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秘密の共有

挿絵(By みてみん)


レアスキルではあるが【治癒】スキルのようなものは存在する。

レアスキルを複数持つ者も存在する。


なので【投擲】スキルと【治癒】スキルを私が持って居たとしても…

「化け物じみた異常さ」

を見立てられる事はない。

過剰に求められ拉致監禁されて搾取される可能性は高いが…

命の危険はない。


一方で【魔法】スキルは求められもするが恐れられもする。

「報復される可能性の芽を積むため」

にも

「懐柔が難しい」

という判断になれば無力化して処刑する選択が為される可能性が高い。


「レアスキルを複数持ってると思われるのと、【魔法】スキルを持ってると知られるのとでは、どちらの方がリスクが低く済むか?」

という点を考えるとーー

答えは自ずと出る。



「…実は私は【投擲】スキルの他に【治癒】スキルも持ってるんです」

と私がカミングアウトすると


「「………」」

トウニーもマードックも絶句した。


彼らの脳内には

「「((選ばれし人間…))」」

というキーワードが浮かんだようだがーー

私は安物の服を着て髪もボサボサの格好…。


【治癒】スキルのような需要の高いスキルを平民が持っていると貴族に知られれば、拉致監禁されて搾取される未来が2人にも簡単に予想できたらしく

「「((面倒事に巻き込まれた…))」」

と言いたげな表情になった。


私のほうでは

(「使用可能魔法一覧から」と、コチラの言葉で唱えると【魔法】スキルだとバレるから、日本語で唱えたけど、上手く発動してくれた…)

とホッとしていたが


【魔法】スキルだとバレなくても

「【治癒】が使える」

という事はそれなりに重要問題ではある。


トウニーもマードックも冷や汗を流している…。


「…私のような無力な平民がこういうスキルを持ってるのがバレると悪い人達に拉致監禁されて搾取されるのは予想が付きますよね?

私の身の安全のためにも【治癒】スキルの事を黙っててくれるのでしたら、トウニーさんの妹さんの治療にも協力できると思いますが…。

誰かに一言でもバラすというのなら【投擲】スキルで身体に穴が空く恐怖と痛みと死をここで体験する事になると思いますが?

…どうでしょう?命をかけて秘密を守る気になりましたか?」


私が凄みながら尋ねると

トウニーとマードックは首をカクカクいわせて何度も頷いた…。


2人とも顔色が悪いし冷や汗をかいて具合が悪そうだが

心因性なので「リカバリー」でも元気にはならない。


私は薬棚から傷薬と鎮痛剤を取り出し

傷治癒ヒール

浄化ピュリフィケーション

傷病回復リカバリー

状態異常回復キュア

解毒ディトクシフィケーション

を付与して


「【治癒】スキルはほぼ万能なんで治癒効果を薬の材料や出来上がった薬に付与する事も出来ます」

と笑顔を浮かべて、魔法付与した傷薬と鎮痛剤をトウニーに差し出した。


途端にトウニーの顔色が良くなった。


私のスキルに関して他言さえしなければ自分も平穏無事で居られるし、妹の治療もできるのだ。

そうプラスの側面に目が向けば、その可能性に飛びつく事を即決できたようだ。

そのくらいトウニーにとっては「妹が治る」という可能性は魅力的だったのだろう。

それ以外の可能性には一切目が向かなくなるくらいに…。


マードックの方はそこまでトウニーにもトウニーの妹にも肩入れしてる訳ではない。

面倒な事になって気後れしてる状態から意識が抜け切れないようで表情は相変わらず暗い。


「まぁ、騙されたと思って、万能薬に変化した元鎮痛剤を妹さんに飲ませてあげてください。

直接治療するのではなく間接的に薬を通して治癒効果を届けるので一度飲んで完治はできないと思いますが、1週間も飲めば完治してると思いますよ?

1週間後にまた診療室に来て、その後の経過を聞かせてください」

私がそう言うとトウニーは喜色満面。


万能薬と化した薬をシッカリ握りしめて

「分かった!」

とだけ返事をするとすっ飛ぶような勢いで診療室を出て行った…。


診療室にはマードックと私が残されて、ハァーッというマードックの溜息だけが響いた…。



********************



くれぐれも

「【魔法】スキル持ちだ」

という事だけは隠し通すべきだろうと思うので…


私は

(独りきりになって人目が無い時にでも「使用可能魔法表示一覧からよく使う魔法をコピーして、ホーム画面にペーストしておく」べきだろうな…)

と、自分の為すべきことを考えた。


(とりあえず、今為すべき事はこのマードック先生を味方に引き込んで口止めすることだ…)


「それで?マードック先生は?私の要求に対してお応えくださる気はあるんですか?」

と私が殺気を漲らせながら小石を取り出すと


「ヒィッ!」

と怯えた声を上げた。


マードックは太めの体型。

小柄でもないのに見るからに弱そうではある。

戦闘に向かなさそうな性格なのか、新人冒険者である私に睨まれて身体も震えている。


「も、勿論、人生を狂わせそうな超レアスキル情報に関して勝手に当人の了承なく他人に喋ったりしません!」

とマードックが明言したので、私も多少可哀想に思った。


「先生。そう悲観しないでください。さっきもトウニーさんにも言いましたが、【治癒】スキルは万能で、治癒効果を薬の材料や出来上がった薬にも付与できるんです。

その分、効果は分散されるので、【治癒】スキルの存在は先生達が話さない限り疑われません。

先生がやたら効果のある薬を仕入れられるようになった、という程度の評判を得て、それで助かる命も増えるのだから、ある意味お医者冥利に尽きますよ」


「あっ、その点は勘違いされてるようですが、僕は医術師ではなく、薬術師です。

医術の心得もあり診療は出来ますが、外科手術などを行う手腕は持たないので、医術師を名乗る資格を有してはいません。

領主様の方針の違いによっては薬術師は診療してはならない土地柄も存在してます。

エアリーマスの場合は医術師資格がなくても手術以外の医療行為を薬術師が行う権利が保証されてるので、こうやって診療室勤めが出来てます」


「薬術師さんなんですね?んじゃ『薬師くすし冥利に尽きますよ』って言い換えますね」


「…そういう問題じゃない気がしますが…。(ハァッ…)お嬢さん、えっと、お名前は?」


「マリーです」


「その、マリーさんが今言った『やたら効果のある薬を仕入れられるようになった』は当て嵌まらないです。

何せギルド常駐薬術師は自分で薬を作るんですから、僕の調薬技術が突然急に上がったとか思われると『悪人に拉致監禁されて搾取される』云々の運命は僕の方に降りかかる事になりかねないんですよ…」


「…調薬レシピに実験的に入手困難な新材料を加えて効果が激増したとか…。そういう『個人の能力と無縁の原因』を捏造しておけば問題ないんじゃないですか?

…例えば、先生がたまたま流れ者の旅人に親切にして、そのお礼として貴重な薬材をもらって、それを自作の薬に使った所、劇的に効き目が上がったとか、そういう事にしておけば良いんです。

それだと先生に貴重な薬材を渡した流れ者の旅人を皆が目の色変えて探し回るだろうし、その一方で私も先生も全くノーマークで居られると思います。

そういう筋書きを細かく設定しておけば、大怪我してたトウニーさんがピンピンして診療室から出て行ったのも、トウニーさんの妹さんが急に元気になっても、私達は無事で居られるんです」


「…そう、言われてみれば、その通りですね…」


「先生の方で入手困難な薬材を適当にでっち上げてくれれば、全ての問題が解決するし、当分の間はその幻の素材を使用して作った薬で人々が助かるんです。

人生そのものを揺るがすリスクもありますが、それを逃れる術はありますし、何より人助けができるんですよ?

死なせずに済む命が増えます。もう少し気を楽にして、人助けを楽しんでください」


私が口車に乗せるように、そう説得すると

マードックは観念して覚悟を決めたように頷いた…。


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