手助け
鑑定で分かる情報は名前と年齢とスキル。
それだけ分かるだけでも楽しいものだ。
街道を行き交う人々は商人と護衛ばかりなのだが…
この世界の圧倒的多数である【一部能力向上(微)】の人達は一切見かけない。
旅は危険なので
「それなりに有能な人達しか魔物や盗賊の出る郊外を通行しない」
という事なのだろう。
商人も護衛の冒険者達も姓がある人が多い。
(有能そうな人は特に)
貴族家の傍流の平民だという事だ。
【一部能力向上(小)】
【一部能力向上(中)】
【一部能力向上(大)】
レアスキルらしき【従魔術】【鑑定】が見られた。
鑑定は【魔法】スキルではアーツの一つ。
魔法使いにとっては能力の一部に過ぎないが、それ以外の人達にとっては充分なレアスキル。
姓を持つ身元確かな商人にとっては【鑑定】スキルは大きなアドバンテージなのだと思う。
路行く人達を一方的に鑑定してスキルを見抜いて世情分析の材料にするのは正解だった。
ただ、ふと気になったのが
(ゲームみたいにレベルとかHPとかMPとか出ないものなのかな?)
という事。
スキルのレア度が強さに反映しているとは限らない気がするのでステータスが気になる。
グレーアウトしてる魔法名の一覧を見てみても
「ステータスを見る」
ような類の魔法はない。
代わりに
「魔法創造」
という魔法があった。
これを使えるようになれば欲しい魔法を作れるだろうから…
「現在状態顕現」
を作ってレベルやHP・MPを見れるようになるのかも知れない。
年齢とスキルが分かるだけでは相手が強いのか弱いのか分からない。
やっぱり
「レベル」
「職能」
「HP=体力ポイント」
「MP=マジックポイント」
「ATK=攻撃力」
「DEF=防御力」
「INT=知能」
「AGI=素早さ」
「DEX=器用さ」
「LUC=運」
くらい分かるようになっておきたい。
そもそも『聖華の花冠』のヒロインのユニークスキルは【恩寵】。
効果としては「幸運」だ。
それに加えて【魅惑】スキルも持っていた。
ステータスオープンで「LUC=運」の項目が数値化されて見れるなら、ヒロインは数値が高いのが判るだろうし…
万が一にも関わる事になって、こちらが不利益を被りそうな場合も何か対策が打てるかも知れない。
(まぁ、それだけじゃなく「単に他人の強さが分かるようになりたい」んだけどね…)
インビジブルで他の旅人を観察するようになって困るのは
「魔物や盗賊に襲われてる人達を手助けするべきか否か」
という判断がつかない点。
(護衛の人達もいるし、襲撃されてても手助けする必要はないよね…)
と思っていたら、護衛の冒険者達が案外弱くて深手を負う事がある。
そういう場面を見てしまうと
(案外、護衛が弱いし…。やっぱり手助けしてあげた方が良いのかな…)
と迷ってしまう。
魔物や盗賊、冒険者達のステータスを見れれば強いか弱いか分かるだろうし、手助けするべきか余計なお世話なのか判断もつくと思うのだ。
そしてーー
今日も今日とて、遠目にゴブリン集団に襲撃されてる馬車の姿が見えた。
ーーが、ゴブリンの数が多過ぎる…。
これは一目で人間側が不利だと分かった…。
(…インビジブルしたままフォロー投擲したら「どこからともなく石が飛んできてゴブリンを殺した」という事になって不審がられるだろうし…。やっぱり助けるなら助けるで姿は見せた方が良さそう…)
そう思うや、一旦草むらに入ってからインビジブル解除。
ダッシュで馬車の方へ駆けつけながら
「使用可能魔法一覧から後追い選択、執行」
と唱えて小石を3個握り締めた。
私の姿を発見したゴブリン達が馬車から離れて私の方へと突っ走って来たので距離はドンドン近付いている。
(届く範囲まで来た!)
と確信したので、思い切り小石3つを投げ付けた。
33個まで増えて威力も増大されるので、私へと向かって来たゴブリン8匹は石が身体を貫通してあっという間に重傷になった。
ネズミ型魔物やウサギ型魔物より身体も大きく体力もあるからか全て即死という訳にはいかず、直ぐには倒れずヨタヨタとふらつく個体もでた。
なのでそれをバリアーの電撃と杖での殴打で仕留めた。
魔石を抜き取りたいが、今はまだ馬車の方にゴブリンがウジャウジャいるので悠長に素材剥ぎ取りに勤しむ時間ではない。
(う〜ん。まだ40匹くらい居そうだ…。人も近くに居るけど、手前にいるゴブリン達に向けてまた3個投げてみるか?)
と思い投げてみる事にしたら
33個の石が的確にゴブリン達の身体を貫通して傷付けてくれた。
(マジで、この魔法スゴイな…。人間も近くにいて戦ってるのに、自動で補正が掛かって私が狙った魔物達へ勝手に向かってくれてる…)
誤射の可能性が低いのなら本当にフォロー魔法は優秀だ。
私の石で身体を貫かれたゴブリンが全体の半分くらい。
約40匹のうち約20匹が死亡または手負いとなった。
生き残りはやはり直ぐに倒れてはくれないが…
ふらついているので始末は簡単。
(わざわざ私が危険を犯してトドメを刺しに行く必要は無さそうだよな…)
またも3個石を投げてまたフォロー投擲。
人に当たらないようにイメージするのが難しかったが33個の石が残りの約20匹のゴブリンを貫通。
死亡と弱体化をふりかけてやれた。
(これで危険を犯さずにトドメを刺せる…)
と思い、杖を振り上げて馬車の近くまで駆け寄った…。
近くまで来てみると既に何人も人間が殺されてるのが分かった。
馬も殺されてる。
商人らしい男は馬車の下に潜り込んで震えていた。
気持ちは分かる。
馬も潰され護衛の冒険者が何人も殺されれば流石に不安になるのだろう。
バリアー圏内に人間が入るとどうなるのか分からないので、とりあえずはバリアー解除。
馬車の下から這い出て来た商人風の男に近寄り
「大丈夫ですか?」
と声を掛けると
「もしかして石が飛んできてゴブリンが怪我してたけど、お嬢ちゃんがやったのかい?」
と青い顔で訊かれた。
「ええ。スキルに恵まれたもので」
と言うと
「神に感謝を…」
と涙目で急に祈りを捧げ出した…。
冒険者達の生き残りが
「【投擲】スキルか何かか?随分とレアだな。新人冒険者なんだろ?独りでいるみたいだが、ソロか?」
と訊いてきたので
「エアリーマスで冒険者登録したくて旅してる途中なんで、未だ冒険者じゃないですよ」
と答えた。
多数のザコに有効な投擲を目の当たりにしたからか
冒険者達が私にナメた態度を取る事は無かった。
皆親切だ。
「路銀も必要だろうし、お嬢ちゃんが風穴を開けたゴブリンの魔石は全部お嬢ちゃんが持って行くと良い。
ただ、討伐証明の耳はこっちで貰っておくぜ?冒険者登録してない者が耳をギルドに持って行っても討伐報酬は出ないからな?」
と言ってもらえたので、私がトドメを刺した訳でもないゴブリンの魔石まで貰える事になった。
「おおっ。魔石取り出しも上手いな。本当に未だ未登録か?解体講習を受けた連中よりもサマになってるぞ」
「素材を綺麗に剥ぎ取り出来ると、低ランク冒険者でも高ランクパーティーのポーターに雇われる機会もあるし引く手数多だな」
「魔石の売却は冒険者登録してなくても出来るから、先に売却して登録費用に充てると良い」
そんな風に言われて私も警戒心が緩み
「あっ!そう言えば、お金がなくて、町に入る通行料も払えないんです。商人さんが私を命の恩人だと思うなら魔石を幾つか買い取ってくれませんか?」
と思いついた事を口にした。
商人風の男が
「そうなんですね。それは勿論買い取らせていただきます」
と言ってくれたので、その場で通行料分の魔石を買い取ってもらった。
気を良くした私が冒険者の1人に
「あっちの方にも8匹分の死骸があります。耳は差し上げますから死骸の処分を手伝ってもらえますか?」
と声を掛けると
「了解」
と快諾してもらえた。




