閑話20 ただ、生きたいだけ。
普通の生活というものに憧れた。
普通の生活の定義が何かと聞かれたら、それは家族がいて、そこに愛があって、一日一食でも何かを食べることができる生活。自分なら、そう答える。
だから、仲間≒家族ができて、その間に友情≒愛があり、何不自由なく生活できるようになる魔王になれるということは自分にとってすごくうれしいことだった。
魔王になったときには、自分が世界で一番の幸せ者であるかのように思っていた。
でも、それが絵空事のものであることが分かったのも、魔王になってすぐのことだった。
それでも、私は仲間を作って、友情をはぐくんできたつもりだ。もしそれが、仮初のものであったとしても。
そう、分かっていたはずだ。すべてが仮初のものであって、自分の思い描いていることそのすべては絵空事であるということくらい、分かっていたはずだ。
「裏切られたってことよね。」
「あぁ、そうだエルミナ、最初からお前に仲間などいない。」
「君のことは、信じてたんだけどなぁ・・・」
これから何が起こるのかなど、否が応でも分かった。体は固定され、魔力も奪われた。能力の使用も封じられ、なすすべはない。
あとは、処刑を待つのみ。
「君の配下もかわいそうなものだよな。すべて、お前のせいで、人生を狂わされたんだ。」
「あの子たちは、どうなるのかな?」
「お前の配下たちにはお前の希望通り、未来を与える。ただし、お前と関わった時間すべての記憶を消したうえで、な。」
「そっか。よかった。」
涙がにじむ。悔しいからなのか、悲しいからなのか、それとも喜びか。
「私ね、今でも信じてるんだ。願えば、努力すれば、信じれば、いつか奇跡が起きてくれるって。実際、完全な形ではなかったけど、奇跡は起きた。そのおかげで、あの子たちは、昔抱いた夢に向かってもう一度走っていける。でも・・・君は、どうかな?」
黙ったまま、でも、それが答えだった。
「後悔してからじゃ、遅いんだよ。君はそれを、私なんかよりも何倍も知っているはず。わかってるよ。私が言うのもだけど、今もつらいんでしょ。なのになんで、まだ頑張れるの?」
「頑張りなんかじゃない。これは諦めだ。愚かでか弱い自分が取れた手段がこれしかなかっただけだ。」
「でも、あなたはまだ世界のために頑張ってる。未来をあきらめてはないでしょ。」
「未来、ね。あるといいが。さ、処刑の時間だ。さようなら。」
「・・・さよなら。」
「もし、まだ生きていれたなら、世界は変わったのかな?そうじゃなくても、私たちの未来くらいは変わったかな?」
その質問に答えるものなど存在しない。
エルミナにできることは、最後まで、悪役であり続けること。
でも、それも今回で終わりだ。
次は、生き延びる。
そのために、できることはすべてする。
あの時の約束を果たすために。




