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「恐怖を忘れるための麻痺」

挿絵(By みてみん)


ファイアストンまでの旅ーー。


途中、何度も魔物の襲撃に遭った。

(未だ盗賊には襲撃されていない)


知性のない魔物と違って盗賊は

「誰を襲うか」

「返り討ちに遭う危険はどの程度か」

といった点を考慮して襲撃するか否かを決める。


一方でゴブリンやコボルトのような大量発生する魔物は死を恐れないので数で押して襲撃してくる。


ゴブリンが卑怯なのはコボルトに襲撃されて疲弊している状態の時に畳み掛けるように襲ってくる所だ。

明らかにタイミングを見計らっている…。


「何処からこんなに湧いて来るんだろうな…」

「すげえ繁殖力だな」

騎士達も疲れたように呻く…。



私もゴブリンやコボルトを見ながら妙に疲れた自分を自覚する。


一方的に襲ってくる者達というのは人間でも魔物でも共通している所がある。


(まるでギャンブル狂だな…)

と感じるのだ。


困窮した者達が他から奪う際の心理は

「死にたくないから殺す」

という悲愴な覚悟なのだろうと美化しがちだが


実際にはギャンブル狂が賭けに興じている時のような

「スリルを楽しむ興奮」

が見られる。


今回の旅ではフォロー投擲による大量虐殺をいつものようにやってのけながら内心では動揺した…。


高ランク冒険者達と一緒に戦った時よりも

独りでダンジョンに潜ってる時よりも


騎士達と一緒に戦った時の方が

「殺戮欲に強く引き込まれそうになる」

事に気付いたからだ。


(…考えてみれば、高ランク冒険者達の殆どが【2倍の加護】か【一部能力向上(大)】持ちだ…。騎士達の殆どが【一部能力向上(中)】。中には【一部能力向上(小)】もいる…)


(…弱いから、怖いから、強い者達よりも余計に「恐怖を忘れるための麻痺」として躁暴的快感をーー殺戮欲をーー必要とするのかも知れない…。それに巻き込まれそうになってる?)



そう考えるとストンと腑に落ちた…。




「そう言えば、盗賊が出ないな…」


「じきに冬だからな。冬越しの準備で忙しいんじゃないのか?」


「冬越しの準備として今くらいの時期も略奪に精を出してた筈なんだがな…。不気味だよ」


「どっかの町とか村が丸ごと乗っ取られてたりしてな?」


「…ありえる」


「そういう縁起でもない事言うなよ」


「だが冬越しの準備として備蓄を充分に備えた町や村を丸ごと乗っ取るってのは、かなり効率的なんじゃないか?連中にとっては」


「…本格的な冬に入るまでは徴税人が各町各村を定期的に回る筈だ」


「その時期すら知られていたら、徴税人が回ってきたすぐ後の村を襲うだろうな」


「…昨年も春には『村人全員が消えてて、備蓄も根こそぎ消えてた村』が幾つか発見されたんだろう?冬の間、人が暮らしてたらしい痕跡は残ってたって…。

食糧や財産は元より衣類や寝具・鍋やら食器類まで悉く運び出されていて、厚かましくも盗賊達が冬の間そこで暮らして、引き払う時に根こそぎ盗んでいったんだろうって話じゃないか…」


「…盗賊も女を孕ませて所帯を持つ事があるからな。何処かに根城を築いて女子供を暮らさせるにしても生活の細々した物まで揃えるとなると、いちいち買うとか盗むより村人全員殺した後で全部持って行けば良いって考えになるんだろうな」


「…そういうのを見て、女子供はどう思ってるんだろうな。盗賊の一味に連なるヤツらは女でも子供でもやっぱり鬼畜なのか?」


「じゃねぇか?盗賊や強盗と仲良くしてる外国人や帰化人の女ってのは、盗んだ晴れ着で身を飾って、奪った備蓄で豊かに暮らして何の罪悪感も感じない性根の腐った生き物だろ。

どんなに普通っぽく人間味を擬態してて見た目も美しく見せかけても、魔物っぽくて気持ち悪いんだよ」


「そうなのか?本当はマトモな女もいるんじゃないのか?」


「…お前みたいなのが騙されて連中の巣に誘い込まれ、生きたまま生皮剥がれて内臓ぶち撒けさせられて殺されてるんじゃねぇのか?」


「魔物の雌にまで変な色気出すと、ホント男として生まれてきた事を後悔する目に遭わされるからな。魔物の雌は所詮魔物の雌だって割り切っておくべきだ」


「連中の性根が人間とは違う鬼畜だって事は分かりきってるんだ。連中の人間性に一切何の期待もせずに、ちゃんと疑い深く警戒し続けるに限るだろ」


騎士達が盗賊の出没が無い事から

物騒な話をしている。


決して荒唐無稽な話ではないのがコワイ所だ。


街道沿いの町だと冬の間でも街道を行き来する人達の目があるので比較的安全だろうが、田舎の方だと、そうやって冬を前に村ごと襲われる事もあるらしい。


春になって、他の町から人が来てみてビックリ。

村人は1人も残っておらず

冬の間に人が暮らしていたらしい形跡はあれど無人になっている。


何があったのかと捜査すれば

村中アチコチに血痕が残っていたり…。

近辺の盗賊達が根絶やしにされた村の人達が大切にしていた晴れ着を着ているのを目撃されたり…。


そういう話がこの世界では度々聞かれる。


「盗賊=敵国の非正規侵略兵」

という事実は一般人には伏せられたままだが

「盗賊の残虐さ」

については誰もが理解している。


徴税人が回ってくる時期など、内部に情報提供者がいなければ知りようもない。

徴税人側かもしくは町や村に

「現役を退いた元盗賊」

「非戦闘員の盗賊」

「シンパの情報提供者」

が紛れていなければ、そんな乗っ取り計画は上手くいかない。


だが

「盗賊は年々狡賢くなっている」

というのが、今のご時世の常識。


彼らの行動から見て

「短慮な集団が衝動的に犯行を繰り返している」

という事ではなく

「計画的に執拗かつ粘着な悪意を込めて犯行を繰り返している」

のだと判る。


「国内の刀鍛冶師ブラックスミスが数名行方不明になっていて、盗賊が襲うのも鉄のインゴットを積んだ商隊が多い」

というのも何を意味しているのか分かる。


港町では船大工が行方不明になる。


死体で見つかる船大工は

「敵への技術提供を拒んだ」

から殺されたのだろうと皆が内心で察する。


そういう事をしながら盗賊や海賊は

「どうやって自分達を正当化している」

のか…

その思考回路が本当に納得がいかない。


自分達が

「生きてちゃいけない生き物」

に成り下がってる事実を何故認識せずにいられるのか

本当に納得がいかない。


他人から命や資産を略奪する盗賊や海賊は初めは

「自分達に足りないものは有る所から奪えば良い」

という

「資産の平均化」

を潜在的に目指す事で罪悪感を消していたのかも知れない。


だから初めは富んだ者達を標的視するものの

そのうち誰でも良くなる。


「罪悪感すら感じずに他人から略奪する」

という行動の繰り返しによって


「自分と仲間以外の全てを標的視できるようになる」

といった所か。


(魔物は種自体が人間とは違うのだから改心もヘッタクレも無いんだろうけど…。他人を餌食にする「人間達」が改心しないのは納得いかないな…)

と、思う。


魔物も非正規侵略兵の盗賊達も共に

淘汰されるべき生き物だと思う。


それを淘汰せずにおくと、逆にこちらが淘汰される事になる。



私は「淘汰されるべき運命」というものが「利害関係の対立する者同士の対峙する前線に存在する」事実について考えながら…

コボルトの死体から抜き取った魔石をジッと見つめた…。



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