フィランダー視点:10
人間の精神に干渉するスキルを敵やワガママな人間が持つと
人間社会は容易く地獄に変わる。
俺はその事実に気がついた。
今後の予想される国難も【精神干渉無効化】効果のある魔道具が沢山手に入れば何とかなりそうなのに…と思ってしまう。
敵側に【威圧】という精神干渉スキルを持つヤツがいるらしいからだ。
【威圧】は標的を殺すためだけに使うのではなく、仲間を裏切らせないためにも使えるスキル。
盗賊や海賊にこのスキルを持つボスが居れば
「ボスに拷問されて虐殺されるよりは、商人を襲って護衛と闘ったほうが生き残れる可能性もあるし、怖くない」
という心理に駆られて、どんなヘタレでも勇猛果敢に闘う訳である。
なので【精神干渉無効化】できる魔道具があれば、そういった恐怖による団結にヒビを入れる事も可能。
「【精神干渉無効化】できる魔道具…。先ずは一つでも良いから手に入らないもんかな…」
思わず願望が口をつく…。
俺のボヤきを聞きつけたダリウスが
「…Sランクダンジョンから稀にドロップするドロップ品の中に【精神干渉無効化】魔道具がありますよ。
ですがSランクダンジョンですからね。中に入って生き残るだけで精一杯という空間です。
欲しいドロップ品を『狙って出す』とかは不可能でしょうね。人間には…」
と教えてくれたが
「…今の俺ではSランクダンジョンは無理だなぁ…。流石に」
と本音の弱気が漏れた。
「…『今は』そうだとしても、Bランクダンジョン踏破、Aランクダンジョン踏破、と手順を踏んでSランクダンジョンに挑めば生き残れるくらいには鍛えられるかと」
そう言われても遠い道のりに思える。
だがせめて対バールス戦争が起きる時までには
【精神干渉無効化】魔道具を複数入手して起きたいものである。
「…そう言えば、ドロップ品が出るダンジョンは頼まれなくても冒険者が潜ってダンジョン内の魔物を間引きしてるが、ドロップ品が出ないダンジョンだと間引きはどうなってるんだ?
騎士団が責任持って間引きしてるのか?」
法的にはBランクダンジョンAランクダンジョンSランクダンジョンといった高ランクダンジョンは騎士団の管理下にある。
なので冒険者達は高ランクダンジョンに潜る際には騎士団に入場料を払っている。
ドロップ品が出るダンジョンには一攫千金狙いの高ランク冒険者達が群れを為すが…。
ドロップ品が出ない高ランクダンジョンへは誰がわざわざ金を払って入ると言うのだろうか。
「…ええ、騎士団が責任持って間引きする義務があります。ですが上手く出来ていないのが現状でしょう。
何せ騎士団には【2倍の加護】持ちはなかなか入団しません。
本当に強くなる【2倍の加護】持ちにとっては騎士になるより冒険者になった方が稼げます。
騎士団に入団する者達は冒険者になっても稼げないレベルの者が多いんですよ」
なんか…この国、大丈夫なのか?
と今更ながら心配になる。
「我が国の高ランクダンジョンは南部、西部にあるんだったな…」
「ええ。なので南部、西部の冒険者達は強いですよ。中央も北部も東部も低ランクダンジョンしかないんで低ランク冒険者しか集まりません。
辛うじて中央が『Sランク昇格試験は王都の本部でしか受験できない』というルール設定のお陰でSランク冒険者を試験官として仮初めに誘致する事に成功してるくらいです」
「…当たり前なのかも知れないが、民の頭の中には金と自分の事しか無いんだな…」
俺がガッカリして言うと
「…平民や貴族家の傍流の庶子とかだと『国のために』だなんて発想自体が有りませんよ。
というか、権益にぶら下がって美味しい思いをしてる筈の者達ですら金の事と自分の事しか考えてない者も多いので、権益と無縁の者達に『国のために』生きろだなんて強要もできないでしょう」
とダリウスが絶望的な世間事情を語ってくれた。
「…高ランクダンジョンでの魔物の間引き…。俺も頑張ろうかな…?」
「はい。それが宜しいかと。そのうち戦闘に役立つ魔道具を余裕でドロップできるくらい強くなれますよ」
ダリウスが無責任に言い放ち、良い笑顔を向けてきたが…
俺にはその笑顔が憎たらしく見えた…。
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王都から一番近いBランクダンジョンは西部にあるドロップ無しの【プリチャード・ダンジョン】だ。
日帰りは無理だが2日連休が取れれば行って帰って来れる距離なので、騎馬での早駆けの練習と戦闘訓練とを兼ねて度々赴くようになった。
ドロップ品が出ないので不人気ダンジョンだ。
内部が飽和状態になっていて、魔物とのエンカウント率がヤバい事になっている。
深く潜らずとも充分な戦闘訓練が出来るので内部での行き帰りに時間を取られる心配がない。
「これならハリスとダリウスも連れて来れるんじゃないか?」
と思った。
ウチの近侍は二人ともエクストラスキルが【一部能力向上(中)】なので、どんなに戦闘訓練をしてもそこそこしか強くなれないが…
それでも訓練しないよりした方が良い。
スキルには熟練度がある。
そしてスキルにはアーツも生えてくる。
俺の【増幅】スキルは主に弓術や投擲術で用いるため、アーツには【必中】が生えた。
使える回数は限られるが【必中】を使えば100%命中する。
訓練すればする程スキル熟練度が上がり戦闘力も上がるのだ。
だが近侍らは
「「Bランクダンジョンは流石に…」」
と断った。
冒険者でも【一部能力向上(中)】の冒険者だとダンジョン潜りはCランクダンジョンまで。
それ以上となると【一部能力向上(大)】や【2倍の加護】。或いは武術系エクストラスキルが必要となる。
「ダンジョンでの戦闘訓練なら大抵休日に『肉ダンジョン』に通って済ませてます」
とダリウスがプライベートな事を話してくれた。
王都内に唯一存在する【ニューランズ・ダンジョン】。
通称『肉ダンジョン』。
食用になる動物系魔物が居るダンジョンだ。
ホワイト王国の食を支える重要なダンジョンとして位置付けられている。
「ハリスも休日に戦闘訓練とかしてるのか?」
と俺が何気なく話を振ると
ハリスは
「…休日には沢山腰を使って腰を鍛えてます」
との返事が返ってきた。
「「………」」
「あと、『女性に騙されずに済むように、女性の手練手管に慣れる』訓練もしてるかな?」
と可愛らしく首を傾げてくれたが、可愛くない。
(というか気持ち悪い)
「…ともかく、お前らにSランクダンジョンに付き合えと言う気はないから、今後は市場に出回ってる【精神干渉無効化】魔道具をチェックするようにしてくれないか?」
とだけお願いしておく事にした…。




