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ファイアストン

挿絵(By みてみん)


ハートリーからファイアストンまで続いた街道の途中では

「マジナイ」

の痕跡を幾つも見た。


貴族家と繋がりのない庶民は姓を持たないが、町の名前や村の名前を公式文書で姓の代わりに記入する。

だからなのだろうが、各町・各村に

「シンボル」

が存在する。

貴族家にとっての家紋に該当する紋章。


南部は魔物も盗賊も多いかららしいが南部の町や村のシンボルは

「炎」

「武器」

「剣や槍を突き立てられた害獣」

の紋章が多く採用されていた。


「人々の攻撃性が同じ共同体に属する相手に向かわずに、害獣や敵国人へ向かうように」

という

「マジナイ」

の一環として、そういった紋章を各町・各村で使用するように政治的に後押しされたらしい。


この国はマトモ過ぎるくらいにマトモだ。


「マジナイ」

のようなものからして


「敵は敵だと認識する」

「仲間は仲間だと認識する」

方向性が明確に含まれている。


(この国の人達の愛国心や帰属意識による安心感は、こういった「マジナイの徹底」で人為的に生み出されているのだな)

と判った。


(不思議だな…。「マジナイ」によって生じている霊的結界を、この国の人達は認識できず、そして「有り難い」と感じる事さえできていない。こんなに有り難いのに…)

そう思うと、少し残念に感じた…。



******************



盗賊からは襲われる事の無いままファイアストンまで到着した。


北上する程に気温が低くなるのを感じた。

植物の繁殖もハートリー近辺と比べると規模が小さく感じる。

(それでも北部よりは良いんだろうけど)


ハートフィールド公爵邸…。


(…ウィングフィールド公爵邸とは打って変わって立派な豪邸だなぁ…)

と感心。


ファイアストン詰めの騎士達の交代に伴い

「これまでファイアストンに駐留していた騎士達の怪我や不調の治療をしておくように」

との指示があった。


半年間のファイアストン詰めはハートフィールド公爵邸の警備と街道に出没する魔物や盗賊の討伐。

高ランクダンジョンの管理が無い分、ハートリーの騎士達よりも死傷のリスクは少ないものの、やはり怪我もすれば病気にもなる。


重傷者はいなかったので、わざわざ治療しなくても【治癒】効果付与の薬を与えるだけで良さそうだと思ったのだが…

怪我人・病人のたっての願いで一人一人治療にあたった。


どうやらここまで【治癒】スキルの劇的効果の噂が広まっていたらしく

「間近で手品を見たい」

というのと同じ感覚で


「【治癒】スキルを見たい」

という要望が高まっていたようだった。


お陰でわざわざ現公爵まで見学に来て、物々しい雰囲気の中で患者に魔法を使っていった…。


そんな中で

(自分にしか見えない半透明タブレットを操作して無言で魔法稼働出来るのって本当に便利だな…)

と、しみじみ実感。


無言で【治癒】系魔法を使えるので

「カラクリを他人に見抜かれる」

という心配が要らないのが嬉しい。


周りの反応は本当に手品を見てる人達の反応だ。

(拍手してくれるより見物料を払って欲しい)

と思ってしまった。



ゲームのローズマリーは私と違って呪文を唱えて魔法を使っていた。


魔法行使媒体は口頭での指示にも従ってくれるので

「たまたま上手く手順通りの指示が入った言葉」

「呪文」

として利用するのも、ありと言えばありなのだろうが…


それだけが魔法を稼働させる方法になってしまうと

「消音魔道具」

を使われるだけで簡単に魔法を封じられてしまう。


口頭指示もショートカットアイコンのタップでも両方いけるようにしておいた方が弱点を持たずに済んで圧倒的に有利なのだが…

(もしかしてゲームのローズマリーは半透明タブレットが見えていなかったのかも知れない…)

と思い至る。


「自分自身の想像力の範疇にあるものしか具体化できない」

のだから、地球の現代文明の知識がない人達は

「魔法行使に際して既存認識の範囲内で行う」

という制限が入る。


(私って、本当にチートだったんだな…)


おかしな人達につけ狙われても逃亡可能。

人間社会との社会的繋がりが無くても生活可能。


(「孤独過ぎると寂しくなる」という虚無感さえ感じずに済むなら、人の来ない大森林の中に住んで、地球製品に囲まれて独りぼっちで便利生活する事も可能だものね…)


人間がどんなに対人関係やしがらみが面倒くさくても人類共同体に所属し続けてしまうのは、根底の部分に独りではないという安心感があるからなのだろう…。



********************


ハートフィールド公爵家の家族構成は

先代公爵であるギデオン・ハートフィールド

現公爵であるソロモン・ハートフィールド

現公爵夫人であるデイジー・ハートフィールド

長男であるシミオン・ハートフィールド

次男であるリオン・ハートフィールド

となっている。

表向きは。


ギデオンにもソロモンにも妾がいて庶子がいる。


庶子は嫡子の権利を奪う可能性があり虐げられる傾向があるが…


「庶子として育てるより里子に出して支援したほうが有益な人材に育つだろう」

という事で


多くの貴族が

「庶子を子育ての余力がある遠縁などに預けて養育費を支払っている」

のだが、ギデオンもソロモンもそのクチだった。


庶子は公爵家との血縁関係は書類上にも記載されず、決して表に出る事は無いが…

「万が一にも近親相姦が起きないように」

との配慮によって、嫡子が年頃になると

「異母姉妹」

の存在が明かされる。


そういった貴族達の下半身事情は使用人達が詳しい。


暇な時間にインビジブルで透明化して屋敷内を彷徨いていたら…

お喋り好きの女中達が面白おかしく噂話をしていた。


どうやらリオンが王立学院に入学する前に

「一学年上の異母姉が学院に在籍している」

とカミングアウトされたらしい。


「リオン坊ちゃんは潔癖っていうか、器が小さくてらっしゃるから、お付きの者達が八つ当たりされて大変だったんだってよ」

との事。


ゲームにはシミオンとリオンの異母姉妹など一切登場していないので

(へぇ〜。そういうキャラがいたのかぁ〜)

と少し驚いたが、考えてみれば私にとってどうでも良い話だった…。


ヤーノルドから

「ハートリーへ向けて発つのが明後日だから明日は自由だ。王都観光にでも行こうか?」

と訊かれて


気軽に

「そうですね。一度見ておきたいです」

とOKした。


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