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強制リフレッシュ

「なあ、領主様。聞きたい事があるんだけど」


「リーチェでいいわよ、カルラ。何?」



 朝食の席でカルラにそう言われた私は食事の手を止めて顔を向ける。

カルラは屋敷に到着したその日のうちにピアノを屋敷の一室に設置してくれた。

二人の大男の御者さんも手伝って。


 そして彼女はこの地での居場所が出来るまで屋敷に逗留させている。

御者さん達も同様で帰らずこの地にしばらく居るらしい。

この二人の正体を聞いた時は驚いた。



「貴族が平民と一緒に食事をするなんて」などという気持ちは全くない。

今の私の中身は貴族と平民の感覚を両方持っているからだ。

3人の客人と共に食事をするのに抵抗は無いし、多い方が楽しい。



「んじゃ、リーチェ。このダルセン領って昔鉱山で栄えてたんだよな?」


「そうね。主人の前の代くらいまでだけどね」


「今は鉱山ってどんな感じなんだ?」


「どうって……希少金属は掘り尽くしてそのまま廃坑になっているらしいけど」



 状況は知っているものの、領地の中では一番端なのでまだ行った事が無い。

引き継ぎの時に訪問したのはダルセンの中では重要な拠点や村だけだ。

鉱山の跡地は現在賑わいを無くして寒村状態になってしまっていると聞く。

情けない話だけれどこの領地では珍しくない。



「あたし、一度見てみたいんだよ」


「えっ?」


「ダルセンに腰を据えるからにはこの目でちゃんと確認しておきたいんだ。

枯れたって云っても本当かどうか怪しいもんだ。

あたしら北の出だからこの土地に来た一族が居るとも思えないんだよな」


「どういう事?」


「ドワーフの一族の調査眼を使ってみたら違う結果が出るかもしれないって事」


「なるほど……」



 資源はいずれ枯れるものだけど、既に枯れたとまだ枯れてないとでは大きく違う。

取りあえずの当座しのぎが出来ればその間に将来への布石を打つ時間も得られる。

お父様やパスカルに頼めば色々援助を見込めるけどずっと実家のお金を当てにする訳にもいかない。

自領の事は自領で賄わないと。

少し別の事も併せて考えた上で結論を出す。



「……じゃあ、視察に行きましょうか。私も領主としてこの目で確認したいわ」


「では、我々もお供させて戴きます」



髭を生やした年配の御者の一人、ロッシュさんが口を開く。



「王都からここに来た時の事を考えるとその方がいいでしょうな」



もう一人の御者、ジーベルさんも同意した。



「とてもありがたいですけど、いいのですか?」


「それは勿論。タダ飯を戴くのも心苦しくなってきましたしね」


「そうですよ。こちらの方がお世話になっているんですから」


「では、お言葉に甘えてお願い致します。」



 ロッシュさんは先代の王国騎士団長でジーベルさんは冒険者ギルド王国本部の前ギルド長だ。

屋敷に着いた後、夕食の席でようやく二人の正体を知った。

引退して悠々自適生活を送っていた二人にパスカルが声をかけたらしい。

絶対お父様のコネもあったと思う。


 茶飲み友達の二人は共に奥様に先立たれて独り身らしい。

二人曰く王都でぼーっとして刺激も少ない毎日なので二つ返事で引き受けたそうだ。

ダルセン男爵領には旅行気分の遠出という所だろうか。

パスカルには「気に入ったらそのまま住んだらどうです?」と云われたらしい。



(パスカルの奴、いくら侯爵家がお金を払って依頼したとしてもこんな方達が私の御者なんて失礼すぎるでしょう!)



 ひたすら恐縮する私に二人は笑っていたけどパスカルにはまた侯爵領に戻った時にお灸を据えなければならない。

私の為に色々手配してくれて感謝しているんだけど。


 そんなこんなで鉱山跡地に行く行程は決まった。

そして私はもう一つの思い付きをその時に実行するつもりだった。

ユリアの強制リフレッシュである。







 屋敷にピアノがある今、ユリアが教会学校から戻って来る時間は前日までとは真逆になっている。

ピアノは逃げないのに寄り道もせず毎日速足で帰って来る。

屋敷の一室に運び込まれたピアノを見た時のユリアの目はハッキリと覚えている。

完全に欲しいおもちゃが与えられた子供のソレだった。



「お義母様、ただいま帰りました!」


「おかえり、ユリア。ちょっと話があるの」


「はい」



 私はピアノ部屋に行きたくてうずうずしているユリアを引き留めた。

レーナがすかさず私とユリアのお茶の用意をする。



「お義母様、お話って何でしょう?」


「うん、えーと……ユリア、貴方この領都から遠出した事はあるかしら?」


「いえ。イザベラ母様の出身の村に行った事があるくらいです」


「そう。じゃあちょっと私と小旅行に行かない?」 


「本当ですか! 行きます!」



 ユリアは二つ返事で承諾した。

わかっていたけどピアノより優先されている所にホッとする。



「まあ、旅行と云ってもダルセンの中だけどね。

領主の仕事の関係もあるんだけど、折角だからあなたと行きたいと思って」


「嬉しいです。何処へ行くのですか?」


「あっちよ。あの山の麓まで」



 私は窓の外を指さした。ユリアが目を丸くする。



「結構遠そうですね」


「私もそう思ったのだけれど二日もあれば余裕で往復できる距離らしいわよ。

山の綺麗な景色を見て美味しいお弁当でも食べましょう」


「はい!」  

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