気の荒い旧友、気の荒そうな新友
盗賊に侵入されるという初めての事件により、シオは貴重な休みの土曜日を寮の自室で過ごすことに。
看守の見回りがいない間を見計らい、水を操る魔法をしこしこと練習していた。
水を好きな形に変形、空中で維持する。これの繰り返し。結構集中力がいる遊びだ。
「水の硬度をいじれたら南京錠の鍵でも突破できそう…」
ベッドに横たわり、課外授業で作った魔法回復薬をぐびぐび飲みながら、ブツブツ独り言をつぶやいている。
もちろん規制対象外の魔法は法律違反だ。バレたら父上(王様)にどやされ懲罰房にぶち込まれてしまう。
小さい頃、つい一時の感情で、あの嫌味お嬢様フレアの顔を水で覆い、溺死させかけたことがあり、「その力は、使い方次第で人を殺してしまうのだぞ‼」と父上にめちゃくちゃ怒られたことが今でも忘れられずにいる。
あー嫌い嫌い!
そういえば…
これは授業でも教わったこと。
城の警備はかなり厳重で、国の治安レベルは町中で子供が一人で出歩いても問題がないくらいは良いものとされていて、かなり高水準なのだと学校で教わっていた。
が、何か引っかかる
「国の警備は厳重…治安レベルは高水準…あれ」
「(バシャァッ!!!)ぶわっ!!!!」
ふいにぼーっとしていると、緊張が解け、顔に水が落ちてきた
ベッドが水びだしだ。
ん?うん。確かにそうかもしれないけど、なんだろうなぁ。
週一で街に抜け出したおなご一人見過ごすような程度で何を言う‼ ふん、バカめ!!バカひげ王め!といったところよ。
「…もしかして、こないだ酒場で、王家の血筋を毛嫌いしてるフードを被った人。
まさか、あの人…!でもあのマスターがそんな無法者を見抜けず引き入れるなんて。そんなことあるのかな」
私はいてもたってもいられず、寮を抜け出し、いつもより二割増しの警備網をかいくぐり、真昼間の酒場へ向かった。
カランカラン、、、
「マスターいるー?」
「あら…かわいい子ね。どうかなさいましたか?」
とっても綺麗で優しそうなお母さま?が出てきた。見かけない顔だ。
「ごめんなさいね。今日はお店を閉めているの。主人ならリビングにいますが」
「あっ、マスターの…!あの、いつもお世話になっております。マスターにちょっとお話がありまして」
「あ、あぁ~!!やっぱり!存じておりますわ!あなたがお友達のシオさんですね。いただいたクッキーとってもおいしかったです!わざわざこんな高級なものをありがとうございました。お茶お出ししますので、どうぞあがってください!」
「いいんですか!では失礼します!」
自然で、苦にならない社交辞令が成立している。
「マスター、やほ~」
「…!まさかお嬢ちゃんがこんな真昼間から来るなんてな。今日はガイア区に盗賊が侵入したと、憲兵から報告を受けて店を閉めてしまったんだ。それに、警備が増えているのによくここまで来れたね」
「すみません、実は昨夜店に来てた例の人のことが気になって…」
「そんなことだろうと思ったよ。いてもたってもいられなかったんだろう。
私もあの者のことを頭がいっぱいだったところだ。
あの者がその盗賊で犯人だったかは定かではないが、私には〝助けを求める"人の目をしていたように見えて、悪い奴じゃないと判断し彼女を招き入れた。丁度君みたいにね」
彼女。やっぱり女性だったんだ。てか私そんな目してたっけ…?
「相手から話はするタイプだったしな。話を聞く限り、魔法の規制に関する政治のやり方にストレスを抱えていたらしい。それで王家の血筋を引く者、要は…いや何でもない。」
ん…?
「要は…魔法事業を生業としていたことで、やりたかたことも政府に潰されたんだとか。推測でしかないがな。その恨みで犯行に至った可能性もある。あと、、、」
「あと?」
「やけに薬品っぽい臭いがプンプンしたな」
「まさか…学校に侵入して、給食に毒を盛って大勢を殺そうとしたとか…!?いやぁぁぁ!!!」
「まぁ…そいつがやったとは限らんから何とも言えんが。
手掛かりがあるとしたらその臭いだな。科学者か薬草学に精通する者の可能性が高い」
「ほえぇ…」
「もしかしたらなんだが、一つ心当たりがある。
町の西のはずれに、霧のかかっていない森に囲まれた大きなツリーハウスがあって、そこで老婆が怪しい薬を売ってるらしい。もしかしたらヒントがあるかもしれないな。ちなみに政府黙認の薬屋だ。」
老婆…怪しい薬…
黒いローブと帽子と黒釜があればピッタリだ…
「黙認ってことはとりあえず売り物は違法ではないんだね…」
「そういうことになるな。今日はもう遅いからまた今度行ってみるといい」
「はい!今日は色々ありがとうマスター!」
「そうだ、お嬢ちゃん」
「ん?」
「夜道には気をつけるんだよ」
心配してくれたのだろうか。マスターに笑顔で手を振り、その場を後にし…
ようとした帰り道、警備網がいつもより厳しいのを思い出した私はすごいゲンナリした。
私はなんとか頑張って寮に帰った。えらいぞ私。
夜の給食の時間___
「(怖゛ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!)」
毒を盛られてたらと思うとゴハンがのどを通らない。嫌だ!食べたくない!
フレア「あーーーーらシオン様ったら、貴族のレディたるものゴハンのお残しは失態of失態ですことよー!!!恥ずかしいこと極まりないですわー!!おーーーーーーーっほっh」
とか言いながらデザートのチーズを盗まれた。レディの品格もないのはアンタだ。
あーそうですかい。死んでレディになれるなら生きて殿方にでもなりますわ。
結局、シチューは残してパンだけ食べた。
翌日___
今日は日曜日。いつもの薄汚い格好を身にまとい、マスターが言っていた老婆の元へ向かう。
もちろん、休みの日であろうとも王宮の敷地外ネモネア区域に踏み入ることは許されない。
どこへ行くにも敵のアジトに忍び込んだかのような気分になる。
スケールの小さい大冒険だこと。
「町の西側、ここら辺かな」
霧がかかった森は魔物がはびこっていて大変危険らしいが、この周辺一帯の森は霧がかかっていなく、ポツンと、わっかりやすいまでのツリーハウスがあった。
「ここかな。あ、看板…」
(看板)《ローバのクスリ屋》
老婆のクスリ屋…!!!!!!!!!わっかりやすくて助かる!!!!
さぁ、勇気を出して行こう。どんな人が出てくるんだろう。
(コンコン)
「ごめんくださ~い、って…え」
???「んぁ~…?まだ6時なのに。新聞にしては早いっスね…って、あれ?」
想像していたより70歳も若い。ワインレッドの髪、片目が隠れ、タバコを咥えた白衣のお姉さんが出てきた。
「あらぁ、珍しいお客さんだこと。ローバさんの店なら昼過ぎから…って
…その眼」
「きゃぁぁぁぁ!!!!?!?」
いきなり手首をつかまれ部屋に引き込まれた。
そこで人生初の壁ドンをくらう。
「お前、
おととい酒場にいたガキだろ」
続く。