58話 偽りの龍-①
空が、割れる。
空間が破壊され、この世の法則、秩序がすべて破壊された空間が作り上げられる。
そして、その割れた空から漆黒の龍が現れた。
「龍・・・だと!」
これはバテンが言った言葉だが、まるで想定外であるかのような反応である。今までの落ち着きはどこに行ったのか、バテンでさえ焦っているのである。
この展開、この間の人魔共同前線との戦いとの展開に似ているが、今回は相手のレベルの桁が違う。この龍は存在してはいけない。そう、一瞬で理解した。
漆黒の龍が、大量の魔法陣を展開する。そして、全ての攻撃が同時に、かつタイミングをずらして、かつ不規則に、かつ規則的に打撃ち込まれる。一見矛盾したこの動きも空間が混沌としているがために発動可能なのである。
もちろんこの攻撃をよけることなど不可能である。そのための防御なのだが・・・
「おい、いつまで防御をしておけばいいのじゃ!」
攻撃が止まらず、こちら側の防御を解くタイミングがない。
「こう、防戦一方だと、話にならないわよね・・・」
「チッ!相手に一方的にやられてると思うと腹が立つな!」
魔王二人もご立腹のようである。
「さて、どうするかな、この龍、物理攻撃は効かなそうだな。なんせ、エネルギーの塊なんだから。」
「あー、バテン!解説してくれるのはありがたいんだけどさ、どうやってこいつを攻略すればいいんだよ!」
「もちろん、本体を叩けばいい。」
「で?その本体はどこにいる?」
「ちょっと待っておけよ・・・よし、見つけた。が、これは・・・」
「『perfect chaos』」
どこからか声が聞こえ、それと同時に何かが起こった。そう、何かが起こったのだ。だが、何が起こったかなど、理解することはできない。
人の演算速度をはるかに超える速度での空間処理が終わった後は、結果だけが残る。
防御魔法はすでに消え去っており、ほぼ全員が負傷している。ヒカリに関しては、腕が吹き飛んでいた。まぁ、その腕もすでに自然によって治癒され元に戻っているのだが。
「俺がいなかったら、全員死んでいたことに間違いはなさそうだな。最初の方は防げなかったが。」
このバテンのセリフから考えるに相手の攻撃(と仮定する)発動とほぼ同時のタイミングで『空間支配』による空間断絶を行ったが、発動が少し遅れたためこちら側に被害が出たというところだろう。
「ソウ!一般市民への被害状況を確認して!残りの面々はあの龍の討伐に参加して!」
付和の焦りが混じった声が聞こえてくる。
「さて、どうしたものかな・・・」
「どうしたものかなって、お前の空間操作能力で瞬殺できるだろ。」
「無理だな。」
「理由は?」
「あの龍はカオスというエネルギーの集合体だ。要するに、水を断絶するのと同じで、それが入らない空間は作れるが、それを破壊することはできない。それに、本体は本体で、物理法則を超越しているし、第一として硬すぎるから空間断絶しにくい。壊せるとしたら本体の装甲くらいだが、壊してもあまり意味はない。」
「じゃあ、本体に攻撃する方法は無いということ?」
「無いな、あるとしたらコスモスエネルギーをぶつけていろいろと対消滅させたりするくらいだが・・・コスモスエネルギーが無くて暴走状態に陥っているんだ。コスモスエネルギーなんぞ集めてたら時間が足りない。」
「提案:物理手段での破壊は通常は不可能。また、魔法も対魔法結界等によって効果が大幅軽減されるため、エネルギーの崩壊を促すことを提案。」
「エネルギーの崩壊って、どういうことだ?」
「あ!私昔聞いたことがある!エネルギーはそれを構築する理によって構成されているのだから、その理を壊してしまえば崩壊させることが可能だって!」
「要するにどういうこと?」
「ヒカリが言う通りだ。こういう時はまずは試してみるのが一番いいな。ということで、龍王女、出番だ。」
「・・・いきなり出番が来るのは違くない?」
「そう言わずに、分かっているだろう。あれは龍ではない。最初は俺も騙されたが・・・あれはエネルギーの塊。龍の形をした紛い物だよ。」
「なるほど!全部理解したわけじゃないけど!やってみる!」
そんなことを話している間に漆黒の龍の攻撃が迫る。いや、さっきから話している最中もずっとバテンが防いでいたのだが、だんだんと龍の方の出力が上がり始めてきて守り切れなくなってきているようである。
そんな中、未来は一歩前に出て龍へと話しかける。
「龍王女の名をもって命ずる。四龍よ、降臨せよ。紛い物へ裁きを下せ・・・」
突然三体の龍が出てきた。・・・三!?四龍って言っておきながら!?
「龍世界・新誕」
未来は一言喋っただけだった。しかし、それだけで漆黒の龍覇崩れていき、最終的には跡形もなくなってしまった。
「これが、龍王女の力・・・国家の防衛体制に見直しが必要みたいですね・・・」
「魔王間協定を組みなおしてもいいかもな。」
「恐ろしいのう、龍以外の生命の存在を許さない空間を作り上げたのかのう。」
え、何それ、こわ。俺たちなんか一瞬で死ぬじゃん。それ。
「まぁ、カオスエネルギーの塊をつぶすくらいなら三龍で足りるのか。龍王女、四龍目はどこに行った?」
「知らない。召喚に応じなかった。」
「なるほど、強制召喚ではないのか。」
バテンによると、今行ったのは三体の龍の中でも特に強大な力を持つ龍を召喚し、その龍の力と未来の力を合わせて特殊空間を作り、龍以外を消したらしい。ちなみに、龍の定義は龍王女である未来に委ねられるため、さっきの龍は龍として認められなかったということなのだろう。
とにかく、漆黒の龍は一瞬で倒せたため、問題となってくるのは本体である。
本体は龍の上に乗っていたようで、龍が消滅していくと同時に、落ちてきた。(厳密には浮遊魔法を使っているため、下りてきたというのが正しい表現となる。)
それは少女の姿をしていた。やせ細った少女の姿である。
「カオス、正式名称《世界均衡維持古代装置・原初式混沌》、あの状態はなんだ?」
「バテン?状態ってどういうことだ?」
「状態って・・・何と言ったらいいのか。」
「回答:カオスの本体は自分と同じくコアであり、機体の内部に収容されています。しかし、あれは機体ではなく、人です。状況を確認・・・結果:コア及び、本体はまだ均衡の島の内部にあり、現在目の前にあるのは本体と全く同じ性能をした存在です。依代となっているのは、一般人であると考えられ、その一般人とカオスとの何かしらが一致したために、その一般人を依代としたと思われます。」
「おぉ、長い解説ありがとう。」
「返答:それほどでも。」
「要するに、一般人が被害者ってわけだよね?」
「正解だ、ヒカリ。要するに殺して終わらせるわけにはいかない。まぁ、あくまでも道徳的に考えればの話ではあるが。」
「どういう意味だ?」
「国が、一個人と国家存亡のの危機でどっちを優先すると思うか?という話だ。」
「要するに、あの一般人は殺されると?」
「もちろんだ。だが、問題はあの一般人は・・・あ、さっきっから一般人と呼称しているが、実際には能力者な、あれ、たぶんB級能力者である。という点だ。」
「よくわかるね。そんなこと。」
「龍王女、お前の国にも能力者リストくらいあるだろ。あれを暗記してるだけだ。」
「なんで国家関係者じゃないバテンが暗記してるの?」
「・・・いろいろあるんだよ。」
「推測:能力者を依代にしたということは、能力を使われる可能性が高いです・・・前述の内容を撤回、能力はすでに使われていますね?」
「その通りだ。あいつの能力は、俺が苦手なタイプだよ。利便状B級となっているが。あれはA級とかS級といっても問題ないな。全員、戦闘準備だ。」
そういわれて、再度あたりを注目してみると、周りには龍が新たに出現していた。
その数、約50体以上。しかも、現在進行形で増えている。
「全部・・・紛い物!」
「龍王女、確認だ、全てつぶすことは可能か?」
「可能、だけど条件がある。条件は、同時に殺せるのは範囲の都合上5体まで、それと、技の連続使用は厳しいから、一分に一度しか発動できない。」
「なるほどね、一分に五体なら、出現速度と同等か、」
「要するに、±0ってわけかよ。」
「仕方がない、45体は、こちらで倒す。が、全員がさっきの漆黒の龍と同じような性質をしている。まずいな・・・」




