話

挿絵(By みてみん)


「『胃袋を掴まれる』って言い方があるけど、なんか最近、俺達はマリーに胃袋を掴まれてる気がする…」

そう言うランドンは微妙に困っていた。


最初はマリーに対して全く良く思っていなかった。

むしろ

(男所帯に入り込む若い女なんて、余程の男好きなんじゃないのか?!)

と思って嫌悪していたのに…この頃ではマリーの事が可愛くて仕方ない。

思わずランドンは溜息をついた…。


「そうだね。もう以前の食生活に戻れないと思う。美食家達の食への欲望が今ではよく判るよ…」

クラークもこれまでの自分が食べ物に関してかなり無関心だった事を自覚していた。


一度美味しいものが当たり前に得られる環境になると

それに慣れてしまって

以前の状態には戻れないという…


そんな苦労を【風神の千本槍】メンバーは感じていたのだった…。


ちゃんとダシを取り、旨味調味料を隠し味に加える。

それだけでも随分と料理は美味しくなる。


「キッシュっていうヤツ、美味しいよね。マリーが作ってくれて初めて食べたよ」

そう言うクラークの言葉に


「ウィングフィールド公爵家はかなりケチらしくて厨房の料理人達は創意工夫を凝らすのを余儀なくされていたらしいからな。

環境による苦労がマリーの中で今ようやく実になってるって事だろうな」

とテレンスが答えた。


「あっ…。やっぱり、マリーって、フェザーストン支部で出てるっていう人探しの依頼の対象者なんだ?」


「みたいだぜ?セルデンが調べた所によると、依頼主のリックってやつは捜索対象《さがしびと》のローズマリーとは許嫁関係のつもりらしかったようだが…事はそう単純ではないらしい。

リックの親父は娼館にローズマリーを売るつもりだったみたいで、リックが冒険者ギルドに出してる依頼の依頼料は娼館側が負担している。

『金になる』と思ってた娘が忽然と姿を消した事で、リックも、その親父も困ったんだろうが…。

困ってるのは2人だけじゃない。どうやらローズマリーがやらされてた仕事の仕事量がこれまた半端じゃない。

給金も休日も与えずに孤児を奴隷待遇で酷使してたんだ。

ローズマリーが居なくなった事で、屋敷全体で仕事が回らなくなってて、使用人を増やすように執事が公爵に打診してるって話も聞こえてくるんだと。

そんな中、公爵家としては『そんな人物は初めから居なかった』と主張してて、向こうじゃ捜索は難航を極めている。

そもそもがローズマリーは公爵が使用人に産ませた庶子で、認知すらされていない。

だが【投擲】スキルとか、平民の孤児が持つようなスキルじゃないだろう?

容姿も平民離れしてるしな。

手配書に記載されてるローズマリーの容姿がマリーそのものだ。

あと、俺達がマリーと出会った頃から逆算してフェザーストンまでの徒歩で掛かる時間を引くと、ローズマリーが出奔した時期とズバリかぶる。

『マリー』って名前自体、『ローズマリー』の略称だ。まんま当人って事で間違いないんじゃないか?

そのうちセルデンが向こうでの捜索を打ち切らせるために本人確認するべくマリーに接触して話を引き出すだろうさ」


「…公爵家の庶子か…。スキルのレアさや容姿の端麗さからしても信憑性が高い話だな」


「ウィングフィールド公爵って美男で有名だったね」


「ふん。美男だかなんだか知らないが、決して『イイ男』じゃないよな。使用人に手を付けて子供産ませておいて知らんぷり。

いっその事孤児院へでもなすりつけておけば良かったんだ。

それを外聞を恐れ、下級使用人の子供達と一緒に屋敷内で下級使用人扱いで飼い続けて、給金も出さない、休日も与えない、ときたもんだ。

借金奴隷だって借金返せば仕事すれば金をもらえるように待遇改善されるチャンスが訪れるってのに、無責任な貴族が産ませるだけ産ませて認知せずにいるせいで悪循環から抜け出すキッカケすら与えられないんだからな。

ある意味で奴隷より酷いだろ?『イイ男』が自分の子供をそんな目に遭わせる訳がない。ウィングフィールド公爵。俺は相当なクズだと思うぜ」

テレンスが憤慨して言う。


その言葉に共感したらしく、チェスターがウンウンと頷いている。


「苦労したんだから、もう報われても良い筈だよな…」

とチェスターがしみじみと呟いた…。



チェスターは「子供」「孤児」が酷い目に遭っていると反射的に「助けなければ」と思ってしまう。


子供の頃ーー

幼馴染みの少女が孤児だった。


「大人になったら結婚しよう」

と約束していた。


だけど少女は人買いに売られた。

実の子供でも売る親がいる世の中だ。


少女の叔父叔母に当たる人達は金に困り

迷いもせずに少女を売る事にした。


何もできなかった。

金を得る手段を持ってなかった。

助けられなかった。


その悔しさがいつまでも忘れられなくて、その初恋以降、恋愛感情など感じることもなくなった。


今ではアチコチの娼館を回り、身を売る女性達の顔を確認して、幼馴染みだった少女の面影を宿す女性がいないかを探す事だけが趣味のようなものだ。


自分で慰めるだけでも事足りるのに、護衛依頼などで離れた土地へ行くと必ず娼館を回って幼馴染みを探す。

ロベリアをーーー。


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