魔物間弱肉強食
ダンジョン内の魔物は強い。
ダンジョンは魔素が満ちていて魔物にとって居心地が良い。
なので弱肉強食の強者がダンジョンに根を張るのだ。
基本的に魔物は何でも食べる。
同族すら食べるのでダンジョンに人間が入って来なくても魔物達は本来なら餌に困る事はない。
「被食者魔物がダンジョンから逃げ出したりしなければ」
ではある…。
この世界には元々は魔物はいなかった。
世界各地でダンジョンが発生するようになり
ダンジョンから被食者魔物が逃げ出し
人間や野生動物が暮らす領域で暮らすようになった。
それが結果的に
「魔物が溢れる世界」
という現状に繋がったのだった。
スライムを始め、ゴブリンやコボルトなどもダンジョン内では
「強い魔物にただ餌にされる」
ので自然界に棲みついている。
ネズミ型魔物やウサギ型魔物も同じ事情でダンジョンよりも自然界の方に溢れている。
水の中で暮らす魔物達の場合は水中にダンジョンがあって、そこから溢れて来るので、空気を必要とする人間には水中ダンジョンの攻略もダンジョン内の間引きも不可能。
自然界には魔素が無い、もしくは魔素が希薄。
なのでダンジョンから逃げてきた魔物達は本来体に必要な要素を充分に取り込めていない。
「自分自身の進化能力を環境適応力に極振りしている」
ため
「生命力と繁殖力は高いものの攻撃力と防御力は低い」
ものが多い。
「自然の中で見かける魔物はダンジョンの魔物よりも弱い」
というのは陸棲魔物も水棲魔物も同様である。
私は当然、ダンジョンに潜った事は無かった。
外だとゴブリンは普通のゴブリンなのに…
ダンジョンだとホブゴブリンやらレッドキャップやらの上位種が出る。
初めてダンジョンに潜ってレッドキャップに遭遇して感じたのは
(コワイ…)
という生々しい恐怖だった。
ダンジョンという空間自体が人間に対して悪意的。
そんな空間の中で強力な魔物達が人間を
「餌だ」
と認識して集団で襲って来るのだから…
誰だって慣れるまでは当然のように気圧されて恐怖を感じるものだ…。
幸い、私は戦闘する機会はない。
【風神の千本槍】メンバーが倒した魔物からの素材剥ぎ取りと、剥ぎ取った素材の荷運びが仕事。
(ダンジョン魔物って、すごい迫力だよな…。こういうのが延々湧き出すスタンピードって、人間にとって本当に悪夢だな…)
(強い魔物だとメイクバリアーで出る電撃もさほど効果が無いかも知れないし、強い魔物相手の対策も今後のために考えておかなきゃだな…)
現実とゲームのシナリオが無関係なら、この国の平和は続くのだろうが…
ゲームのシナリオ通りに進行する強制力があるのなら、4年後にスタンピードとバールス王国による侵攻が同時に起こる事になる。
ゲーム内ローズマリーはその前に処刑されてるから関係ないが…
公爵家を出奔してマリーとして生きてる身だと、ホワイト王国の滅亡は一国民として大打撃。
スタンピードには兆候があるらしいので、兆候が出た時点で
「ダンジョン内で死亡する確率の高い弱い人間の出入り制限」
をしたり
「ダンジョン内で殺した魔物の死骸を多く持ち帰る」
ようにして
「ダンジョンが得る養分を枯らしていく」
対策を採れば、不発で終わる事もあるのだと周知されている。
ダンジョン自体が空間属性の魔物。
ダンジョン内で魔物が大発生してダンジョン外へ溢れ出る現象を
「ダンジョンによる出産だ」
と見做す見方もある。
ダンジョンには宝箱をドロップするダンジョンとドロップしないダンジョンとがあり、雄と雌の違いがあるのではないのかと言われている。
通説によると
ドロップするダンジョンがスタンピードを起こし
ドロップしないダンジョンはスタンピードを起こさない
との事。
真新しいダンジョンと古過ぎるダンジョンもスタンピードを起こさない。
スタンピードを起こすのは、宝箱を出す雌のダンジョンのうち、できて180年から400年くらいまでのダンジョン。
スタンピードを出産に擬えて
「充分な養分を摂れなくさせれば死産にさせられる」
と考える考え方が出てきても不思議ではない。
東部と南部東方は宝箱を出さない雄のダンジョンが多い。
伝承では雄ダンジョンではスタンピードは起きない事になっている。
(だけど何事も「絶対」とは言い切れないので雄ダンジョンでも警戒は必要)
思えば、ゲームのシナリオでもスタンピードを起こすのは
「西部のドロップ有りSランクダンジョン」
だった。
リスクを減らすには宝箱をドロップするダンジョンを攻略して消滅させておくのが一番だと思うのだが…
宝箱から出る宝物や高ランク魔物の魔石や素材による経済利益に依存している人達はそれを決して許さない。
「西部のスタンピードとバールス王国軍による東部上陸とが同時に起こる」
のは
「スタンピードの兆候が出ている情報をバールス王国が把握していたから」
に他ならないのだが…
「よその国でも把握していた情報をホワイト王国側が把握しておらず対策もしていなかった」
が故の王国滅亡なのだから…
この国の上層部の無能と怠惰と無責任さには呆れる…。
(4年先だし、19歳の私はめちゃくちゃ強くなってる予定だし、その頃には西部のスタンピードを不発にさせる対策もとれる筈だけどね!)
先行していたランドンが戻ってきて
「この先にグリーディー・フォックスが3頭」
と進路方向の状況を報告した。
ダンジョン内にはスライムがいない。
スライムは弱過ぎてダンジョン内では生き残れない。
なのでスライムのような死骸掃除役の魔物としてダンジョン内にはグリーディー・フォックスがいる。
雑食で主に死肉・腐肉を漁る。
俊敏さ、嗅覚、隠形に優れ、攻撃力は低いので戦闘を避けてひたすら潜伏。
他の魔物の打ち捨てられた死骸が有れば食事するために隠形を解いて姿を現す。
そういう性質の魔物なので、万全の体制で居る時にはさほど脅威にはならないが、弱った相手に攻撃する卑怯な魔物でもある。
安価ながら毛皮には需要があるので不意打ちで倒せる機会があれば討伐されている。
ダンジョンにはS、A、B、C、D、Eと6段階の区分があり
S、A、Bは「高ランクダンジョン」
C、D、Eは「低ランクダンジョン」
と呼ばれているが…
グリーディー・フォックスはほぼ全てのダンジョンで掃除屋をしているDランク魔物。
そこまで強くないのに素早さと気配察知能力・気配隠蔽能力が高く、ダンジョン内での生き残り能力に長けている。
「グリーディー・フォックスは食事中か?」
「ああ、オークの死骸に3頭で喰らい付いてる。オークの頭が陥没してる所を見ると、トロールにやられているようだ。トロールが喰い残したものに群がっているんだろう」
「不意打ちで綺麗に仕留められそうなら、やってみるか」
「マリーは皮は剥げるか?」
「できます」
「よし、それじゃいくぞ」
討伐する事に決まったので気付かれないように足音を忍ばせて進んでいく。
嗅覚が優れているのなら人間の匂いが近付けば気が付きそうなものだが…
グリーディー・フォックス達は食事に夢中で全くこちらを警戒できてないようだ。
誰も声を出さずに、皆ハンドサインで指示をやり取りする。
ランドンとクラークが頷いて、それぞれ矢を3本一緒に構えて飛ばす。
(えっ、3本同時に引いて3つの的に当てるとか、そういう名人芸でもするつもり?)
と私が驚いている間にもクラークの矢が3本とも魔物の急所に突き刺さり、ランドンの矢も1本刺さって魔物は絶命…。
「お見事!」
とテレンスが弓士2人を褒めた。
【お知らせ】
完結まで書き終えました。220話で完結予定です。
2025年1月4日最終回予定となります。




