フィランダー視点:13
ファーディナンド兄上から衝撃の事実を知らされた後の俺はーー
暇さえあれば不人気ダンジョンへ赴いて
ダンジョン内の魔物の間引きに勤しむようになった…。
「取り憑かれたようにダンジョンへ通う」
俺の姿は不気味に映るらしく城内では密かに
「スタンピードが起こる情報を掴んでいるのでは?」
と噂になっているらしい。
(そうさせない為のダンジョン通いなのだが…)
そんな中
「リチャードの運気にマイナス補正が入っている」
というのが気にはなるが…
わざわざアンゼリカの元へ赴いて
「アンゼリカの性悪ぶりが傍目にも分かる場面をリチャードに目撃させる」
ような段取りを組むのも面倒だ…。
リチャードに関しては、そのうち異端審問庁が【精神干渉耐性】スキルを習得できる修練方法を編み出してくれると思うので、それに賭けた方が良さそうだと思った。
そしてーー
そうこうしているうちに王立学院の新年度が始まった。
アンゼリカ・メイクピースの所在は平日は学院。
万が一早急に対処が必要になったとしても取り逃がす心配はない。
侯爵家の令嬢と言えども、いざとなれば処刑すれば良い。
女子修道院へ強制収容などという面倒くさい事もこのご時世では不要。
何せ精神干渉は
「干渉者が死ねば解ける」
のだ。
一番簡単な悪影響からの離脱法である。
アンゼリカが精神干渉しまくって周りの人間の運気を引き下げるようなら殺すのが手っ取り早い。
面倒なのはアンゼリカに誑かされる手勢が増えると殺すハードルが上がる事か…。
今の王立学院には
北部のホワイトフィールド公爵家後継ラファティー・ホワイトフィールド
南部のハートフィールド公爵家後継シミオン・ハートフィールド
西部のフェアフィールド公爵家後継マイルズ・フェアフィールド
と四大公爵家のうち三つの後継者が通っている。
ラファティーの婚約者は不在になったが、シミオンとマイルズには婚約者がいる。
流石に公子三人に手を出すようなら風紀紊乱が過ぎるし、婚約者側の親族が黙ってはいない。
アンゼリカに国家転覆罪を適用しても良い。
平和な時代ならもっと穏便に済むのだろうが…
対バールス戦争が控えている現状では
「【魅惑】に掛けられて運気が低迷している高位貴族」
ばかり増やされては勝てる闘いも負ける。
ハリスはアンゼリカの【恩寵】スキルが
「王家に必要なスキルだ」
と主張していたが…
そういった良過ぎるスキルも良し悪しである。
「傾国の美女」というものは女が絶世の美貌を持ち、男が勝手に争うという事ではなく…
「国や社会への影響を全く考えないワガママ女」が美貌と魅力を武器に影響力を持ち過ぎる事を指すのだろうと思う。
美貌だけならアンゼリカよりも美しい美女は大勢いるし
そういった女達に国を傾ける術はないのだから…。
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南部へ潜入している陰から【治癒】スキル持ちの事で連絡が入った。
やはり
「【治癒】スキル持ちの女冒険者はローズマリー・ウィングフィールドと同一人物」
との事だった。
ハートフィールド公爵派の暗部がせっせと偽の経歴作りを行なっている最中らしい。
十数年前にマルセル王国からの移民夫婦が開拓地の新興農地で農奴生活をしていたが、出来た子供を早々に里子に出し、その後夫婦も子供も亡くなっている。
丁度「マリー」という名の女の子だったとかで、戸籍をそっくりそのままローズマリーに与える根回しが為されているのだという。
(まぁ、賢い判断だ。ローズマリー・ウィングフィールドのままだと「連座処刑しろ!」と騒ぎ出す貴族も湧きかねないからな…)
ローズマリーの【治癒】スキルは優秀で、騎士の欠損すら繋げて治療している。
殺させるのは惜しい。
王国史を紐解いて、これまでの【治癒】スキル持ちを調べてみた所
「【治癒】スキルは怪我には万能な効果を発揮する」
ものらしい。
病気に関してだと
「よく知られている病気には多少効果がある」
「よく知られていない未知の病気には効果がない」
と記されている。
以前の【治癒】スキル持ちは約200年前から150年前くらいに存在して活躍していた。
女性だったので「聖女」と呼ばれ、その時代の王子と結婚。
平民出自の王弟妃として当時は有名だった。
その後出自は高位貴族令嬢に書き換えられた。
実際にただの平民ではなく孤児院前に捨てられた高位貴族の庶子だったようだ。
更にその前の【治癒】スキル持ちを調べても、同じように
「捨てられて辛酸を舐めた高位貴族の庶子」
だった。
【病気耐性】
【毒耐性】
というスキルも身に付いていたらしい。
レアスキルを顕現できる高位貴族の血を持つ子供が
全く大事にされずに辛酸を舐めて生き残ると
【病気耐性】
【毒耐性】
というスキルを顕現してしまう。
その事は研究者の間では密かに知られている。
それに加えて、そういった子供はスキル授与式で
【治癒】
【威圧】
【精神干渉耐性】
などのレアスキルを授かる確率が高いのだと…
そういった事が文献を漁って分かった。
(…【威圧】スキルを持つという敵も、ローズマリーや過去の【治癒】スキル持ちのように「高貴な血を持ちながらロクデモナイ育てられ方をした人物」だという事か…)
異端審問庁の【精神干渉耐性】持ちもまた何処ぞかの高位貴族の庶子、或いは王家の庶子、という可能性が高い…。
敵に【威圧】スキル持ちがいて、この国には【治癒】スキル持ちと【精神干渉耐性】スキル持ちがいる。
あと、アンゼリカみたいなのも湧いている。
何ともドラマチックな時代だ。
(やっぱり俺が知らない作品というだけで実は何かのゲームとか小説の世界だったのか?)
と俺は改めて「この世界」について疑問を持った…。




