SS-1 未来への追憶
「私は君の未来を、知っている。」
西暦2030年・千葉県千葉市稲毛区某所・秋
「君の歩むべき道も、知っている。」
町が騒がしい。まだ、消火活動が終わっていないのだろう。
「君は失敗したんじゃない、間違ったわけでもない。ただ、運命の通りに、物事が進んだだけだ。」
死者:40名 内訳:生徒38名、教師1名、容疑者1名
「君の仲間は、確かに死んだ。けど、それはこの世界の、この国の、常識的な考え方の上での話だ。」
被害者の中に、『血分 深時』その名があった。簡単に言ってしまえば、同じマンションの下の階に住む、一つ年上の知り合いである。
逆に、自分たちの今までの関係を考えて言うのであれば、超能力者にして、異端者、頼れる姉のような存在であり・・・
「君、いつまで死んだ人間のことを考えているつもり?死んだ人間は蘇らない。そうでしょう。」
確かに、死んだ人間は蘇らない。一般常識として、誰もが知っていることである。しかし・・・
「なら、聞きますが・・・猫が人の形をとることがあり得るのか。」
目の前にいるのは人ではない。それだけは、はっきりとわかる。
「市井 舞って子を知っているかな?」
「質問に対する答えになっていない。」
「質問に答えるから、そのためにこの質問に答えて。」
「・・・しっている。血分の知り合いのはずだ。たしか、あいつと同じクラスの・・・あぁ今回の事件の犠牲者のうちの一人か。」
「それなら、話が早い、彼女に聞いた方が詳しいことが聞けるわよ。」
「どういうことだ?今の自分はそれなりに怒っている。真面目に答えてくれ。」
「三国君の件、すでに聞いているかな?残念だよね。彼は、頑張っていたのに、あんな最後を迎えることになるなんて。」
「自分は、こういうものの取り扱いには慣れていないが、あいつらが残した取扱説明書はすでに読んである。もし、お前が敵なら、容赦しない。」
「あれ?私、いつの間にか敵になってる?勘違いされても困るんだけど・・・」
「じゃあ、速く答えてくれ。猫が人の形をとることがあり得るのか否か。」
「はぁ・・・先に答えだけ言うよ。答えはYES。残念ながら、あなたの知る世界のルールや法則なんてものは、私たちの前では通用しない。今までも、そうだったんじゃないかな?」
「猫、お前にもう一つ、質問がある。」
「何?聞いてあげるから落ち着いて、ね?」
「あの事件が起こることをお前らは事前に知っていたのか?」
「・・・」
「答えてくれ。」
「・・・」
自分は、銃口を猫=ソフィアに向ける。
「そんな物騒なもの、持ち歩いちゃだめだよ。」
銃口の向きを変えるつもりは、ない。
「正直に話そう。あの事件が起こることは、知っていた。起こるうえで放置していたの。」
「ではなぜ、あのような凄惨な事件を放置した。」
「その理由は・・・敵に対処するためだよ。」
三国が生前、残してくれていた資料があった。だが、その字はほとんど読めず。調べてもどこの国の言語でもなかった。だが、そこに貼られていた付箋にあった一文それは。
「『敵を討て』だよ。運命の異端者。」
運命の異端者。それが、今の自分の名である。認めたくはないが・・・
「君のすべての記録はこの世界から抹消された。残ったのは、君という現在進行形の存在だけ。未来はわからないけれども、少なくとも、過去に、君という人間が存在したことを証明するものなんて、残っていない。」
「なぜ、お前は俺のことを記憶できている?」
「簡単だよ。君の記憶はこの世界から抹消されたかもしれない。だけど、私はすでに、君についての記憶のバックアップを別の世界にとってある。」
「どういう意味・・・」
「もう一度言うよ。『敵を討て』だよ。」
「・・・お前が敵か?ソフィア。」
「君は、他人の視線というものに気が付かないらしい。殺意というものにさえ。いや、違うか、あの殺意は君に向けられたものじゃなく、いや、あれはもっと純粋な、殺意ですらない。行動の一つとしての視線ね・・・」
「どういう独り言だ。」
「つまりはね。敵はすぐそばにいるのに、君が気付いていないんだよ。確かに、本当の敵は彼女ではないかもしれないけれども、少なくとも、今の敵は彼女だよ。」
「答えろ。敵はどこにいる?」
「・・・君の後ろだよ。って言っても、建物の上にいるけれども。あぁ、あと、君はすぐにここから動いた方がいい。銃を持ってると、銃刀法違反で捕まるからね。」
自分は後ろを振り向く。それと同時に、パンッと響く発砲音と、何かが何かを打ち抜くような音がした。
「えっ・・・」
音がした方を確認すると、ソフィアの脳天に穴が開いている。そして、そこから噴き出る・・・血。
急いで、発砲されたであろう方向を確認するが、何も見当たらない。
先ほどのソフィアの発言を思い返す。特に『ここから動いた方がいい。』という発言、撃たれたソフィア、銃を持っている俺。俺の後方から撃たれた弾。そして、相手の発砲音は響いている。
この状況は、非常にまずい。ここは発砲音と、頭を打ち抜かれた女性。そして、銃を持つ少年。これだけで、十分である。
自分は、急いで走り出した。行先は、どこだろうか?自分でもわからない。ただ、ひたすらに走る。
現場から、離れるようにして。
・
・
・
しばらく走り続けて、ようやく状況を飲み込めてきた。
ソフィアは、敵がいることに最初から気が付いていた。ではなぜ、回避行動をとらなかったのか。
通常普通の日本人ならば、銃を持った相手がいる時点で意地でも逃げるか、諦めるかの二択となる。別に、徹底抗戦しても構わないが、建物の上という情報から、少なくとも相手は至近距離からの射撃をしていない。よって、抗戦が難しいことは明らかである。
よって、逃げる一択になると思われるが、それを行わなかった。自殺願望があるような人ではなかったから、撃たれるところまで計算の内なのだろう。
そういえば、血分は超能力者だが、その超能力には血が関係することが何度かあった気がする。
血を操作する超能力があるのならば、他にもいろいろな超能力があってもおかしくはないのではないか。
例えば・・・ソフィアは死に関する超能力があって、本当は死んでいない。だとか。
しかし、これはただの希望的観測に過ぎない。
ならば、なぜ撃たれにいったかだ。撃たれる必要がないならば、普通は撃たれないだろう。撃たれたにしても事前に回避行動はとるはずだ。
そういえば、ソフィアが途中、市井 舞について言及していたことを思い出した。彼女は確か、学校からもっと海の方・・・幕張のあたりに住んでいたはずである。
幕張、そこに行けば彼女についての情報があるのだろうか。死んだ人間の情報が。
ただ、幕張というのはどうしても行きたくない場所である。血分たちのような超能力者とか、武装集団と幕張に行くぶんにはよいのだが、一人で行くには危険すぎる。いくら銃を持っていても、あのテロ組織が2年前に占拠したあの都市には、入りたくない。だが、今回の一連の事件について調べるのなら、十分に情報がありそうな都市である。
これが、ソフィアの言っていた運命とやらなら、進むべき道なら。間違いではないのだろう。
幕張、その都市へと向かうための心の準備が整った。その時だった。
「幕張に行くんでしょ。乗ってきなさい。」
突然、黒色の車の中に引き込まれた。
「ここからおろしてくれ、幕張に向かおうとしていたのは確かだが、人攫いに会いたいとは言っていない。」
どう考えても人攫いである。7人乗りの車で、俺の席以外がすべて埋まっており、それも全員が黒いスーツを着ている。いや、前言撤回、助手席のみ、高校の制服を着た女性である。それに、見たことのある制服である。
「久しぶりだね。えーと、名前は・・・運命の異端者か、元気にしてた?」
「市井 舞、なぜあなたがここにいる。あの事件であなたは爆発に巻き込まれて死んだはずじゃ・・・」
「そうだね、死んだ。死んだよ。確実に死んだ。」
「なら、なぜここにいる。」
「君が言うところの超能力者ってやつなんだよね。私も。」
「納得はできないが、納得したことにしておく。それで、自分を幕張に連れていく目的は?」
「理由は、あなたが幕張に行きたいと思ってそうだから。で、もう一つの理由が、今からある人に会いに行くから。」
「ある人?誰だ?」
「三国 想、今から彼に会いに行く。」
「彼も死んだはずじゃ・・・いや、まぁ、そこについて言及するのはもうやめにしよう。」
「ところで、君はなんで幕張に向かおうとしているんだったっけ?」
「うん?幕張にあなたがいるからじゃないですか?」
「そうだね。そして、それを教えてくれたのは?」
「ソフィアだが、面識があるのか?」
「面識があるもなにも・・・」
市井は初めてこちら側を向いた。それと同時に、あるものを俺の額に突き付けてきた。
「彼女を殺したの、私だからね。」
パァン!と乾いた音が車内に響いたのは、その時だった。




