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ダンジョンのサービス?

挿絵(By みてみん)


前回【リンドグレーン・ダンジョン】に来た時よりも魔物との遭遇率は高い。


インビジブルをしていないと、姿も見られて、足音も聞かれて、匂いも嗅ぎつけられる。

なので当然と言えば当然だった。


宝箱のドロップは前回と同様。

なのでラッセルが目を丸くした。


「なんなんだ!このダンジョン!冒険者が若い女だとサービスするとか、そういう事なのか!」

と少しキレ気味…。


「…ギルマスはこのダンジョンで宝箱をドロップした事がないんですか?」


「いや、無いことも無いが…。お前のように頻繁に出た事は無い」


「そうですか…。ギルマスがこのダンジョンで宝箱をドロップした時って、独りで潜ってる時だったんじゃないですか?それで瞬殺・秒殺に近い短時間で6匹以上の魔物を全滅させた時だったとか…」


「さぁ、どうだろうな。宝箱のドロップは当人の運次第なんじゃないのか?」


「私はそんなに運が良い方ではないです。なのに立て続けにドロップしてるでしょ?それでいて、魔物の数が5匹以下の時はドロップしてない。

『1人で戦って6匹以上の魔物を短時間全滅させる』みたいなドロップ条件が有ると考えるのが妥当ですよ」


「はぁ?そんな訳ないだろ。パーティー組んで数人で戦っても宝箱は出る時は出るぞ」


「それって、このダンジョンの話じゃありませんよね?ダンジョンごとにドロップ条件が違ってて、このダンジョンの場合はソロの短時間勝利が条件だってことなんじゃないでしょうか」


「…さぁな、ずっと『運次第』って言われてきてるドロップに関して『ダンジョンごとにドロップ条件が違う』とか考えた事も無かったぞ」


「…分析的に物を考えるタイプの人間には余り強い冒険者はいないから『ダンジョンごとのドロップ条件』を誰も検証できなかったのかも知れません。

或いは密かに『ダンジョンごとのドロップ条件』を割り出して、仲間内で秘密共有して荒稼ぎしてるとか?」


「…そう言われると、『一体どうやって資金源を確保してるのか』が不透明な勢力が有るには有るし、気にはなるな…」


「…ダンジョンの情報が出回らない、という事態が当たり前の風潮だと、ドロップ条件に関する発見が有っても、やっぱり広まらないんだと思いますよ」


「かもな。ともかくその件は要注意だろうな」


「それはそうと、此処で狩った魔物の素材や魔石、ドロップ品も全部『私のもの』という事で良いんですよね」


「それで構わない」


「でも荷物持たせてしまってるから、ポーター代くらいは払う気は有りますが…。Sランク冒険者のギルマスに荷物持ちさせる代金って幾らくらいが相場なんですか?…」


「『金を払え』とは言わない。が、出来るならお前がドロップしたレアアイテムは全て買い取らせて欲しい」


「冒険者ギルドで買い取ってくれる、という事ですか?」


思わずこちらも目の色が変わる。

ドロップしたのは以下の品々。

「下級ポーション:Eランク魔道具:効能【傷を癒す(小)】」

「浅い傷を癒す」

「下級毒消しポーション:Eランク魔道具:効能【毒消し(小)】」

「軽い毒を消す」

「下級麻痺解きポーション:Eランク魔道具:効能【麻痺解き(小)】」

「軽い麻痺を解く」

「イヌ寄せの笛:Eランク魔道具:効能【イヌ科魔物を引き寄せる】」

「イヌ科魔物に限りエンカウント率を上げる」

「ゴブリン寄せの笛:Eランク魔道具:効能【ゴブリン系の魔物を引き寄せる】」

「ゴブリン系の魔物に限りエンカウント率を上げる」

「クリティカルのピアス:Eランク魔道具:効能【クリティカル率向上(微)】」

「攻撃のクリティカル率がほんの少し向上する」

「気配消しのアンクレット:Dランク魔道具:効能【気配隠蔽(小)】」

「気配が少し読まれにくくなる」

「気配読みのアンクレット:Dランク魔道具:効能【気配察知(小)】」

「気配を少し読みやすくなる」

「俊敏の紐:Dランク魔道具:効能【俊敏さ向上(小)】」

「俊敏さが少し向上する」

「スタミナのベルト:Dランク魔道具:効能【スタミナ向上(小)】」

「スタミナが少し向上する」

「守りのペンダント:Dランク魔道具:効能【一部能力向上(小)】」

「防御力が少し向上する」

「切り裂きの腕輪:Dランク魔道具:効能【切れ味向上(小)】」

「刃物による攻撃力が少し向上する」

といったドロップ品の品揃え…。


「いいや、このダンジョンに潜った際の名目ではお前がポーターで俺が戦闘員だ。

だから実質お前が倒した魔物やドロップしたレアアイテムの所有権がお前に有ると公的に表明するとおかしな話になる。

なので今回のレアアイテムは俺が買い取るし、魔物の素材や魔石に関しては、それこそ俺からお前に支払うポーター代という名目になる」


「因みに幾らくらいで買い取ってくださる気ですか?」


「それこそ相場だな。Eランクのレアアイテムが銀貨一枚。Dランクのレアアイテムが銀貨五枚。Cランクのレアアイテムが金貨一枚だ。

オークションなどでは需要次第でその三倍くらいにまで値が釣り上がるが、ツテのない人間が出品するのは難しいだろう」


「そうなんですね。有り難うございます」


「そろそろ持ちきれなくなるし、今日はここまでにして引き上げるか」


「はい。帰りは戦闘を出来るだけ避けて早目に出入口に戻りたいです」


「同感だ」


ラッセルは人間が持ちきれなくなる事よりも馬の負担を考えたのだが、私からすれば

(一刻も早く金貨をゲットしたい!)

という欲に釣られての意見だった…。



********************



金貨を手渡されて

(うわぁ〜…。やっぱり不正して潜るんじゃなくて、ちゃんと正規の名目があって潜ると、こうやってドロップ品を捌けるんだな…)

と少し感動した。


(これまでの労働の中で一番稼いだ…)


…重傷者達の治療やら欠損患者の欠損箇所修復などは

大金を払ってもらうべき大仕事だったというのに…

端金しかもらえなかった。


「治癒魔法の労働力が安く買い叩かれたとしか思えないんだよな…」

と私は不満タラタラである。



「レアアイテムを獲得する」

という行為は

「できない人も多いが、他の人達が絶対できない事ではない」

ので

「レアアイテムは高額で買い取ってもらえる」。

相場が存在できる。


一方で

「他の人達が絶対出来ない事をしてしまうと『対価の相場が存在しない』状態にされやすい」

のだと実感した。


(…独りだけ圧倒的に優れているよりも、他の人達より少し優れている程度が一番得できるんじゃないかな…)


自分以外にも供給者がいるなら

「供給の対価が下落させられないように働きかける人員」

も自分だけではない。


だけど自分しか供給者がいないなら

「供給の対価が下落させられないように働きかける人員」

は自分独りだ。


「労働の価値を引き下げられないように」

と、たった独りで戦うのは分が悪過ぎる。


(「能力さえ有れば、必ず認められる筈だ。それが当たり前だ」と思い込んでる人達は「能力有る者を認め、適切な対価を支払う人達」という社会の上質な構成員の有り難みが理解できないのだろうな…)

と思う。


「フェアトレードが成立する」

という

「本来なら当たり前である筈の公正さ」

すらも

「実際には当たり前ではない」。


(マルセル王国の港町バロワンで痛感させられた)


社会はモラルの高い上質な構成員を多数必要とする。

しみじみとそう思った…。




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