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第1話 俺の愛したメス猫が死んだ

ここは、田舎の中学校。野良猫のヴィトーは、周りと比べて、体格が大きく、他の猫にも負ける事はなかった。勝ち続けると、次第に子分が増え、縄張りも出来た。気づいたら、中学校を含め、周辺の住宅まで縄張りが広がっていた。


最近は縄張りを回るのが、自分の日課になってきた。そんなある日、縄張りである中学校の中を歩いていたら、用務員と呼ばれる人間と知り合った。

俺は人間が嫌いだ。「俺らを追いかけます奴」「俺らの身体を触ろうとしてくる奴」「めしを上から目線で与えようとする奴」人間はクズばかりだが、こいつは、何故か信用出来た。俺の中では、人間で心を許せるやつが二人居る。その内の一人が、この用務員であり、俺にヴィトーと名付けたのも、この男だ。名前の由来は分からんが、悪くないと思った。


ある日、用務員は、紙の箱で俺の住処を作ってくれた。建物の軒下で雨は当たらなかったが、居心地は悪く、一晩だけしか使わなかった。ただ、そんな居心地の悪い巣に、移り住んだメス猫が居た。俺はそいつを愛し、子供を作りたいと思った。

用務員は、俺の愛したメス猫をカルメラと名付けた。カルメラは、以前、人間に飼われていた事があり、ミーと名付けられたらしいだが、カルメラの方が良いと言ってくれた。あの巣は、カルメラが居るだけで居心地のいい場所になった。カルメラの腹には、俺の子が居た。待ち遠しかった。


雨が強く降り続けたあの日、事件は起きた。


カルメラの様子を見に、巣へ戻ったら、俺の愛しいカルメラの腹が引き裂かれていた。


カルメラが殺されたのだ。


誰がカルメラを殺したんだ?

商店街を縄張りにしているあのクソ猫か?

犬の野郎どもか?


誰かは知らんが、絶対に俺が殺してやる。


待っててくれ、カルメラ・・・


----------


この田舎の町で育ち、妻と出会い、結婚もした。息子が生まれ、孫も生まれた。会社を定年退職後、シルバー人材に登録したら、近所の中学校で用務員の仕事を見つけた。責任のある仕事であり、やりがいもあった。ただ、あの子達を見て、思う事がある。今どきの中学生は、悩みの多そうな顔をしているなと。自分が中学生の時は、もっとアホで、全力で生きてた様な気がする。

そして、しばらく中学校で用務員の仕事をしていたら、ある日、太々しい猫を見つけた。学校を縄張りにしているのか?ただ、校内でウロウロされては困るので、校内の外れにある、使っていない小屋の軒下に段ボールで住処を作った。まぁ、こんな事がばれたら、クビになるのでコッソリとだが。

こいつは、猫にしては体がでかく、堂々とした態度だ。そこで、昔から好きな映画「ゴッドファーザー」のマーロン・ブランドが演じたヴィトー・コルレオーネから、ヴィトーと名付けた。ボス猫のこいつにはピッタリだ。そして、ヴィトーは折角作った住処が気に入らないのか、一晩だけの宿泊だった。作り甲斐のない奴だと思ったが、校内を歩き回らず、住処近辺に居てくれる様になったので、結果的に良かった。

しばらくしたら、猫が住処を利用する様になった。ヴィトーだけでなく、メス猫も一緒だった。繁殖されるのは、勘弁して欲しかったが、乗りかかった船だ。メス猫は、ヴィトー・コルレオーネの妻、カルメラから名付けた。正直言うと、俺は猫が大好きだ。妻は大嫌いだが。


その後、たまに様子を見に行った。仲の良さそうな感じだった。子供ができるのも近いだろう。

その後、カルメラの腹が大きくなっていた。

妊娠したのだ。


良かったと思っていたんだが・・・あの雨が強く降った日、猫達の様子を見に行ったら、住処には、血だらけのカルメラと寄り添っているヴィトーが居た。

自分がカルメラを見つけた時には、すでに事切れていた。せめて、埋葬してやろうと思い、カルメラをバスタオルで包んだ時、ヴィトーは「ニャー」と一言だけ鳴き、後は自分がカルメラを運ぶのを見ているだけだった。

妻にバレない様、家の庭にカルメラを埋め、簡易の墓を作った。子供達とあの世で幸せに暮らしてもらえればと願う。


カルメラは、他の動物に殺されたのだろうか?


今、思えば、この時、警察に連絡しておけば、もう少し、事態は好転していたかも知れない。

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