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般若心経が幽霊に効く?

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 とってもシンプルに言ってしまうと、この法則性を理解しようというのが自然科学という分野だ。だから、ブラックボックスの中がどうなっているのかは別に分からなくて良くて、極論を言ってしまえば、例えば仮に幽霊を利用していようが何だろうがこの法則性を定式化できるのであればそれは充分に自然科学と呼ぶに値する。

 もちろん、幽霊の実在を認められた場合だけどね。

 

 で、だ。

 実は僕の目の前には今当に幽霊がいたりするのだった。

 いや、僕は別に幽霊が見える性質とかそういうのじゃない。より正確に言うのなら、だからそれが幽霊と呼ぶべきものなのかどうかすらも分かっていない。

 けど、青白い歪んだ顔で上半身の途中から後ろが透けて見えていて、恨めしそうな様子で浮遊していたら、やっぱり、大抵の人はそれを幽霊だと思うのじゃないだろうか? 因みに、面長な顔の痩せた男性の姿だった。

 

 それは友人の家の一室で、「幽霊がいる。怖くて堪らないから来てくれ」と頼まれて僕はその部屋を訪ねていた。まさか、本当に幽霊に(より正確には幽霊らしきものに)まみえるとは思っていなかったけど。

 そして、場合によっては幽霊以上に怖いかもしれない者がその部屋にはいたのだった。

 坊さんである。

 いや、本当に坊さんなのかどうかは知らない。でも兎に角本人はそう自称していて、霊能力が使えると言っている。

 「これから般若心経を唱える!」

 と、その坊さんは宣言した。

 

 ――般若心経?

 

 実は幽霊に恐怖した友人は、その坊さんに幽霊のお祓いを頼んだのである。ただ僕は大いに疑っていた。詐欺じゃないか?って。

 「あの…… 般若心経が幽霊に効くんですか?」

 だから思わずそう訊いてしまったのだった。

 坊さんは力強く答えた。

 「効く場合も、効かない場合もある!」

 なんかダメそうだ。

 坊さんを疑っていた僕は般若心経の意味をちょっとスマートフォンで調べてみた。すると、形而上学的で哲学っぽいなんだか幽霊やらなんやらとは関係がなさそうな話がヒットした。

 

 ――これで幽霊が退散するの?

 

 いや、もしかしたら、この意味を幽霊が理解できて、それで悩みが晴れて成仏するとかそういうのだったら分からなくもないけど、でも、和訳してもらわないと何を言っているのかすら分からないし、ちょっと無理があるんじゃないかなぁ?

 などと僕は思っていたのだけど、その間に坊さんは般若心経を唱え始めたのだった。が、“多分、ダメだろうなぁ”なんていう僕の予想を裏切って幽霊は外に逃げ出してしまったのだった。

 「本当に効いた!」

 と、それに友人は喜んでいた。僕にはちょっと信じられなかったけれど、坊さんは満足そうな表情で、「ありがたいお経ですからな」なんて言っている。そして友人は「ありがとうございます」と感謝しつつ彼にお金を支払っていた。

 でも、僕にはどうしても納得ができなかった。それで出て行った幽霊を追いかけたのだった。怖かったけど、疑問が解けないもやもやを放っておく方が嫌だったから。

 幽霊は彼の家の前で直ぐに見つけられた。「あのー、」と話しかけると僕は尋ねる。

 「どうして逃げたのですか?」

 すると幽霊はこう返すのだった。

 『だって、あれってなんか凄いお経でしょう? ヤバいのじゃないかと思って』

 それを聞いて、僕は“ああ、なるほど!”と納得をしたのだった。

 騙されるのは生きている人間だけとは限らない。死んだ人間だって騙される場合あるのだ。だから、“効く場合も効かない場合もあった”のだろう。

 それから、こうも思った。

 

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 の法則性を理解するのが自然科学。ブラックボックスの中は別に不明のままで構わない。でも、果たして、この場合はどう解釈すれば良いのだろう?

 般若心経は確かに効果があったのだけどさ……

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