非合法の魔女
???「お前、おととい酒場にいたガキだろ」
「ひっ!!!」
なんて綺麗な白い肌、キリっとした深い蒼緑色の鋭い目。今にも唇が触れそうな距離にまでお顔が近づき、顔が沸騰するほど火照った。
眼を見られた瞬間の出来事だった。ということは間違いない。例の人だ。
まさか回り道をするつもりが、ゴールにそのまま直結するなんて。
「……」
「…?」
「クソ…(王族の人間と出会う機会がない故にびっくりして反射的に連れ込んでしまったが、冷静になって考えたらこの子が王の実の娘だったとして、拉致監禁はまずい。きっと死刑じゃすまないぞ)
まずはその、いきなり連れ込んですまない…いや、大変失礼した。」
なんなのこの人…
「ひとつ、確認させて欲しい。貴女のその蒼い目は、元王妃様が与えたものだろう?」
「だとしたらなんですか」
「極まれに、片方ずつ違う属性が宿る現象は自然に起きないわけではない。だがそれは天文学的な確率になる。そうでないのであれば、
キミは、この国で唯一水の属性を有していたハイドレア王妃の魔法を受けて蒼い眼、及び水の力を宿したはず。そのオッドアイが証拠だ。ちがうかい?」
母上から受けた魔法。その詳細はわからないけど。能力を譲渡されたその時は母上と二人きりだったはず。けど、身の上がバレたところで私の立場的には優位…
「その通りよ。つまり、王家の人間である私に危害が及べばあなたの人生も終わりですよ。こんなことしていいと思ってるんですか?」
「キミがここにいることが上の者にバレたら、それこそ大変なんじゃないかい?」
《 確かに 》
「すまない、普段関わることのない人種がいたもんで、可愛くてつい引き込んでしまったよ。
アタシはロエナ・フリージア。えっと、ローバさんの助手やってまーす。」
な、何言ってるんですかこの人…!!!!!!!
「シオよ。シオン・フォレスタ」
ロエナ (この子には王家の人間恨んでるなんて言えないなぁ)
シオ (この人は知らん顔してるけど、
私は既に王家の人間恨んでる事知ってるんだよなぁ)
目の奥底の本音が見えない、腹の探り合いが始まる。
まだこの人がガイア区へ侵入した盗賊じゃないとは言い切れないわけだから。
気を抜かずに調査を進めよう。
あたりを見回すと、アンティークな棚が壁一面に、謎の液体が入った小瓶に値札がつけられたものがびっしり並んでいる。
これも政府が黙認している合法薬品だというが、それが本当かはわからない。
それに、肝心のローバさん?がいないことに気付いた。
「担当直入に聞くんですけど、あなた、王家の人間を恨んでるって」
「おおう、それは知ってるのかい!マスターのやつがくちばしったのか。
…そうだよ。9年前の魔法規制の弾圧でこっちはいい迷惑してんだ。子供はそんなこと知る由もないか?」
「弾圧って…」
少し黙った後、重苦しい口をゆっくり開く。
「アタシはさ、元々雇われで科学部門の国家研究員やってたんだ。何歳かは知らないが、キミが小さい頃の、規制が入る前」
シオは何も言わず、真っすぐロエナの目を見つめ続けるた。
「最初は順調だった計画が進んでいくうちに、メンバーとあまりにも考え方が合わなくて言い合いになることが増えてストレスを感じてた。
それから、もう一つの魔法部門をやってみたいと思って、そこに移籍してもらえるよう役所に申請したんだ。そしたら数日後、役所に呼ばれて奥の部屋に案内されるとそこにはあの王妃様がいたんだ」
「母上が…」
「そう。王妃様は魔法部門研究の最高責任者だったんだ。つまりリーダーってやつ。あれはびびったぜ。」
「そんでもって『人が少なくて困ってたの~とっても助かるわ~!すぐにでも入って頂戴。あ、ちなみに、あなたは魔法は好き?』って聞かれて『はい』と答えたら速攻で、
『あなたはウソつきね!』って満面の笑顔で言われたよ」
「笑顔…」
「そしたら続いて、
《 どんな事実であっても、秘密を守れると約束できる? 》
って迫られた。私はそれについて『はい』と答えたら、紙にハンコを押して『合格よ』って。
不思議とびっくりはしなかったんだけど。それから毎日魔法の研究に勤しんだわ。
大変だったけど、法に縛られない自由な魔法を許されていた研究の日々は最高だったよ」
「内容は王妃様との"約束"で細かい詳細は言えないんだけどさ、その楽しい研究の日々が2209年に起きた事件を機に規制が入って…
私は私の意志で今この森にいる。めちゃくちゃなルールを押し付けられちゃお手上げだ。やりたいことができないなら居る意味はねぇ」
そう。私の母上はこの5年後に亡くなっている。
まさか知れるとは思わなかった母上の過去。
つい黙りこくって聞き入ってしまい、シオは、もはや今回の目的である盗賊疑惑の調査もすっかり忘れてしまっていた。
「ま、ウチは今幸せだしもうどうでもいいんだけどね~」
「そっか…いいな。私はずっと自由に魔法を使えたらって何度も夢見てたから、羨ましいよ」
「へぇ~」
「じゃあさ、一個提案なんだけど」
「 どんな事実であっても、秘密を守れると約束できる? 」
「えっ」
過去のロエナと私が重なり、思わず言葉が詰まる。
数秒の真の後に私は問いに答えた。
「▶はい」 「いいえ」
すると、、
(ピィィィィ!ゴゴゴゴゴゴキ゜ュp゜ンゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…)
聴きなれない重低音のようなが響き、周りの空間が大きく歪みだした。
「うわぁ!何が起きてるの!?」
「ははwwほんとウケる。ほら私に捕まりな。四肢が吹っ飛ぶぞ」
大きな音とともに別の空間に変形し、謎に蠢く植物と本だらけの部屋に移り変わった。
「ようこそ、秘密の研究室へ」
続く