62話 希望などないから。
「『perfect chaos』」
その言葉が宣言されたとき、世界は混沌に包まれる。
基本的な物質の性質、そのすべてを無視して放たれる混沌のエネルギー体は触れたものすべてを混沌へと還元していく。
その混沌のエネルギー体が自らを突き抜ける。
そして、意識は現実から引き離されるように・・・
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気が付くと、俺は研究室らしき部屋の中にいた。が、体がある感覚がしない。まるで、第三者の視点から見ているようだ。
目の前にはバテンともう一人、男性が立っていた。
「先生、何をしてるんだ?」
「なに、少し世界を平和にしようとしているだけだよ。」
先生と呼ばれた男性の前には三人の人が立っていた。その中に自然もいた。
全員が寝ているように見えるが、たぶん、起動していないだけだ。
「世界管理システムの一部がついに完成したんだ。これで、エネルギー汚染に悩まされることはなくなる。」
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「お前が、お前さえいなければ!」
一瞬にして景色が変わり、バテンと先ほど先生と呼ばれた者が対峙している様子が見えるようになる。
「お前の計画には、犠牲というこの二文字はないのかよ!」
「そのようなことを言っていて解決できるような問題ではない!」
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また、景色が変わる。次はどういうシーンだ?
『つらい、憎い、死にたい、壊れたい、終わらせてしまいたい。』
急にそのような感情が脳内に流れ込んできたような感じがした。
「つらいんだろ、生きていることが、いや、なら、終わらさせてやるよ。ただ、君が失敗した場合は、全てが始まる。それでもいいなら・・・」
キルトだ、キルトが自分に向かって話しかけてきている。
今回は体があるような感じがする。まったく動かないが、シチュエーションと感覚からしてこの視点はカオスのものであると思われる。
脳内に、耐えているのが限界になりそうなほどの負の感情が襲い掛かって来ていた。だから、自分はキルトの手を取った。
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そして、意識は急激に現実へと戻ってゆく・・・
「っ!さっき俺は攻撃されて・・・うぐぅ」
攻撃されていたのは本当だったらしい。脇腹のあたりにひどい傷がある。
そして、状況からみて俺の意識が飛んでいた時間は1秒もなかったらしい。
カオスの次の攻撃が迫ってくる。
だが、意識が飛んで謎の映像を見せられたところで回避できるようにはならない。
「それでも、抵抗はする。どんな時でも最後まで、希望が尽きるまで生きようとあがくのが人、いや、生命体だからな。」
アブノーマル・セルを握り、何よりも強く、絶対的な盾を作ることを願う。
「あがいたところで、何も起きない!生まれない!」
カオスの攻撃範囲全体に大きな盾ができる。
そして、全ての攻撃を防ぎきる。
「全部防ぎ切った・・・そんなことがあり得るわけがないんだけれども。むかつくなぁ・・・」
カオスが若干イラついている。判断力が鈍っているかもしれない。機械だからそんなことないかもしれないけど。
「なるほどね:禁忌と異細胞の力を持つ武器か・・・ほとんど流通していない武器だね。」
後ろを振り向くと自然がたっていた。いや、お前、完全に大破してたじゃん。
「回答:っていってもだが、自分が全力を出せば体の再生ぐらい簡単にできる。コアは守ったからな。第一、自分には均衡エネルギー、あ、カオスとコスモスのことな、に対してかなりの耐性を持っているからな。」
「意味わからん。大破した状態からどうやって?」
「磁力とかで無理やり本体パーツをくっつけた。言っておくが、耐久力は落ちている。それに、この喋り方をしていることからわかると思うが、今の自分にはものすごく負荷がかかっていて機械的に危険な状況だ。」
磁力とかですべてのパーツがくっつくものなのかね。それに、それならその喋り方しなきゃいいのに。
「各種力を開放するとそれと同時に喋り方も変えれるんだ。とにかく、今はあいつを止めなければいけない。が、お前の武器と、今の自分の状態ではカオスに致命傷を与えることは難しい。お前の武器はカオスのエネルギーの一部である攻撃くらいなら全然余裕で受け止められると思うが、本体は無理だ。武器が砕ける。エネルギーの量が違いすぎる。」
「なるほど、じゃあ、どうやって倒せばいい?」
「それを今から念話で伝えるとするから、一度全員回避行動をとるとしよう。」
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「おい、どうする?カオスがどっか飛んで行ったぞ。」
「そうねぇ、一度休憩でもする?」
「ありじゃの。休憩じゃ、休憩。」
「おい、お前ら、もう少し仕事してくれ。」
ジュルア、カレン、百夜、ゼナ、この四名が島の中央に取り残された。客観的事実として、カオス相手に何もできていなかった。いや、していなかっただけなのかもしれないが。
「しごとぉ?そんな面倒くさいこと私たちがするわけ。」
「じゃあ魔王なんてやめちまえ。」
「ま、そうだな、この事件の真犯人を捕まえるくらいはしてもいいかもしれねぇ。」
「キルトのことじゃな。あいつなら、すでに場所はわかっておる。」
「仕事が早いわね。」
「能力使って地下空間を探し回ったら見つかったんじゃ。」
「場所は?」
「このすぐ下じゃ。ほれ、行くぞ。」
地面が抜けた。百夜の能力の鬼姫によって地面が切り刻まれたらしい。
全員が何とかきれいに着地する。地面が崩れたためひどい砂埃が舞っていて、それを被ってしまっているが。(一応、各国の王たちなのだが)
「お、ようやく来たみたいだね。遅かったじゃないか。」
確かに、その地下空間にはキルトがいた。だが、気にするべきなのはそこではない。周囲には多数のモニターや操作パネルが存在しており、部屋は金属製の壁で囲まれている。(百夜がその金属製の天井も関係なく切り刻んだようだが。)
「キルト、ようやく見つけた。目的はなんだ。」
「目的は、分かっていると思うけど、全ての計画を前倒しで進めるため、今回は、それが可能であるから実行したまでだ。先に言っておくが、これは俺の独断ではない。先生の指示でもある。」
「先生って、あの?」
「あぁ、お前らが言うところの三教師のうちの一人だ。」
「なるほどねぇ。」
「で?俺をどうするつもりでここに来た?」
「いや、別に何もあるわけなかろう。ほれ、帰るぞ。」
「なんだ、俺を連れ帰しに来ただけか。はぁ、ちょっと緊張して損したぜ。」
「おい、お前ら、まさか俺たちを置いて帰ろうとなんてしていないだろうな。地上にいた約2500のゴーレムはすべて倒したが、被害総額はかなりのものだぜ。」
「バテンか、よくこの空間を見つけたな。」
「いや、そりゃ天井が砕け散ってれば見つかるってものだ。」
「あ、そっか。とにかく、カオスの処理は任せたよ。」
「おい、お前ら、少し待て、ふつうこういうのって国家の問題なんだから国家が解決すべきだと思うんだが。」
「なら、なおさら俺は関係ない。」
「お前は実行犯だろうが。」
「まぁ、俺を捕まえるのもいいけどさ、早くしないと、あいつら、たぶん死ぬよ。今回、カオスは真の暴走状態にならないように調節はしたつもりだが・・・」
「おい、おまえ、冗談でもよくないぞ、そういうのは、今のは本来の目的とは違う行動をしているという点で暴走しているという状態で、真の暴走状態っていうのは・・・」
「何者かが、プログラムを上書きした。こちら側から更新を阻止するすべがない。」
「プログラムの更新者に思い当たる人はいるか?」
「いや・・・特に、天改が干渉できるとも思えないし、神がこれを行う意味もない。」
「具体的な更新内容は?」
「システムそのものを壊そうとするプログラムだ。」
「なるほど、それならキルトも行った方がいいんじゃないか?」
「いや、細かい更新内容の中に転生者に対して異常な執着を示すようにするようなものがあった。」
「なるほど、仕方ない、協力してやるが、報酬はだせよ。」
「あぁ、十分用意しておいてやる。頼んだぞ、バテン。」
「おい、キルトが島を起動させてまでしてカオスの出力をすでにあげているんだ。そこまでする必要があるのか?アト。」
「私もあなたも転生者を信頼している。なら、転生者の力を調べるついでに、ほかの存在の現在の力を確認するのもありかなって思ったの。」
「なるほど、だからこのプログラムなのか。確かにこれならキルトは手を出せない。ほかの者たちも本来は争いを避けなければいけない身分・・・今頃って感じではあるが、だから、要するに、バテンしか残っていないってわけか。まぁ、龍王女も争いを避けなければいけないとは思うけどな。」
「そ、今回は禁忌について調べるの。バテンには悪いけど、この機会にデータを集めておかないとね。」
「はぁ・・・好きにしろ。ただし、何か起きても俺は責任を取らないからな。」
「大丈夫だって、うまく調節はするから。ね?」




