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聖女候補の転生令嬢はいきなり子持ちの未亡人になりましたがとても幸せです  作者: 富士山のぼり


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再び王立学園へ

 殿下とお父様が蓄音石を持ち帰ってから蓄音石事業は目覚ましい速度で発展した。

殿下による事業の王国官吏チームが発足して様々な計画が練られたのだ。

卸値の決定・道路の整備・鉱山の人員の配備。保守警備体制等々……。

もちろんダルセンからの仕入れ値も私達と協議の末に既に決定している。

民主共和国家と比べてやると決めたら何でも桁違いに早い。


 一度国に独占販売を任せたらその件に関して私がやる事など正直、ほぼ無い。

ダルセンで各種事業を進めるにあたって領主としての確認とサインだけだ。

ある意味ダルセン領の私達を置き去りに全てが進んでいるという感じもする。


 尤も、だからと言って国に事業が完全に乗っ取られたという事ではない。

ハイエルフに迷惑をかけたくない私は核心技術に関して明かす事を拒んだのだ。

この事業の責任者となった殿下は私に配慮してくれた。感謝しかない。



(一つ貸しだよ、という言葉には若干引いたけど)



 殿下は多分私に気を遣わせない様に冗談でそう言ってくれたんだと思う。

でも冗談のセンスが欠けている気がする。

そして、少し憎らしい。 


 とにかくそういう事で蓄音石技術はブラックボックスとなった。

その結果が辺境ダルセンの手厚い警備という訳だけど。


 技術は独占。定期的収入。

ここ半年も経たず我がダルセン男爵領の収入は恐ろしい速度で右肩上がりとなった。



(まぁでも急成長の会社ってつぶれるのも早いというから油断はできないわね)



 喜ばしい筈なのに身も蓋も無い事を私は考えた。

結論から云えば、私の当初の狙い通り蓄音石は富裕層へ爆発的にヒットした。

全然安価ではないのに数カ月後には名だたる貴族が我先にと購入を始めたらしい。

今は貴族だけでなく裕福な商家にも浸透し始めているという。


 殿下とお父様の宣伝活動がやはり効いていたと思う。

少なくとも今では蓄音石事業は軌道に乗って一安心という所だ。


 そして現在、私は王都に居た。

蓄音石事業が始まってから王都へ頻繁に行来していたが今回は全く別の要件である。

アーサーから王立学園に呼ばれたからだった。

久しぶりに学園の門をくぐった私は何とも言えない感慨に浸る。



(あれから大分過ぎた気がするけど……まだギリギリ1年経ってないのよね……)



 変な所は現代日本と共通しているこの世界だが全く違う事の一つは四季の無さだ。

1年通じてほぼ春。極端に寒い季節が存在しない。

季節感が無いので時間の経過も感じにくい。



「リーチェ!」


「アーサー、今日はありがとう」


「学園にようこそ。今日は宜しく頼むよ」


「こちらこそ。そして……」



 私は自分の視線を動かすとアーサーも私の左下に視線を動かした。



「初めまして、アーサー様。ユリアと申します」


「君がユリアか。私はアーサー・フォン・マイアーだ。宜しくね」


「こちらこそ、宜しくお願い致します」



 二人共優しい表情で互いに挨拶を交わす。

私は今回の王都行きにユリアを同行させていた。

仕事抜きで来る時にユリアに一度王都を見せたいという気持ちがあったからだ。 

私の自慢の義娘はアーサーにも気に入られた様だ。

当然である。


 今回、私が久しぶりに学園へ来た理由はアーサーが私のお願いを果たしてくれたからだった。

叙爵の時に王都に来た私は帰りに実家へ帰った時にたまたま来ていたアーサーへお願いした。

『ダルセン領の為に人材を募集しているので有為な人材が居たら紹介して』と。



「……それにしても、学園祭に私を招いてくれるとは思わなかったわ」


「生徒会長が表立ってダルセンへの就職を斡旋する訳にはいかないからね。

申し訳ないが、会長権限で君を招待する事で精一杯だった」


「それで十分よ。感謝するわ」



 学園祭には卒業後に名を成したOB・OGが招かれて講演を行う事がある。

蓄音石は国で販売している謎の娯楽商品ではあるが生産地がダルセンである事は世間に隠しようもない。

前もってパスカルに聞いていたアーサーはそれを理由に私を呼んでくれたのだった。


 前年度の卒業パーティで嫌な意味で有名になった人物が帰って来た。

それもいつの間にかダルセンの領主となって。

そして社交界で話題の中心になっている蓄音石事業の中心人物だ。

そう云う意味では非常に話題性のある人物が王立学園に帰ってきた訳であった。

私の事だけど。



「それで、講演でどんな事を話すんだい? 

蓄音石事業とダルセン領の今後の展望についてかな」


「いいえ、特にこれと云って何も考えていないわよ」


「えっ?」


「王都では最近『飛ぶ鳥を落とす勢いのダルセン』なんて言われているみたいだけどね。

何を言った所で偶々時流に乗りおおせて調子に乗っている小娘だと思われるのがオチよ」


「じゃあ、一体何を?」


「大講堂には音楽祭で使う為のピアノがあったでしょう」


「……ああ、そうか」



 直ぐにアーサーは私の云う所を理解した。



「成程な。そういう事か。道理でパスカルの姿が見えない訳だ」


「パスカルから聞いてなかったの?」


「ああ。私が忙しくて手が回らない所をフォローしてくれているんだろう。

大講堂のピアノの準備など些事とはいえ、一言言っておいてくれればいいものを」



 パスカルも学園生徒会の一員であるから学園祭準備に取り掛かっているのはおかしくない。

しかし良かれと思って何でも先回りして手配するのはいいけど説明が抜けているのが侯爵家の男達の特徴である。

報連相の重要性を改めて伝えておこう。



「とにかく、私が何か話すよりも音楽に語ってもらうわ。

これからのダルセン領が何を中心に回っていくかを如実に示してくれるでしょう」


「うん。今回の機会が君の名誉を回復する事に少しでも繋がるといいんだけど」


 私は立ち止まってアーサーの学生服の裾を掴んだ。

戸惑うアーサーの顔を見て心から感謝を伝える。



「ありがとう、アーサー。貴方は本当に昔から優しい子だわ」


「……子ども扱いしないでくれ。君は身内みたいなものなんだから、当然だろ」



 心から感謝を伝えた私にアーサーが少し固まった。

ぶっきらぼうに言っているが耳が赤くなっているのを多分本人は知らない。

昔からこうなのだ。



(すぐに悪ぶった態度をとるんだから、ホント可愛いわね)



 私は姉の事を気遣ってくれるもう一人の弟に心から感謝した。



「じゃあ公私混同してくれたわけね、生徒会長さんは」


「そういう事だ。私の顔をつぶさない様にしてほしいね」


「頑張るわ。といっても、私は演奏するだけだけど」


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