お洒落に目覚めて
寝る前にバックオーダーで大きな姿見を出しておいたし、化粧品一式もやはりバックオーダーで出しておいた。
ちょっとおめかしするだけで
「ローズマリー・ウィングフィールドの美貌を再現出来てしまう」
のだという事を私は身をもって実感したのだ…。
努力すればするだけ綺麗度が上がるのだから、当然、頑張り甲斐を感じられる。
急にお洒落に目覚めたと言っても良い。
今日の仕事は冒険者ギルドまで行く訳でもないので、皮のズボンやら生成りのシャツやらの男装はやめて、クラシカルなデザインの女性服をバックオーダーで出して着る事にした。
メイクも派手にならない程度にほどこしてから姿見で確認。
(…ホント、ローズマリーって、なんでコレでヒロインじゃないんだろう…。美し過ぎる…)
と自分自身に見惚れてから、携行食での食事とトイレを済ませて、いざ出勤。
ーーしようとした所
階段を降りた所で会ったネトルとティファは
「えっ誰?」
「マリーはどこ?」
と失礼なリアクションをしてくれた…。
今まで乗馬服のようなパンツスタイルや男装もしくはお仕着せの侍女服しか着てなかったし、化粧っ気も無かったので、急に女らしくお洒落してもキャラが余りにも違い過ぎたのだろう…。
「いやぁ〜。昨夜、先代公爵様と晩餐をご一緒した時に着飾らせられたお陰でちょっとお洒落に目覚めてしまって…」
と私が心情を話すと
「乙女だねぇ〜」
「周辺が騒がしくなりそうだね〜」
とネトル達も納得した。
「だいたいアンタが今までお洒落にも恋愛にも興味がない事の方がおかしかったんだ。やっとマトモになったって事なんだろうね」
「玉の輿に乗ったら、ちゃんと『ティファさんに良くしてもらいました』ってお偉いさんに言っといてよね〜」
「お二人のお給金が上がるように良い所を吹聴してまわります」
と私が言ってやると二人は快く送り出してくれた。
美人が妬まれたりせずに祝福されるには
「玉の輿の恩恵のおこぼれにあずかれる」
という見込みを与えておく必要があるのだと実感した…。
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身綺麗に着飾ったからといって別に待遇が劇的に変化するという事はない。
寧ろ周りが勝手に動揺して仕事でもミスを連発するので負担が増える…。
ソーンヒルが落ち着かない様子。
怪我人への対応もそっちのけで暇さえあれば私の姿を覗き見ている。
怪我人も同様で異様に大人しい。
ボーッとなってるので、ちゃんと話が耳に入っているのかどうかが怪しい…。
(町に降りれば美人はいっぱい居るし、まさか「美人に耐性が無い」という事もない筈だけど…なんか挙動不審だよね。この人達…)
途中でヤーノルドがやってきて
「昼食時間には胸元の閉まった体型も分からない服に着替えて来るように。出来れば化粧も落として欲しい」
と要求してきた。
「…エエェェェェーッ!」
どうやら私のお洒落は不評のようだった…。
午後からは襟の詰まった服を着て、化粧もナチュラルメイクに変えたが、周囲の挙動不審は続いた。
ーーが、ヤーノルドは今度は苦言を呈する事は無かった…。
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やっと仕事が終わる時間になって
(今晩こそ肉じゃがを食べるんだ!)
と決意していた私だったが
仕事が終わると同時にヤーノルドがやって来て
「冒険者ギルドから指名依頼があるらしいからギルマス執務室まで来て欲しいだって」
とギルドからの伝言を告げた。
「わざわざ行かなきゃダメなんですか?ーーって、今からじゃなくても良いんですよね?」
と訊いたところ
「指名依頼の指名日が明日に決まったらしいから、今日のうちに行かなきゃならないだろうねぇ」
との事。
(そう言えば、こういう場合、マンローさんに送り迎えしてもらえないから受付嬢に捕まるんじゃないか?…)
と不安が脳裏をよぎった時に丁度
「受付嬢達から『お願い』をされずに済ますためには誰かマリーに付いてなきゃならないだろうし、俺が頼まれてるから大丈夫だ。独りで行かせてまんまと捕まらせるような真似はしない」
とヤーノルドが頼もしい事を言った。
「…ちゃんと事情を聞いてらっしゃるんですよね?私が何故『お願い』をされる状況になったらいけないのか」
「うん。断らざるを得ない頼み事はされた時点で逆恨みされる事が確定しているし、マリーも災難だったね」
「ええ、まぁ。あのギルドでは細かな命令違反は普段から常態化してたみたいなので改善は難しいんじゃないかと思いますよ。まさか引き継ぎも出来ない状態で総入れ替えする訳にもいかないでしょうし」
「仕切ってるリーダー格を一人辞めさせるだけで充分解決できそうな気はするんだけど…。女性の場合はまた違うのか?」
「リーダーが辞めさせられても今度は別の人が新たにリーダーになるんじゃないでしょうか?」
「…その辺の問題はラッセルおじさんのほうでちゃんと考えてくれてるさ」
「そう思いたいですね」
(…このところ、仕事時間外の夕方から夜にかけて、全くゆっくり出来てないよな…)
とガックリしながらも、私は大人しくヤーノルドの後に続いて冒険者ギルドまで出向く事にした…。
騒がしくなったのは冒険者ギルドについてからだ。
いつもと違って明らかにお洒落している私がヤーノルドと一緒にギルド会館のロビーに姿を現すと
「やっぱり男がいたんだな…」
「くそっ」
「相手は騎士様かよ」
「どうやって知り合ったんだ」
「ヤベェ〜。マジ可愛いい」
「武装してない女冒険者って妙に色気あるよな」
「あ、目が合った。俺のほう見たぞ」
「デート。デートしてたのか!俺に断りもなく!」
「お前の断りはいらんがな」
だのなんだので周りが口々に自分の思った事を遠慮なく口にしていた…。
私はヤーノルドに頭を下げて
「なんかスミマセン。交際してるみたいに勘違いされてるようです。変な嫌がらせとかあっても気にしないでください」
と初めに謝っておく事にした。
ヤーノルドのほうが全く気にしてないかのように
「大丈夫。問題ない。マリーと一緒にいる事で発生する苦労はちゃんと背負う覚悟はあるから気にしなくて良い」
と清々しい笑顔を浮かべてくれていたのが救いだった。




