フィランダー視点:1
ホワイト王国王都ホワイトウェイ。
その中心部よりやや北寄りに王城が鎮座している。
俺はこの国の第三王子に生まれている。
代々、この国の王家の王子は母親の血筋の影響を受けずに
「第一王子が王太子」
「第二王子が暗部総督」
「第三王子が騎士団総督」
と決められている。
なので俺は幼い頃から騎士団に入れられてバカみたいに
「訓練という名のシゴキ」
(虐待とも言う)
を受けて育った。
あのまま育ったら立派な脳筋になっていたに違いない。
だが9歳の頃、転機が訪れた。
お忍びで城下に出かけた際に馬車事故に遭いーー
交通事故で死んだ前世を思い出してしまった…。
前世は身分制度のない国で、ここよりも文明が進んでいた。
前世の俺の肉体のスペックは低く、相当頭が悪かった。
工業高校へ行き、卒業後は市内の工場に就職して無遅刻無欠勤の皆勤賞を取り続けた。
丈夫さだけが取り柄だった。
顔も良くなかったし収入も低かったので結婚相手にも恵まれずずっと独身。
ほぼ「ゲームが友達」の人生を過ごした。
享年は45歳。
死因は交通事故。
前世を思い出したからといってーー
思考や感情まで大人になったという訳ではなかったが、人生に対してワクワクを感じる新鮮さが自分の中から消え去ったのは感じた。
以来、周りから「早熟な王子」と思われるようになった。
(これは「異世界転生」というヤツだろうか…?)
と初めの頃は戸惑い
「何かのゲームとか小説の世界に転生してるのだろうか?)
と気になったし
(シナリオが存在しているなら、早目に思い出した方が良い)
と思い、記憶を掘り起こして振り返ったものの…
ここと同じ「スキル授与式でスキルを授かる」系のゲームはあったが…
それにはホワイト王国など登場してなかった。
斯くしてーー
俺が知らないゲームか、ゲームや小説関係なくただ存在している異世界か、区別が付かないまま月日は流れた…。
だがそのうち
「生身で生きてる」
「シナリオのある作り話の世界だと思うには余りにもリアリティーが強い」
と気付いた。
よって
「シナリオがあろうがなかろうが気にせずに自分が最適だと思う道を進もう」
と割り切る事にしたのだった。
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ホワイト王国は王都を中心に、四方に四つの町が隣接している。
王都ホワイトウェイより
北にリヴィングストン
東にフェザーストン
南にファイアストン
西にギャヴィストン
それら四つの町は四大公爵家
北部統括ホワイトフィールド公爵家
東部統括ウィングフィールド公爵家
南部統括ハートフィールド公爵家
西部統括フェアフィールド公爵家
がそれぞれ仕切っている。
ホワイト王国の王家ホワイトヘッド家は元は北部のホワイトフィールド家から出ているので、建国から二百年以上経った現在でも王家は北部との癒着が強い。
一方でウィングフィールド家、ハートフィールド家、フェアフィールド家は叛逆を起こす可能性のある公爵家だ。
ーーという事もあり、それらの三家には積極的に「陰」を送り付けて情報を仕入れているのがホワイトヘッド家とホワイトフィールド家なのである。
情報収集の結果、随分前からウィングフィールド公爵家を筆頭とした東部貴族に問題がある事が発覚している。
(それこそ俺が物心つく前から)
ウィングフィールド公爵家の長男は俺と同じ歳だった事もあり、王立学院の入学前から親交はあったが、それに加えて
「ウィングフィールド公子と親しくなりフェザーストンの公爵邸へ出入りする仲になるように」
という指示を父と次兄からくだされた。
「ウィングフィールド公爵家を筆頭とした東部貴族を粛正するには念入りな証拠集めと各個人の役割の識別や責任の程度判定が予め必要になる」
という事で、少しでも多くの情報を王家は必要としているのだ。
「油断させるためにウィングフィールド公爵家の長女をお前の婚約者にと考えている」
と言われた時には流石に
「絶対嫌です」
と即断した。
ヒューバート・ウィングフィールドの妹オリーヴ・ウィングフィールドはヒューバートと違って容姿に恵まれていない。
それだけではなく性格にも問題がある。
ウィングフィールド公爵家を粛正する時までのかりそめの婚約者にするにしても、アレはない…。
(そう言えば、ヒューバートの妹は表向きは二人だが、本当は庶子の妹がもう一人居るんだったな…)
と報告書を見て知った情報を思い出した。
どんな少女なのか、好奇心から見ておこうと思った事があったが…
ウィングフィールド公爵家では下級使用人の姿を不思議なくらいに見かけない。
「平民の下級使用人は貴族の前に姿を現してはいけない」
というルールが徹底されているようだ。
他の貴族家だとルール無視して貴族の前に姿を現す下女も少なくない。
玉の輿狙いの夢は根強いらしい。
なのにウィングフィールド公爵邸の下女達は徹底して主人一家と客人の前に姿を現さない。
「罰が凄いんですよ、ウィングフィールド公爵家は」
とウィングフィールド公爵邸に潜り込んでいた間諜がボヤいていた。
ウィングフィールド公爵スチュアート・ウィングフィールドは妻のチェリーに未だ庶子が居る事を打ち明けていないらしい。
なので侍女との間にできた庶子のローズマリーの存在を隠し続けるためにも、屋敷で下女として働かせているローズマリーが妻や嫡子らと遭遇しないように気をつけているものらしい。
「徹底して顔を合わせないようにする」
のが色々と怪しく感じる。
ウィングフィールド公爵家の面々は
現公爵のスチュアートと長男のヒューバートがよく似て美形である他は皆パッとしない容姿だ。
次男のエグバートは夫人のチェリーによく似ている。
長女のオリーヴと次女の(実質三女の)ローレルは隔世遺伝なのか、両親のどちらとも似ていない。
「子供が必ず父親に似るとは限らない」のだ。
ローズマリーが父親似じゃない限り、そこまで徹底して遭遇を忌避させる必要があるとは思えない。
変に遭遇を避けさせたりせずとも誰も庶子が庶子である事を口にせず、知りもしないなら、逆に避けさせる事で違和感が生じる、
だからこそ俺は
(…ローズマリーは、スチュアートに似てる?のか?)
と不審に思った…。
【注意】
この作品の場合
「暗部構成員=陰」
という表現をしています。
「陰」の時の方が正解で、「影」の時の方が誤字です。




