07話 出会いと別れ
前回の戦いの次の日である。
全身から血を噴き出した割には体はいたって普通に元気だ。セブンが回復してくれたらしい。このくらい魔法が使えるこの世界では普通なのかもしれない。
そして、問題のハンドレッドの方だが、あの後、自分の体(頭無し)を動かして、自分の首を取りに行って自分でつけて無理やり回復させたらしい・・・そんな馬鹿な。
昨日は手加減してくれていたようだが、俺が使った禁忌属性が想定外だったようで、惨敗してしまい機嫌が非常に悪い。
ちなみに、今回使った禁忌属性だが、あれは特殊な属性だそうで、聖域の外に出たら本当に危険な時以外使うなとセブンに言われた。もし自分が使えることが他人にばれれば最悪の場合、政治的問題にまで発展する恐れがあるらしい。なんでそんな本が置いてあったのかは気になるが、追及しても答えてくれなかったのであきらめた。
また、俺が倒れた理由は禁忌属性が持つ禁忌のエネルギーに体が耐え切れなかったかららしい。そのため、体中の内臓が破裂してああなったらしい。思い出したくもない。
また、最後に俺が放った斬撃もまた、名前の通り禁忌属性である。それを放たなければ倒れるだけで済んだかもしれない。とかなんとかセブンが言っていた。まぁ、今となっては後の祭りなのだが・・・
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「さて、今日で君と過ごすのは最後となる。いやぁーまぁ、刺激的な日々だったね。」
「どこがよ、あー、でも確かに、首を切られて刺激的ではあったかもしれないけれども」
「・・・」
「というわけで今日は君に聖域を出て行ってもらいたいと思う。」
「追い出すというわけか。俺を。」
「まぁ、端的に言うとそうなっちゃうけど、君の身元引受人もすでに外に準備してあるから安心したまえよ。」
「ちなみにその身元引受人って誰なの?私まだ聞いてないんだけど。」
「『キルト』だね。彼なら問題なかろうと思ってね。」
「あ、あいつね。転生者の、」
「へ、転生者ってやっぱりころころと転がっているものなんですかね?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど、僕の知り合いで日本人がいるって言っただろう。それが彼だよ。」
「なるほど。」
「というわけでそろそろ出発しようか。」
「私はお留守番してるから、ここでお別れね。じゃあね、神宮寺 快成。」
「あぁ、ありがとうね。ハンドレッドまた会う時があったらその時は手加減なしの君と戦えるぐらいに強くなっておくよ。」
「言ったわね。期待してるわよ。」
「じゃ、行こうか。」
ハンドレッドとの会話を終えると俺は彼らの家から外へと出た。
しばらくまっすぐと進んでいくと森の中へと入っていく。
「基本的に聖域というものは隠された存在であり、侵入は困難。この後君が聖域を出たとすると今の君の力と知識じゃ、聖域の中には戻れないからね。そこだけ覚悟しといて。」
と言って、森を5分ぐらい進んだあたりでセブンが足を止める。
「この先・・・聖域を出た先にに村がある。そこに着いたらまず、一番近くの冒険者ギルド支部を探すといい、そこの村の人たちは皆フレンドリーだからちゃんと答えてくれると思うよ。あ、いくらフレンドリーといっても子供に聞いたらわからないって言われるだろうからね。そこだけ注意して。」
「わかった。ということはここでセブンともお別れということだね。今までありがとう。」
「いやぁ、こちらこそ、こう見えてこちら側もいろいろな収穫があったんだよ。・・・あ、そうだ、渡し忘れてた。」
そういうと彼は一冊の本を取り出す。
古びた本である。ただ、ページが欠落していることはない。しっかりと保管されていたのだろう。
「この本は魔導書でね。しかもかなり特殊な、一定の量の魔力を供給してやればその本が魔法を代わりに放ってくれる優れものだよ。国家機密になりえるぐらいの古代遺物だから売ったりしないで君が持っていてね。悪用されると困るから。」
「え?でもなんでそんな本を俺に?」
「君、昨日禁忌属性を使ってたでしょう。あれはそう簡単にできることじゃない。だから、君の可能性を見込んでこれを渡す。今後の異世界生活に役立ててくれたまえ!」
「なんか偉そうな・・・偉くていいんだけれどもさ。」
「ふふ、じゃあまたね。」
「あぁ、また会う日まで。」
そういって俺は歩き出す。そして進む、まっすぐと、ただただまっすぐと。
「次に君と会うときは、いつだろうねぇ、せめて、落ち着いた時に会えるといいのだけれども、どうだろうねぇ。」
その声が、快成に届くことはなかった。
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ひたすらに森を歩く、というか山を下る感じである。7日間の訓練の成果かあまり疲れは感じない。しかし、
「暇すぎるだろ、この道のりは」
マジで何のないのである。というか景色が変わらない。普通に整備されていない山道を雑草を潜り抜けて進んでいるだけである。
誰だ、聖域を抜けた先に村があるとか言ったやつ、全然ねぇじゃねえか。
しかし、それにもようやく終わりが見えてきた。
大きめな建物が見えてきたのである。
そして、よく見るとその周りにたくさんの民家と畑が見えてきた。
おぉ、これがセブンの言っていた村ね。これで一つの領地だとか言ってたけど、かなり小さいな。
セブンから聞いていた事前情報によると、この辺りは広く『アリス』という人が領地として管理しているらしい。
また、彼女の領地のほとんどは山であり、村となっているこの場所に領内ほぼすべての人口が集中しているらしい。
「さて、まずは第一村人を発見しなきゃ・・・お、あそこに何人かいるな。」
そこにいたのは老若男女約15名ほどである。全員農民に見える。何やら畑の一角で話をしているらしい。とにかくそこの人たちに冒険者ギルド支部の場所を聞いてみることにする。
「あの~すみません。」
「ん、見ない顔だね?旅人さん?」
女性が真っ先に反応した。見かけは18歳ぐらいに見える。
ちなみに現在俺は何も持っていない。水も服もない。
「へ?この格好で旅人は無理がありません?」
「え?違うの?てっきり異空間収納を使える人だと思ったんだけど、違かった?」
よくよく考えてみればこの世界には異空間収納たる魔法があるのだから、何も持っていなくても旅人としてとらえることができなくもないのか。
とにかく、まずは冒険者ギルド支部の場所を聞いてみる。すると、
「じゃぁ、私が案内してあげるよ。隣の領地にあるから一時間ぐらいで着くよ。」
すると、周りにいた人たちが騒ぎ出した。
「アリス様!?何をおっしゃられているのですか!彼を信用しないわけではないですがそれはさすがに危険というものです。」
「そうですよアリス様、代わりに私たちが彼を案内しましょう。」
「え!アリス様行っちゃうの?」
「「僕・私まだアリス様とおしゃべりしたーい」」
ん?なんだって?アリス様?『様』って一体どういうこと?
「だって久々にこの村に外から人が来たんだよ。通り道だとしても領主である私が歓迎してあげなくちゃ。」
「アリス様、それはちょっと違うと思うのですが・・・」
なるほど、領主そういえば領主の名前、アリスだったわ、ここ。なぜ畑にいて農民と同じ格好をしているのかは謎だが。
しばらくすると、少し離れた場所から3人が近づいてきた。
「アリス様ぁ!まぁた、変なことを言ってたんじゃないでしょうね。」
「あまり、領民を困らせないでください・・・」
「おぉ、見ない顔がいるぞ、お前、名は何というんだ?」
今の発言、すべて俺と同い年ぐらいで、上からメイド、執事、兵士といった感じである。たぶんアリスの側近なのだろう。
「あ、いいところに来たわね。彼を最寄りのギルド支部まで案内してきなさい!」
「「「・・・」」」
「あ、全員で行ってきていわよ。とってきてほしい荷物もあるし。ギルドでやってほしいこともあるし。」
なんか、3人を押し付けられた気がするのは気のせいだろうか。
「さぁ、行ってこーい!」
そして、俺はまた冒険者ギルド支部にへと向かって歩き出す。アリスの側近?達とともに。