30話 壮大な計画
「なるほど、前に付和に一発やった方の人格というわけか。」
「正解。ね、いいでしょ。少しくらい話しても。」
「別にいいけど、こちらの質問には答えてもらおうか。」
「いいよー、どんどん質問してね。答えられる範囲で答えるから。」
「わかっているとは思うが、質問はなぜあの時付和を攻撃したのかだ。」
「あれはね、理由が3つあるわね。攻撃した理由は最初の1つ目だけだけれども。で、1つ目は私がかなり前から付和たちを殺したかったから。理由は簡単、兄を見殺しにしたから。」
「その、見殺しにしたっていうのはどういうこと?」
「まぁ、厳密にいえば今もまだ生きているのかもしれないけれども。私の兄は・・・あ、兄って言っても何人かいるけれども。その兄は危険な能力を持っていてね。自己制御は可能だったんだけど、もし発動すると危険極まりなかった。だから、存在しなかったことにされた。具体的には国民の記憶を改変して、それ以外にもいろいろやって、そのあと兄を川に流したの。あの川は魔物も多いから生きている可能性は天文学的確率になるでしょうね。」
「国民の記憶を改変・・・?」
「確かに、ギルドの記録にはそんな出来事は残っていない。が、記録の数か所に不可解な点があったことからも、確かに国が何かしらをしたのだろうね。ただ、それを可能にできるのは・・・」
「少なくとも付和とかには不可能でしょうね。彼女はあくまでも普通の人間だからね。どれだけ努力しても普通は普通の人間の延長線上にいる限りはそんなことはできない。もちろん、魔族もそんなことはできない。」
「じゃあ、誰ができると?」
「さあね?知らないわよ、そんなこと。国家機密の兵器でも使ったんじゃない?」
「あったとしたら、それはそれでものすごく怖いんですけど・・・」
「2つ目は私じゃない方の人格が壊れる前に入れ替わってあげたこと。私の能力は『未来予知』なんだけど、それを通じて兄についての出来事を知ってしまったみたいでね。主人格が私を作った理由はさっきの言った事件を記憶から消すため。だから、主人格が知らないと思い込んでいる記憶を無理やり思い出されて混乱してしまうのを避けるためだよ。」
「なるほど・・・?」
「簡単に言えば主人格の嫌な思い出はすべて私に押し付けられるっていうことよ。」
「それは大変そう・・・」
「で、最後の3つ目はなんだ?」
「3つ目は・・・私が存在することをあなたたちに知らせるため。」
「何が目的だ。」
「ふふっ。キルトでさえわからないような壮大な計画の一部だと思ってくれればいいかな?まあでも、敵対関係になるつもりはないから安心してて。少なくとも、今はまだ。」
「・・・」
「そんなに怖い顔しないでほしいな、お兄ちゃんたちの邪魔にさえならなければ、あなたたちと敵対することもないんだからさ。あ、それと最後に警告、地中には注意するように。」
「地中に注意、か。それとお兄ちゃんってさっき言ってた兄とは違うね、いったい誰・・・」
「あ、大変!そろそろ主人格のアトちゃんに身体を返してあげないと!じゃ、また会う日まで。」
すると、アトは糸の切れた操り人形のように受け身も取らずに倒れる。
「あぶな!」
アトはそのあと眠っていたが、しばらくするとすぐに目を覚ました。
「ん、ふぁ、あれ?なんで私こんなところで寝てたんだろ?あれ?なんで、快成に抱えられてるの?」
「君が自分から来たんじゃん。」
「あれ?そうだったっけ?まぁいいや。」
「アトーどこ行ったのー?」
「あ、ナノ姉さんの声だ。じゃあ、私あっち行ってくるね。」
「お前、いつもに増して、砕けた口調で話すんだな。」
「いいじゃん。今はほかに人もいないんだし。」
「そういうものか。」
「そういうものなの~!」
「あ、アトようやく見つけたよ。どこ行ってたの?」
「寝てた。」
「寝てたって、もう、二人に迷惑かけてないでしょうね。」
「は?ナノ姉ちゃんが一番迷惑かけてたじゃん。」
「うぐ・・・」
そういって2人はこの場から離れていった。
「そういえば、さっき言ってた地中に注意っていったいどういう意味なんだ?」
「ん?あぁ、そのことか。たぶんだが、鬼国の王の能力に注意しろ。ということだろう。ギルドのデータに記載されている情報ならば、その王は血を自在に操る能力を所持しているとのことだ。それに、いま地中を探索魔法で調べたが、まずいことになってるしな。」
「探索魔法・・・あ、無属性のやつか。どれどれ・・・ん?なんだこれ、確かに地中に何かが張り巡らされてるけど。それに何かが砕けた痕跡・・・」
「砕けているのは国の防御結界、張り巡らされているのは鬼の王の血だ。これが意味することは、わかるな。」
「・・・っ!まさか!」
「もう戦争は始まっている。ということさ。さて、今度こそ政治的なことにギルドは介入したくない。君はどうする?ギルドとして動くのならば、介入しないのも全然ありだ。君は戸籍にも登録されていないから、兵士として呼ばれることもない。ただ、放置しておけば人的被害は計り知れないよね。なにせ基本的には鬼の主食は人間なのだから。」
「まてよ、俺の住んでいるアリス領って確か、国境付近じゃ・・・」
「そうだね、北側を全体的に覆われている形だね。まぁ、アリス領には侵攻してこないだろうけど。」
「え?なんで?]
「だってあそこ、竜だとか死神だとか、いろいろ噂話があって危険地帯って言われてるんだよ。あ、君の家のすぐ後ろの森のことね。まぁ、アリス領を守護しているといわれているからいいんだけどさ。」
「なるほど。だけど、その近くにある俺がよくいくギルド支部がある荒廃の聖地はそういうのいないでしょ。」
「いないね。しかもあそこ遺跡がある以外何もないから、すぐに進行されるね。」
「遺跡に攻撃できる機能とかないの?」
「あるにはあるけど、使える人が存在しない。」
「あー、ダメなやつだ。」
「まぁ、今はこの解放祭を楽しもう。話はその後だ。」
「・・・」
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「それでーどうだったの?解放祭は、楽しかった?」
「楽しかったかどうかでいえば、まぁ、楽しかった方ですけど。」
解放祭の次の日、俺は自分の家に戻っていた。しかし、調理するものもないので、アリスに振舞ってもらっていた。
「いいな~私も行きたかったのにぃ~」
「アリス様、忙しかったですもんね。」
「ほんとよ、私だってたまにはしっかりと領主としての仕事をやるんですから。おかげでナノちゃん・・・間違えた。ナノ様から招待状もらってたのに行けなかったじゃない。」
「ちなみにどんな仕事してたんですか。」
「別に、大したことじゃないよ。森の魔物が領内の付近をうろついてたから原因を調べてただけ。」
「ちなみに原因は。」
「鬼国の軍が山の向こう側にいることかしら。それで逃げてきた魔物がうろちょろしていたらしいわね。」
「「「・・・」」」
「え、そんなにもう危険な状態なんですか?」
「いや、どちらかというと安心な状態ね。」
曰く危険地帯に自ら突っ込んでいく軍隊がいるおかげで対応するべき軍の人数が減るらしい。
しかも、荒廃の聖地の方には軍がいないらしく、なんというか、敵はちょっとばかり頭が悪いらしい。
「ちょっとじゃなくて、かなりよ。」
「なんで考えてることわかるんだよ。」
思考を読まれるとちょっと気分が悪くなったりして本来は気づくものらしいのだが。
「そうだ、これだけは伝えておくけど、もし戦争が始まったらあなたは荒廃の聖地の方の援護に行きなさい。あ、行くならね。うちの領地は守護してるやつがいるから安全だから。」
「あ、そうですか。わかりました。」
「わかったならよし、さて、私は仕事に戻るけど、あなたはどうするの?」
「ギルドの依頼受けてちょっと稼いでこようかなと思っています。」
「そう。じゃ、頑張ってね。」
「おう、それじゃ、また食べに来るわ。」
「そう、じゃあ食材用意しとかないとね。はぁ、ここからが忙しいのよね・・・」
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「・・・え、何?高額依頼0件?」
「えぇ、そうなんですよ。最近は高額な依頼・・・要するに強力な魔物の討伐などに行った人が行方不明になる現象が多発していて。今は表立っては依頼を出していないんですよ。」
受付嬢に言われた残酷な事実。これではしばらくは稼げそうにない。
「行方不明って、一人も見つかっていないんですか?」
「えぇ、そうです、一人も見つかっていません。」
「死体とか遺品とかも?」
「まったく・・・」
うぉ、怖。
「ちなみに最近ってどのくらいの期間のことを指してますか?」
「大体ここ1週間ですかね。」
「本当に最近なのか・・・仕方ない、簡単な依頼でも受けるか。」
「いや、君には受けてもらいたい依頼がある。」
唐突に他人の声である。まぁ、キルトなんだけれども。
「なんでいるんだよ。」
「なんでだと思う?」
「俺に変なこと押し付けに来ただろ。」
「ばれたか。」
「ばれるに決まってんだろ、そんなこと。ほかに使える転生者はいないのかよ。」
「いないね。」
「いないのかよ・・・」
「転生者自体はいるんだけど、ギルド所属っていうのが、なかなかいなくてね。あと、今回は位置的に君だ。」
「位置ってことは、やっぱり戦争のこと・・・」
「逆にそうじゃなかったら何?」
「・・・」
「まぁまぁ、落ち着いて聞いてくれよ。ギルドはこの戦争には参加しない。だから、君にお願いするのはギルドの仕事じゃない。」
「なんだ。ならいいか、戦場に行くこともなさそうだし。」
「そうそう、君は戦場に行くこともない。ただ、鬼国の王の首を刎ねてくれるだけでいいんだ。」
「なるほど、確かにそれなら、無駄に体力を消耗しながら戦う必要も無く・・・は?」
「あ、ちなみにこれは王家と俺からのギルドを介さない依頼だから、ギルド的には大丈夫!」
「どこが大丈夫なんだよ。」
「ちなみに君が知ってるほかのギルドの連中は戦争に参加する気満々だから安心したまえ。」
「最悪だ。」
「ちなみに戦争開始までだがアトのたまに外れる未来予知が的中していればだが、あと1日らしい。」
『アト』
個体名:不明
ギルドに所属していないためステータス不明。
能力:『未来予知』
未来予知をする能力、詳細不明。
ナノの妹であり、王家としてはかなり低い年齢をしている。(6歳)その割には教育が行き届いており、時折大人より冷静であるときもある。
以下世界機密事項
各種検査の結果、王家の者であるとの診断結果が出たが、他の王家の者とは限りなく別の存在である。また、解離性同一性障害のようなものを患っている可能性がある。戦闘能力及び頭脳等においては世界システム上のトップに君臨している。
普段は主人格である通称『アト』を利用して振舞っているが、本来は残酷かつ冷徹な性格をしていると考えられる。そのことから、
国の極秘事項等のみならず世界の極秘事項等も誰が教えたわけでもないのに知っていたりする。
現在はシステムの障害にはなっていないた監視程度にとどめている。
個体名は特定不可能。
想定される戦闘能力等h----#&%$'#?>*;?<>"!$%#
ーーーーーシステムエラー発生、再度読み込みを行います。ーーーーー
ーーーーーシステムエラー発生、再度読み込みを行います。ーーーーー
ーーーーーシステムエラー発生、再度読み込みを行います。ーーーーー
ーーーーーメッセージを受信:アトーーーーー
人のプライベートを勝手に調べ上げるのは、ちょっとばかり犯罪的だと思うけどね。
これ以上私のことを調べるつもりなら、システムごと破壊してもいいんだけど。どうする?
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「チッ、世界管理システムに干渉してきたか・・・」
「こんな粗末なシステムで私からの干渉を防げるとでも思ったのが間違いよね。」
自分以外誰もいないはずのないその空間で、後ろから声を掛けられる。
「いつ、どうやってこの空間に入ってきた?」
「ふふ。秘密にしとくね。じゃ、警告もしたことだし、私はもう帰るね。」
「何のつもりだ。」
「お兄ちゃんたちの計画を邪魔しなければ何もしないから、安心しててね。」
「おい、人の話を聞け・・・」
その場からアトが消え去る。
「転移・・・ではないな。もっと高度な、なにか、か。」
画面にはまだ、システムエラーのメッセージが表示されている・・・




