冒険者の事情
調味料は高価だが、この家には調味料が色々ある。
フレッシュハーブの類が置いてないので、庭の一部を菜園にしてハーブを育てたいところだ。
歯磨きという文化が定着してる訳ではないのだが、リコリスチップを噛んだり繊維質の草を(主に茎を)噛んだりと、歯磨きに近い事はなされている。
ミントの茎、硬くなったルバーブを噛むのもその一例だ。
ドライフルーツを練り込んだ小さめの丸パンとオムレツ、温野菜、カリカリベーコンとカボチャのポタージュ。
昨夜の食べっぷりから
「朝食もガッツリ肉か魚を」
と思わないでもないが…
胃腸を労わるなら朝のタンパク質は卵が良いだろう。
昼食は本当に準備しなくても良いのか判断が付かないので、水分を抑えたものーークッキーか何か携行した方が良さそうだと思った。
この世界にチョコレートのような嗜好品があるかどうかは見た事もないので分からないのだが私としては
(もしかしたら他の国には有るのかも…)
と思ってはいる。
いつかチョコチップクッキーでも作りたい所だ。
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食事を終えて後片付けすると屋根裏部屋で歯磨きをした。
口を濯ぐ際の水は魔法で出したが
(そう言えば「出す」魔法はあっても「消す」魔法はないな…)
と気が付いた。
「魔法創造」
が出来るようになったら作りたい魔法は色々あるが
「消す」魔法も作りたい魔法リストに加えたいものだと思った。
それよりも、仕事に出掛ける前に必ず済ませておくべきなのは排泄…。
それこそ排泄物を排泄と同時に「消す」魔法ができたなら永遠に排泄問題から解放される…。
冒険者が同性同士でパーティーを組むのは「野外にはトイレなどない」という部分の事情による所が大きい。
女性が排泄する場面を覗いて何が楽しいのか…
そういう場面を覗こうとする男が稀に存在する事もあり、女性冒険者は女性冒険者同士でパーティーを組む。
ゲーム空間のような排泄問題のない空間なら普通に男女混同でも良さそうだが…
「生身の肉体を持って生きる世界での野外活動」
は同性同士で組む事になる。
この肉体の場合、基本的に排泄は朝に一度だけ。
出しておけば翌日の朝まで排泄で悩まされる事はない。
尿も夜寝る前に沢山出る分、それ以外で何度もする必要がない。
野外活動向きの体質だと言える。
若いせいもあるのだろうがマリーの肉体は前世の肉体よりスペックも高く色々と都合が良い。
公爵邸での生活が毎日忙し過ぎて排泄・排尿のような生理現象でさえも自分の世話にかまけている暇が無かった事もあり、自然とそういう体質になっていった気がしないでもないが…
「世の中、そういうものだ」
と思ってると、どんな不条理な環境であっても適応できてしまうのが人間の悲しい所なのかも知れない…。
ともかくポーターとしての仕事は今日が初仕事。
使用人としての仕事は【清掃】スキル【調理】スキルがあったので、やり過ぎてる感があっても
「スキルのお陰」
で済んでいるし問題なくやれてると思うのだが…
ポーターの仕事は正直上手くやれる気がしない。
低ランク冒険者としてソロで活動した方が魔法の練習も出来るし都合が良い。
Gランクのソロだと討伐依頼を受けられないので討伐報酬は貰えない。
素材の買い取りのみとなる。あまり稼げない。
あと、低ランク冒険者数は多いのに低ランクの仕事は依頼数が少ない。
仕事を奪い合ってる感がある。
低ランクのうちは冒険者稼業は色々と問題が多く悩ましい。
私は
(まぁ、やるだけやってみるしか無さそうだよな…)
と割り切る事にした。
いよいよ【風神の千本槍】メンバーと共に冒険者ギルドに行って依頼を確認して、現地へ向かう。
どうやら昨日行きそびれたダンジョンへ今日向かうようだ。
ダンジョンの魔物が増えすぎないように間引きする作業。
東部と南部との境目でギリギリ南部領地に入る位置にできたダンジョンだとかで、特に間引きは怠れないのだそうだ。
ホワイト王国は島国なので境界問題は主に国内貴族の間で起こるが…
大陸の国々は隣接している。
境界ギリギリにできたダンジョンの魔物を溢れさせたりしたら
「わざと魔物を溢れさせて攻撃してきやがった!」
と見做され
「スタンピード=宣戦布告」
扱いで戦争になってしまう。
それと似たような諍いが起こるのが境界問題。
ホワイト王国の場合も異邦ルーツの貴族も多く、そうした貴族が境界問題で争うと、彼らのルーツ国が出しゃばってきて、あわよくばホワイト王国の上層に喰らい込んで来ようとする。
決して国内問題だけで済まなくなってしまうので、余計な火種はキチンと消し続けるに限るという訳である。
政治には
「因縁つけて侵攻」
「言い掛かり付けて謝罪・賠償要求」
「哀れを装って入り込んで乗っ取り侵略」
などといったエゲツナイ人間性が絡む。
国際社会の政治事情を知れば知るほど
「人間という種が心底から嫌いになりそうになる」
のである。
人間、知らぬが仏という面もある。
冒険者の場合はそういった事情も飯の種になる事も多いので
(…あまり深く考えずに、ただ魔物を討伐して自分のできることをしてれば良いんだろうな…)
と思った。




