スキルという能力補正
この世界では15歳を過ぎると教会でスキル授与式を受ける事ができる。
それによって
「人間なら誰でもスキルを授かる事ができる」
のだ。
魔物が跳梁跋扈する危険な世界を生き抜くために神様から人間へと与えられるギフト。
それがスキル授与式で得られるスキル。
ーーと言っても大半の人間は
【一部能力向上(微)】
という微妙な補正を授かるのみ。
「視力がちょっと上がった」
「腕力がちょっと上がった」
「骨がちょっと丈夫になった」
「髪質がちょっと良くなった」
などの微妙な変化しか得られない。
それでも多少なりとも質の向上が起こる。
スキル授与式が年に二回春分と秋分に行われる事もあり、皆がこぞって15歳以降の春分もしくは秋分の日に教会へと赴く。
現在は春分が過ぎて10日ちょっと過ぎた春。
次のスキル授与式はほぼ半年後になる。
この国の成人は15歳と定められているが、一人前と認められるのはスキルを授かって以降だ。
スキルは教会の所持する住民記録台帳に生年月日や死亡日と共に書き加えられる。貴重な個人情報である。
そうやって記録を取られる事で分かる事も多い。
平民の約九割が
【一部能力向上(微)】
という微妙なスキルしか得られず
多少効果補正されていても
【一部能力向上(小)】
止まりなのに対して
貴族や、貴族家に連なる分家の平民は
【一部能力向上(中)】
【一部能力向上(大)】
の者達が多い。
高位貴族や一部の先祖返りの平民だと
【一部能力向上(大)】
の上位互換である
【2倍の加護】
と呼ばれるスキル持ちも生まれる。
他にもレアなスキルも存在するが
レアスキル持ちはこれまた貴族や王族に多く生まれる。
「スキルはそれを顕現できる肉体が必要」
なものらしく…
「レアスキルは肉体の遺伝子同様に血縁関係で引き継がれる事が多い」
と言われている。
ごく稀に平民にレアスキル持ちが産まれても、貴族や王族が次世代のレアスキル持ち誘致のために婚姻関係で取り込んでしまう。
なので、益々レアスキルは貴族や王族にしか産まれなくなっているのが、この世界の現状であった。
(…「ローズマリー・ウィングフィールド」はレアスキルの【魔法】スキルを授かったお陰で急に公爵令嬢として持ち上げられて、第三王子の婚約者に据えられたんだったよね…)
と世知辛いシナリオを思い出した…。
乙女ゲームの中のローズマリー・ウィングフィールドはヒロインへ嫌がらせしようがしまいが関係なく処刑エンドとなるキャラクターだ。
「ウィングフィールド公爵家自体が外患誘致罪で断罪される」
事によるの連座処刑なので…
ローズマリーが何か罪を犯したかどうかは全くお構いなしの処刑。
(公爵家の庶子として【魔法】スキルをゲットしてしまうから、公爵令嬢とか王子の婚約者とかいう位置に置かれる訳だし)
スキル授与式を「親の分からない孤児」として他領の教会で受ければ、ウィングフィールド家は全く関係がなくなる。
貴族とか成金に目を付けられても愛人ポジションとかで済む筈。
殺されなければ何とかなると思いたい。
現実的に考えると
(早目にウィングフィールド公爵家を出奔して他領へ逃げ込んだ方が良い…)
と分かる。
それでいて、この世界は普通に魔物が存在する。
町を出れば、普通に魔物や盗賊に襲われる世の中…。
カネのない人間が、馬も使わず護衛も雇わず旅をして他領へ向かおうにも、かなりの確率で死ぬ。
そういった事情を考慮した上で
考えられる生存ルートはというとーー
(…教会に記録を取られないように、コッソリ教会に忍び込んで自力でスキルをゲットする。その後、【魔法】スキルを駆使して他領へ逃げ、流れ者の冒険者として身を立てる…)
といったものとなる。
(死亡フラグの立ってる高スペックキャラクターに転生するなんて…「足掻いて死亡を回避せよ」と神様に言われてるようなもんだよね…)
ともかく「他領へ逃げる」という行為でさえも
【魔法】スキルの有ると無しとでは難易度が大きく異なる。
公爵家を出奔するならば【魔法】スキルのゲットと
スキルを使いこなす訓練は必要な事となる。
次のスキル授与式まで約半年ある。
その前に何とかしなければならない…。