旅の道連れ
改めて見てみると冒険者をしてるような人達は特殊なスキルを持ってるとかじゃない限り皆が皆身体がデカい。
私が声を掛けた男も長身だった。
顔はそこそこのイケメン。
犯罪者か?と思うような凶悪犯面の冒険者も多い中で、多少は話しかけやすいタイプの人ではある。
「…それにしても、お嬢ちゃんは本当に独りなんだな…。ノコノコ離れた場所まで連れて行かれると美人局さながらにどっかから人が出てきてボコられるかも?って思ったんだが罠じゃなさそうだし…」
と冒険者が気になる事を言うので首を傾げたら
「…本当に冒険者になるつもりなら知っておくと良い。世の中には『困ってます、助けて』って演技しながら単細胞のお人好しを誘い込んで因縁付けてカネや命を奪うような手口を使う悪党もいるって事さ。
そういう手口に加担させられる女子供は、これまた罪悪感も持たずに単細胞のお人好しを誘い込んで罠の張られた場所まで誘導するから、警戒してないと一方的にやられるだけになる」
との事。
世の中、世知辛いのである。
「まぁ、良かったな。変なのに引っ掛かって犯罪に引き込まれるような事にならずに済んでるみたいで」
「…実のところ、街道を堂々と歩いてたんじゃなく、草むらにコソコソ隠れて進んで来たので、犯罪者集団に取り込まれるどころか誰とも会わなかったです。
今回は魔物の数が人間の数に対してあまりにも多かったんで、手助けしないと死なれてしまうだろうからと思って、仕方なく草むらからノコノコ出てきたんですよ」
私が半ば正直に告白すると
冒険者の方は
「人目を忍んでの独り旅って…家出少女なのか?親と喧嘩でもしたか?…あまり大人に心配かけるのは感心しないぞ?」
と説教がましい事を言い出したので
「…大人に心配かける、ねぇ?…私は親に捨てられた孤児なんで、近所の人達の善意に縋って生きてたんですけど…。
あのままあそこにいたら奴隷商人に売り飛ばされて奴隷にされてましたよ。
『せっかく大金を得られると思ったのに売り物に逃げられた』と心配する大人には、そのまま心配させておいて良いと思うんですが?」
と考えておいた設定通りのセリフを言ってやった。
冒険者はというと
「…あ、うん。すまなかった。…お嬢ちゃんの言う通りだな。そんな大人は心配させておくべきだな。逃げてきて正解だ。…事情も知らずに勝手な事を言って悪かったな」
と急に下手に出て気まずそうに愛想笑いをした。
「…馬も潰されてるようだし、馬車はエアリーマスまで戻る事になると思うんだ。俺達は元々ダンジョンへ向かう途中で、あの商人の護衛って訳じゃない。
だが今更ほっぽり出す訳にもいかないからエアリーマスまで護衛してやる事になると思う。
お嬢ちゃんもエアリーマスまで行くんなら一緒に来るか?」
という問いかけには
勿論
「ありがとうございます。喜んで」
と返事をした…。
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商人風の男は本物の商人でピーターズ商会という商会の行商隊の商隊主。
ピーターズ商会の会頭の従兄弟に当たる人だった。
ピーターズ商会はホワイト王国内の東部と南部とを行き来している商会。
大商会という訳ではないので積荷が少ない時には護衛の数も必要最小限になってしまう。
なので大勢で襲われると今回のように護衛に死なれ馬も潰されて立ち往生する羽目に遭う。
【鑑定】スキルを持ってないので、私のスキルが【魔法】だという事もバレる心配がない。
「本当に助かりました」
と必死に頭を下げるのは、護衛依頼に関係ない通り掛かりの冒険者達にこの後の護衛を引き受けてもらう為なのだろうという事は分かった。
青ざめた顔でひたすらペコペコされれば
「ダンジョンへ向かう途中だから」
と見捨てて去るのも気が引けるらしくて…
通り掛かりの冒険者達は商隊の護衛兼、馬車の牽引を手伝ってやる事になった。
私に対して
「大人に心配かけるな」
的な説教をしようとした冒険者は他の冒険者達から
「テレンス」
と呼ばれていた。
通り掛かりの冒険者達のグループは【風神の千本槍】というパーティーのメンバー4人組。
リーダーのチェスター・モリンズとテレンス・ピアソンが戦士。
ランドン・ウォーロックが斥候兼、弓士。
クラーク・ノーランが弓士兼、荷物運搬人。
といった顔ぶれ。
チェスターとランドンは如何にも冒険者らしい強面。
テレンスとクラークは高身長でイケメン。女の人にモテそうだ。
「荒くれ者」の多い冒険者界隈では比較的善良な冒険者パーティー、という事なのだろう。
リーダーのチェスター・モリンズは商人さんに
「そんなに必死になって萎縮しなくても見捨てる気はないから気を楽にしてくれ」
と言って微笑み掛けた。
随分と人情味のある性格のようだ。
それこそ騙されやすそう…。
鑑定してみると
「チェスター・モリンズ:22歳:エクストラスキル【2倍の加護】:コモンスキル【槍術】」
と出た。
ついでに他の人達も鑑定。
「テレンス・ピアソン:21歳:エクストラスキル【2倍の加護】:コモンスキル【剣術】」
「ランドン・ウォーロック:22歳:エクストラスキル【2倍の加護】:コモンスキル【俊敏】【気配察知】」
「クラーク・ノーラン:20歳:エクストラスキル【2倍の加護】:コモンスキル【弓術】」
因みに商人さんは
「ロイル・ピーターズ:43歳:エクストラスキル【一部能力向上(小)】:コモンスキル【馬術】」
という鑑定結果。
【一部能力向上(微)】→能力補正1.01倍
【一部能力向上(小)】→能力補正1.1倍
【一部能力向上(中)】→能力補正1.3倍
【一部能力向上(大)】→能力補正1.5倍
【2倍の加護】→能力補正2倍
という事を踏まえるに…
(超優秀だな…この冒険者パーティー。【2倍の加護】は【一部能力向上(大)】の上位互換スキル。パーティーメンバー全員が【2倍の加護】持ちっていうからには、仕事の効率も良さそう…。全員20代でまだ若いけど、高ランクパーティーだろうな…)
「パーティーメンバーの能力レベルが同程度じゃないと、平等な報酬分配が逆に不平等になってしまう事もあるので、冒険者はパーティーを組んでも長続きしない事も多い」
という話は耳年増の私も知っていた。
能力の高い者は同じように能力の高い者と組みたがる。
それは「ぶら下がりや寄生で弱者から搾取される」といったトラブルを避けるためだ。
私は
(冒険者活動はソロでやりたい。パーティーを組むとしても能力の高い相手と組みたい)
と思っている。
新人冒険者という人種がどういったタイプの人達なのか分からないので、特に、絡まれるような事態を避けたいと思っている。
「そう言えば、家出少女のお嬢ちゃんは何て名前なんだ?」
とチェスターが私の方へ話の矛先を向けてきたので
「マリーです」
と名乗った。
「そうか。それで、マリーは冒険者ギルドに登録するつもりでいるんだろう?俺達もゴブリンの集団発生を報告しに行かなきゃならないから一緒に連れて行ってやるよ」
「お願いします」
チェスターが笑顔なので釣られて笑顔になったが
「人買いから逃げてきたとかいう事情があるんなら、それも受付で話しておくといい。
基本的に冒険者ギルドは個人情報の取り扱いに厳しい筈だが、ギルド職員の中には冒険者の情報をよそに流して小遣い稼ぎをする者もいるからな。
事情次第では他の支部とも共有する情報を制限する事も可能なんだが、個人情報の保護は登録時に受付で申請しておく必要があるんだ」
と言うテレンスの言葉で一気に気分が引き締まったのだった。
便利な制度とかも、そういうものがあると知らなければ使えない…。
観察眼が優れてるという事なのか、テレンスは私が必要としているものをちゃんと理解してくれてる様子だった…。




