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困っている人を助けたくない

挿絵(By みてみん)


「魔石取り出しと毛皮剥ぎを頼むぞ」

チェスターの指示で私が素早くグリーディー・フォックスの死骸に近づく。


チェスターとランドンは不器用らしく素材剥ぎ取りには参加しない。

他の者達が素材剥ぎ取りしている間に周辺を警戒する役目だ。


テレンスとクラークが手伝ってくれて先に魔石を取り出してくれたので、私は最初の1匹以外は毛皮を剥ぐだけで良かった。


死肉を漁る魔物だけあってグリーディー・フォックスの肉はとても臭くて食べれたものじゃないのだそうだ。

肉を放置しておいても他のグリーディー・フォックスが食べて始末してくれるなり、ダンジョン自体が死骸を飲み込んでくれるので3日もすれば跡形なく消えるのだとか。


なので言われるがままにグリーディー・フォックスの肉は放置…。

毛皮は庶民用の安い防寒着の素材となる。

安く買い叩かれるのは目に見えているが、誰も持ち帰らないと安価な流通は途絶える。

冒険者にとっては安い素材を持ち帰るのは社会に対するボランティア的な意味合いもある。


「肉はバイオレント・ボアの肉が美味いんだ。アイツら集団で攻撃して来るから厄介なんだが、牙も角も良い素材になるし、肉も美味しいから狩るのは楽しみではある」

テレンスが肉を勿体なさそうに見る私に教えてくれた。


(…ボア…。イノシシ型魔物の肉か…。確かに美味しそうだよな。イノシシ肉で夕飯、何作ろうか?)

思わず食事のことを考えた…。



【風神の千本槍】メンバーの進行は静かだ。

冒険者が金属の鎧を身に付けない理由として金属の擦れる音を魔物に聞かせないため、というものがあるが、それは事実。


魔物は人間よりも聴覚・嗅覚に優れる。

動物や魔物の皮を使った防具が好まれるのは、魔物に人間の接近を気付かせないフェイクも兼ねている。


冒険者の多くが「盗賊」討伐の際には金属の鎖帷子に鎧を付けるのに、「魔物」討伐の際には皮の防具を付けるのだという。


ダンジョン内は広い。

魔物とのエンカウント率はそう高くない。

斥候のランドンがバイオレント・ボアの群れを見つけるまで20分くらい経っていた。


(額に一本ツノのあるイノシシだ…)

肉が美味いという先入観のためか…

私の目にはバイオレント・ボアが牡丹肉にしか見えなかった…。


バイオレント・ボアの場合はグリーディー・フォックスと違い、逃げられる心配はない。

なので一撃必勝の攻撃をする必要はない。


バイオレント・ボアが8匹。

矢で不意打ちして、畳み掛けるように槍と剣でも攻撃。

数分で全てが終了。


人間側は全員無傷でバイオレント・ボアを屠った。


「肉が結構な量になるし、今日の間引きはここまでだな。血抜きを済ませて内臓を捨てたらダンジョンを出よう」


素材剥ぎ取り、解体はダンジョンを出て行う事になった。

毛皮も肉も角も牙も魔石も必要部分。

運ぶ重さは変わらないので死骸のまま運ぶ。


私が運ぶのは3匹。

思わず自分が持つ分には「軽量化ウェイトセービング」を使った。

そのままでも運べない事はないが、急に魔物が出た時に反応が遅れたら困る。


命が掛かってる場面では特に身軽でなければならない。

(亜空間収納庫にしまえたら一番楽なんだけど…それを使えば絶対説明に困るだろうなぁ…)


ただ忘れてはならないのは

「超レアスキルの事がバレると困るのは人生の平穏と自由を確保するためだ」

と言うこと。

「命が危険な時は隠すことに固執せずに全力で自分の命を守るべきだ」

と言うことだ…。



********************



冒険者は騎士団でも警備隊でもない。


なので冒険者は

「魔物や盗賊に襲撃されてる人達を見ても助ける義務を負って居る訳ではない」

のである。


魔物討伐や盗賊討伐の依頼を受けて居る時のみ

襲撃されている人達を助ける義務が生じている。


冒険者は公金から給金を得ている公務員とは違う、という事だ。

だがその道理を理解してない人も多く

「近くを通り掛かっていたくせに助けてもらえなかった」

事を逆恨みするのだそうだ。


そういった人達がいるのを知ると

「襲撃されて困ってる人達を見ても助けたくない」

と思いそうになると思うのだが…


【風神の千本槍】の場合はリーダーのチェスターが

「必ず助けようとする」

タイプの人間なので他のメンバーもそれに付き合わされている。


【ウォッシュボーン・ダンジョン】からの帰りにコボルトに襲われてる人達と行き合い

(どうするんだろう?助けるのかな…?)

と思ってる間にも、チェスターが荷物を放り出してコボルトへと向かっていった。


「…やっぱり助けるのかぁ…」

とテレンスが疲れたような表情になって後に続く。


ランドンとクラークも荷物を地面に置いて弓を構えた。

コボルトの数はざっと見て20匹くらい。


「テレンスのヤツ、襲われてるのが若い女だったら真っ先に助けに入るのにな。…アイツは襲われてる相手次第で態度を変え過ぎだ」

とランドンが仏頂面で呟く。


「まぁ、気持ちは分かるんだけど。…普通は彼みたいに素直に自分の感情のままに差別化したりしないよね」

とクラークが苦笑しながら、的確に矢を放ちコボルトを仕留めていく。


(まだかなり離れてるのに、すごい的中率だ。…クラークさんの【弓術】ってコモンスキルだから後天的なものの筈だし、相当頑張ったんだろうな…)


距離が長いと的中させる精度の差も露骨になるのか、ランドンは幾つか外しているのに対してクラークは必中だった。


「私も投擲した石が届く範囲なら加勢できるんですが…」


「その必要はない。じきに終わるよ。チェスターはリーダーなだけあって流石に強いからね」


クラークが言うように、チェスターの動きは鬼神もかくやというものだった。


ダンジョンではテレンスの方が多く動いて活躍していたようだったが…

襲われている人達が家族連れらしい中年男女3組と子供達なので、テレンスはヤル気がなく、手を抜いたように見える…。


だが、襲われていた人達のうち、中年のオジサン達や男の子達がチェスターの周りに集まってお礼を言う一方で…

中年のオバサン達や女の子達がテレンスの周りに集まって(目をキラキラさせて)お礼を言っているのを見てーー

何となくテレンスの態度に納得した。


イケメンなので

「助けた相手が女性だと惚れられやすい」

のかも知れない。


「中年女性や子供は対象外だ」

という意向を露骨に態度に出して面倒事を避けようとしてる

という事なのだろう。


女性陣が熱っぽい視線をテレンスへ向けるのを見て、何故かモヤッとしたものを感じたが、それに関して深く考える事はなかった。


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