Past Stories-0-1 For whom
「嘘だよ・・・こんなの、間違ってるよ。」
1人の少女が泣いていた。
「ごめんね。何も・・・してあげられなかった。守れなかった。『誰も、殺させない』って」
目の前に広がるのは数分前まで人であったものの山。守れなかった者たちの残骸。
「行くよ、泣いていても、何も解決しないから。」
この言葉だって、心の底から出た言葉ではない。きっと、死ぬときは一緒に死にたかっただろうから。人でないものになってしまうときには、一緒にそれになってしまいたかったから。
「これ以上は何をやっても無駄だろうな・・・ほら、逃げるぞ。」
逃げたいはずがない。本当は、最後まで寄り添ってあげていたい。
「いやだ・・・私は、ここに残るよ。」
そんなことが許されないことなど、わかっていた。
「酷なことを言うけどね。あなた一人が犠牲になったところで、何も変わらないのよ。」
それが、事実であったとしても———
「・・・っ!わかってるよ!そんなこと!でも!」
悲痛な叫びだった。だが彼らを前に、そんなわがままは許されない。世界のためにも、許されてはいけなかった。
「これは最後の命令・・・この子を・・・ここから、外に出してあげて。最悪、この子の記憶から、私を消したっていい・・・みんな。頼んだ・・・よ———」
それが、トニユの最後の言葉だった。
「だ、そうだ。逃げるぞ。」
全員が、その場から立ち去ろうとする。
一人の少女は皆に引っ張られながらではあったが。
「嫌だ!私は!最後までトニユと一緒に———!」
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その想いは、果たしてトニユに伝わっただろうか。
幾年の時が過ぎ、戦いが消えた。厳密には、そう見えるように世界が上書きされたのだが。
『理想郷』
それは、実現できたら、本当に素晴らしいものなのだろう。
だが、人それぞれ、目指す理想は違う。
例えば・・・ある神は感情無き世界こそが理想郷だと語った。
ある人は誰の苦しまない世界が理想郷だと語る。
またある人は誰もが笑って幸せに生きれる世界が理想郷だと語る。
トニユが求めた理想郷はいったい何だったのか。今となってはその答えを教えてくれる人はもういない。
奇跡は、願うものである。と思う。同時に、起こすものでもある。とも思う。
だって、奇跡を起こそうとしなければ、どれだけ願っても奇跡は起きないから。
今まで、何も行動を起こさずにただ奇跡を願い、その奇跡が起きず、神を恨んだりしている人を、何度も見たことがある。
奇跡だって、無条件に起こるわけじゃない。条件がそろったうえで、そのうえで確率で起こりうるものなのだ。
簡単な例を挙げると、宝くじで一等を当てる。という奇跡を起こすには宝くじを買う、ということをしなければならない。
だからこそ、今、この地で、奇跡を起こすための準備をしている。
「手向けの花、持ってきましたよ。しばらく顔を出せていなくて申し訳ありませんでした。」
この静寂の中で、自分の声だけが、反響する。
「トニユ様、最近の世界情勢の話でもしましょうか。」
分かっている。もう、トニユが言語を理解することなどできないことなんて、分かっている。
「いつも通りの転生者だと思ったんですけどね、今回はイレギュラーが多いんですよ。例えば・・・」
1人、今自分がいる部屋自体に語り掛けるかのように話し続ける。
「そう言えば、その転生者、未来予知の能力者によると、今後、あなたに接触するみたいですよ。」
きっと、その未来はまだまだ先のことなのだろう。それでも、それを利用して奇跡を起こすための努力くらいはする。
「転生者が来るときにしっかりとお出迎えできるように準備しておきますね。」
その時だった。彼がいた空間に何か異変が起きたように感じられたのは。
「まだ、目を覚ましては、いけませんよ。トニユ様・・・」
その空間に、いつの間にか、大量の魔法陣が出現している。魔法陣の方向はすべて、自分に向けられている。
「今、あなたが目を覚ませば、彼女の努力が無駄になってしまう。」
それだけは、絶対に避けなければいけないから。
魔法陣から、無数の魔法が放たれる。
「零よ。すべてを飲み込め。」
だが、その魔法はすべて、零へと還元される。
「まだ、眠っていてください。『フォーエバー・レクイエム』」
空間がまた、静かな状態に戻る。
「今のあなたには希望などないのかもしれませんが。少なくとも自分と仲間たちは希望を持っている。それに応えないあなたではないでしょう。また、来ます。まだ、静かに眠っていてくださいね。」
まだ、その時は来ていないのかもしれない。しかし、あと少しである、確実にゴールには近づいている。
それが幸せなものになるか、最悪なものになるかは、まだだれにもわからない。
ただ、まだエンドロールが流れる時間くらいは、あるだろう。
禁忌を犯した者が数人ならば、救われる時間くらいはあるだろう。
本来の人と異なる道へ進んでしまったものが、滅ぼされるくらいの時間はあるだろう。
誰が為、何が為にトニユは目を覚ますのか、それは誰にも分らないが、一つ確かなことは。
トニユは、全てを守ろうとしたということだけだ。




