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エアリーマス

挿絵(By みてみん)


エアリーマスまでの距離はそこまで無かった。

冒険者達の馬で馬車を牽いてもらって小1時間ほどか。


荷物を沢山乗せた馬車の速度は速いとは言えない。

成人男性の早歩き、女子供だと小走りくらいの速度。

私が普通に歩いても1時間半弱くらいで着いてただろう。


他の魔物が死骸を喰おうと集まるような事態を避けるには穴を掘って埋めるのが一番良いのだが…

51匹のゴブリンを埋めるだけの穴を掘ろうと思うと、どれだけ時間が掛かるか分からない。


なので街道沿いから離れた草むらの奥に捨てに行く事になったのだが、なにせ数が多いので何往復も必要になった。


それで時間を食ったこともあり私は内心で

(…もしかして馬車の襲撃を見て見ぬフリして通り過ぎていたら、とっくにエアリーマスに1人で到着してたのかも知れない…)

と思った。


(でも、その場合はインビジブルで門を抜けて無一文で冒険者ギルドに向かってただろうし、登録費用が捻出できずに詰んでた可能性が高いんだよね…)

とも思った。


急がば回れ、という諺通りの状況だったのだ。



ーー冒険者ギルドエアリーマス支部。


ギルド会館は大きな建物。

冒険者ギルドだけでなく、商人ギルド、薬材商ギルド、薬術師ギルドも入っていた。


出入り口も冒険者ギルド用、商人ギルド用、薬材商ギルド用、薬術師ギルド用と四種類。


外観的には同一の建物だが…

内部は独立しているので行き来はできない。

同じ建物内に四つのギルドが間借りしていて隣り合っている。



「冒険者が冒険者ギルドに持ち込んだ魔物の素材や薬草が商人ギルドと薬材商ギルドへ卸される都合上、離れてない方が運搬の際のトラブルも減るからな。

エアリーマスだけじゃなく、南部の町ではこういった形式で同じ建物内に複数のギルドが間借りしてる事が多いんだ」

と強面のランドン・ウォーロックがギルド会館前で説明してくれた。


意外に知的で情報通の男のようだ…。


「受付はこっちだよ」

と童顔のクラーク・ノーランが手招きしたので、そちらへ行くと


「ようこそ」

と美人の受付嬢が迎えてくれた。


「アイリス。この子、ちょっとワケありみたいで個人情報の保護を申請した冒険者登録をしたいんだけど、手続きをお願いするね」

とクラークが言うと


アイリス嬢は少し顔を強張らせて

「…えっと。…どんな経緯でこんな可愛い子と知り合ったのかな?」

とクラークに尋ねた。


テレンスが

「ああ…。別にクラークが若い子に変な気を起こしてるとかじゃないから、その点は安心してくれ」

と横から口を出すと


「…そうなんですね?」

とアイリス嬢がホッとした表情で頷き


「冒険者登録がご希望でしたら登録申請書に必要事項をご記入ください」

と私へ向き直った。


(…クラークとアイリスは付き合ってるとかなのかな?)

と人間関係が少し見えてきた気がしたが…


別にそれを今私が気にする必要はないので

「ゴブリンの群れに襲われてた馬車の人を助けようとしたら、こちらの皆さんも同じように助けに入ってらっしゃったので共闘させていただきました」

と事実を端的に話しつつ登録申請書に名前、年齢、スキルを記入していく。


(…汚い字だけど、一応書けるものなんだな…)


当然【魔法】スキルの代わりに【投擲】スキルと記入し、更には【病気耐性】【毒耐性】も書き加えておく。


「…ゴブリンを倒す実力はお持ちでいらっしゃる、という事ですね?」

アイリスは爽やかな営業スマイルを維持しながら、私が書いた登録申請書に目を通して、確認するように尋ねた。


「そうですね。Gランク魔物のホーン・ヘアも旅の道中で沢山狩ったので魔石が大量にあります。それも買い取ってもらえますか?」


「はい。確認させて頂きます。魔石の確認と買取りはそちらのカウンターでの受付となります。査定が終わるまでにこちらでも冒険者登録とギルドカードを用意させて頂きます」


「そう言えば、噂では女子の冒険者登録には試験があるという話でしたが、そういうのはしなくて大丈夫なんですか?」


「はい。Gランク魔物を狩れる程度の実力が客観的にも認識できる方の場合は登録試験は免除となってます。

文字をお読みになれるのでしたら、ガイドラインの記されたガイドブックも待合室に備え付けておりますので、お待ちになられる間にご確認ください」


ニコニコしながらもアイリスは目が笑ってない。

シビアな値踏みを行っているように見える。


私がGランク冒険者として登録できるのは

「Fランク魔物のゴブリンを倒して魔石を【風神の千本槍】メンバーと共に持って来た」

からでもあるが…

「【投擲】スキル」

というレアスキル名を記入したからでもあったのだろう。


私は無事に登録できた事にホッとしたが

(この世界の文字…読むだけじゃなく書けた…)

事にも心からホッとしていた。


(汚い字なので今後練習が必要…)

と思っている間にも


「もう!女の子の登録希望者を連れて来るなら連れて来るで、ちゃんと前もって説明しておいてよね」

とアイリスがクラークに小声で苦情を言いだした。


私も他の人達も恋人達の痴話ゲンカには興味を示さず見て見ぬフリ…。

クラークが苦笑していた。


一方で私はまだアイリスに訊きたい事があった。

登録料は魔石代から引いてもらえるらしいものの…

残りが幾らになるのか分からない。

宿に泊まるのに必要な代金も。

良心的金額の宿屋も所在地も。


流石に町に入ってまで野宿は避けたい。


浄化ピュリフィケーション

で殺菌できるので体臭などはしてない筈だけど、長らく行水してない。

お風呂に入りたい。


クラークがアイリスに捕まってる間ーー


チェスターとランドンは

「エアリーマスからウォッシュボーンの途中地点でゴブリン50匹以上の集団が出た。ダンジョンはブルフォードからウォッシュボーンの中間くらいの地点。ダンジョンから集団で溢れてきた可能性を零だと断定はできないが、地上に巣を作って集落を形成する群れが何処からか流れてきた可能性が高い」

と事務員らしき男性職員にゴブリン発生状況を報告していた。


私が座ってガイドブックを読んでいると、テレンスがやって来て

「宿はどんな所があるのか、知ってる事は何かあるのか?」

と訊いてきた。


宿屋について教えてもらうチャンスだと思い

「いえ、何も知らないんで、何処か安くて良い宿屋があれば教えていただけるとありがたいです」

と心情を答えた。


「孤児なら家事や雑用はしてきてるんだよな?」


「ええ。早朝の井戸の水汲みや野菜洗い、菜園の手入れに調理補助、家畜の世話に洗濯、掃除、食器洗い、汚物運搬、大抵の事はしてきてると思います」


「それだったら住み込みで家事をやる依頼を受けてみる気はないか?」


「住み込みですか…。依頼達成報酬とかはどのくらいになるんでしょうか?住む場所の提供の分が引かれて全然稼げない、とかいう事にはなりませんか?」



ウィングフィールド公爵家の使用人達の給金は住み込みと通いとで差があった。

通いの使用人は勤務時間中の食事も自分で用意しなければならないし、お仕着せの制服も持ち帰って自分で洗濯しなければならない分、給金が高かった。


無賃無休で働かせられていた私には無縁の話だったが…

洗濯女達の情報網は優秀で「誰の給金が幾ら」という事細かな情報まで話題の俎上に上がっていた。


衣食住が提供される住み込みの使用人達の給金はお小遣い程度。

私はそのお小遣い程度のお金さえもらった事がなかったので…

商人に通行料分の魔石買取をしてもらった時に初めて硬貨を手にした。


初めて手にした硬貨を示して

「えっと、これの価値ってどのくらいですか?黒パンだったら幾つ買えますかか?」

と咄嗟に質問したところーー


商人が目を丸くして

チェスター達が憐れむような目を向けてきたので…

「15歳の少女がお金を初めて手にしたという現実が世間的に見てもオカシイ」

のだという事は分かった…。



私の内心を知ってか知らずか、テレンスは

「住み込みの家事はそう労働時間が長くない。屋敷内の掃除は週に二回。夕食と朝食を毎日用意しなければならないが、基本的に朝食は夕食の残り物を温めるだけで済ませていい。

なので毎日する仕事は夕食をしっかり作る事だけだ。勿論、家事支援者自身も自分の作った食事を食べていい。住む場所と二食の食事付きで給金はひと月に大銅貨15枚だ」

と詳しい内容を教えた。


お小遣い程度の金額だが…


(公爵家の住み込み使用人達の給金も下級使用人はそのくらいだったから、就労時間が少なくてすむのなら、着るものの支給が無くても、そのくらいの給金は妥当かな…)


「…悪くない話だと思いますが、雇い主さんがどんな人間なのか分からない状態で飛びつくのもコワイ気がしますので、面接とか受けて相手の人となりを確認してから雇われるかどうかを決めたいと思います」


私が無難な返事をすると

「なるほど。用心深いな。無事に独り旅できるような子はシッカリしてるもんだな」

とテレンスは何が楽しいのか満面の笑顔になった。


一応、ホワイト王国も近隣国も「15歳が法的に成人」の世界観設定です。

それでいて社会内で実質的に成人と認められるのは18歳から。

15歳以上18歳未満の犯罪者に対して「子供だからという情状酌量をしないために法的に成人と見做している」という背景があります。

ご了承ください。

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